「Thinkstock」より

写真拡大

●名指し・顔写真つきで拡散した数百人分の中傷

「○○社社員の○○○は女狂いの犯罪者」「モデルの○○○は整形中毒」「○○に勤務する○○○はドラッグ、賭博、売春の常習者」――。

 今年春から夏にかけて、数百人分のこうした情報が韓国のSNSを駆け巡った。それぞれ実在の氏名、住所、年齢、勤務先に加え、顔写真までついている。名指しで個人情報を公開された人物は、ほとんどが男性だ。

 韓国警察は相次ぐ被害届を受けて捜査を開始。8月末から11月下旬までに個人情報の公開に関わった7人が、「オンライン上の名誉毀損」などで摘発された。7人のうち6人は女性で、年齢は5人が20〜28歳、1人が31歳だ。プライバシーを晒した人物との面識はほとんどなく、「犯罪者」といった情報も大半が虚偽と判明した。

●ネットを二分する「男性蔑視 vs. 女性蔑視」

見ず知らずの男性の個人情報や顔写真をSNSで公開しながら、無差別に事実無根の中傷を繰り返した女性たち――。この異様な事件の背景にあるのが、インターネットを中心に韓国社会を二分している「男性蔑視 vs. 女性蔑視」の対立だ。

 韓国のネット社会では2000年代中頃から、若い女性を「高慢で世間知らず」だと嘲笑するのがブームになった。10年代以降は、男性中心の差別主義的なネットコミュニティで女性蔑視が過激化。そこで「韓国女性=利己的な虚栄心の塊」といったイメージが量産され、ネット社会全体に浸透している。

 一方、そのカウンターとして男性を攻撃する女性専用コミュニティも、この1年ほどの間に相次いで登場した。こちらも「韓国男性=性差別主義者の犯罪予備軍」といった調子で、より過激な書き込みが寄せられている。6月には「男性上司のコーヒーに不凍液を入れてやった」とするユーザが現れ、警察に通報が寄せられたほどだ。

 今回の事件は犯人が1人を除いて全て若い女性だったことで、ネットの世論は女性批判に傾いた。だが、これに対する一部女性側の反論は激しく、現実の社会にまで噴出している。9月10・11日には、女性専用コミュニティの会員ら約50人が、ソウル中心部で警察批判のデモを繰り広げた。その主張はこうだ。

「何年も前からリベンジポルノの被害届が殺到しているのに、警察は放置している」
「SNSで女性のプライバシーを晒している男性は無数にいる」
「にもかかわらず男性が被害者になった途端、警察は即座に女性ばかり摘発した」

 これに対して韓国警察庁は「捜査と性別は関係ない」との弁明に追われている。

●10万フォロワーを集めたSNSの「告発アカウント」

 女性6人のうち5人は在宅のまま書類送検されたが、25歳の「J」は10月20日に身柄を拘束・起訴された。「犯行が重大かつ悪質」「再犯・逃亡の恐れがある」と判断されたからだ。

 タレント志望の「J」はモデルやドラマの端役などを経て、平凡な会社の非正規従業員をしていた。米資本の大手SNSでアカウントを開設したのは、今年5月。富裕層の子女らが夜遊びを楽しむソウルの地名「江南」、それと韓国で人気の芸能ゴシップサイト「ディスパッチ(Dispatch)」をもじって、アカウント名を「江南パッチ」と名づける。

「江南パッチ」は男女問わず、江南のクラブに集まる裕福な若者、成功した実業家、芸能人らを狙った。「インテリぶっているが実は低学歴」「整形中毒」「海外売春の常習者」――。ハイクラスな人々の「暴露話」はすぐ大きな反響を集め、数カ月で10万超のフォロワーを獲得。やがて閲覧者からも情報と画像を集めて公開するようになった。「J」に虚偽の情報を大量に提供していた24歳のモデルも、摘発された5人のうちの1人だ。こうして被害者は約120人まで膨らんだ。

 供述によると、犯行のきっかけは「江南のクラブで中堅財閥会長の孫娘と知り合ったこと」。「J」はこの孫娘を皮切りに、恵まれた人々の中傷で日々の鬱憤を晴らしていたという。

●「女性の敵」を吊るし上げる無差別ゲーム

「江南パッチ」が話題を集めると、同じSNSで模倣犯が次々に登場した。ここから次第にターゲットが男性に絞り込まれ、「犯罪常習」「DV男」といった根も葉もない罪状で吊るし上げられるようになる。つまり「女性の敵に制裁を与える」という大義名分の下、不特定多数の男性に対する無差別リンチがブーム化したわけだ。

 そんなアカウントの1つで8月末に書類送検されたのが、「韓男パッチ」。「韓男」は韓国男性を嘲笑するネットスラングが語源だ。アカウント所有者で無職の「Y」(28歳)は閲覧者から情報を募り、不特定多数の男性の氏名、勤務先、顔写真を公開。「初デートで強引に迫った」「デートの相手を酔わせて暴行した」「売春マニア」などと虚偽の告発を繰り返した。「Y」は整形手術の結果をめぐって病院と訴訟トラブルを起こしたことがあり、男性医師への恨みからネットでの中傷に耽るようになったという。

「韓男パッチ」に続いて6月下旬に登場したのが「性病パッチ」。「性病パッチ」は名前の通り、不特定多数の男性を「性病患者」と名指しするアカウントだ。所有者の「K」(20歳)は9月上旬に書類送検された。「K」は自身が性病にかかった経験があり、その「トラウマ」から性病の男性を告発したかったと供述している。

●大手メディアも戦々恐々の「男女対立」

 女性卑下を繰り返す男性中心のコミュニティを狙い撃ちにしたアカウントもある。同じく9月上旬に書類送検された31歳の「L」は、6月下旬に「在基パッチ」というアカウントを開設。40人あまりの男性を差別主義的な保守系コミュニティの会員だと名指しし、買春や援助交際をしていると告発した。アカウント名の「在基」は、女性の人権保護・優遇政策に反対してきた男性活動家・成在基(ソン・ジェギ)に由来する。成在基は13年に政治パフォーマンス中の事故で死亡したが、その名前は後に韓国男性を卑下するスラングとなっている。

 最新の摘発例は11月末、やはり不特定多数の男性を中傷していた23歳女性が書類送検された。これまでに摘発された7人はみな、米資本のSNSで活動すれば韓国警察に個人情報がばれないと考えていた。前述の通りリベンジポルノへの被害届は、サイトのサーバが海外にあるという理由で摘発が進まなかった経緯もある。だが、韓国警察庁サイバー安全局国際協力チームによると、今回の事件では米資本のSNSが捜査要請に応じてユーザ情報を開示。そのため短期間でアカウント所有者の身元が特定できたという。

 もっともこの説明で、女性活動家らが納得する気配はなさそうだ。また男性側も反撃として、韓国女性を攻撃する「○○パッチ」を無数に開設している。11月下旬にはそのうちの1人で30歳男性が書類送検され、初の男性の摘発例となった。

 大手メディアも「男女対立」をめぐる攻防と無縁ではない。たとえば「彼氏がクルマを持っていないことを女性がボヤく」というCMに、男性側から「所得格差を是認する差別表現」との非難が殺到した例がある。また女性に避妊の徹底を呼びかけた公共CMは、「妊娠は男の責任」として女性側からバッシングされた。過激化する韓国の男女対立は、ますます多方面で猛威を振るっていくことになりそうだ。
(文=高月靖/ジャーナリスト)