by Abdul Rahman

アメリカのイエローストーン国立公園には「Zone of Death(死のゾーン)」と呼ばれている地帯が存在します。Zone of Deathではたとえ人を殺したとしても罪にならず、「完全犯罪」が成立する可能性があるとのこと。なぜこんなことが起こるのか、YouTubeで解説ムービーが公開されています。

How you could get away with murder in Yellowstone’s “Zone of Death" - YouTube

イエローストーン国立公園はそのほとんどがワイオミング州(黄色)ですが、一部はモンタナ州(水色)とアイダホ州(青)に属します。



この時、アイダホ州に属する部分は50平方マイル(130平方キロメートル)ほどなのですが、「Zone of Death(死のゾーン)」と呼ばれていて、殺人犯が罪を逃れるための法律の抜け穴になっています。



どういうことかというと、イエローストーン国立公園は属する州と行政の管轄にズレがあるのです。そもそもイエローストーン国立公園が設立されたのは1872年のことで、モンタナ州・アイダホ州・ワイオミング州ができる前でした。



1872年から今に至るまで、イエローストーン国立公園は連邦政府の所有地です。



アメリカ国内には連邦政府の所有地が点在しますが、複数の行政地域にまたがっているのはイエローストーン国立公園のみ。



2005年、法学教授のBrian C. Kalt氏は「完全犯罪」というタイトルの論文を発表しました。これはイエローストーン国立公園を利用することで、殺人を犯した人でも罪にならない、完全犯罪が成立することを指摘するものでした。



Kalt氏によると、イエローストーン国立公園は、一部がモンタナ州やアイダホ州に属するとしても、公園全体がワイオミング州の地方裁判所の管轄であるとのこと。



ここでKalt氏は、「では犯罪者がアイダホ州に属する50平方マイルの部分で捕まったらどうなるのか?」と疑問を投げかけます。



イエローストーン国立公園はワイオミング州の管轄内なので、捕まった犯罪者はまず、ワイオミング州の州都であるシャイアンに送られます。シャイアンはワイオミング州地方裁判所の中枢だからです。



しかし、アメリカ憲法3条2項には「裁判は犯罪が行われた州で行わなければならない」とあります。そのため、殺人者は「裁判はアイダホ州で行わなければいけない」と訴えることができます。



この主張により、殺人者はアイダホ州に移送されることになります。移送自体は難しいことではありません。



しかし、合衆国憲法修正第6条には「被告人は、犯罪が行われた州及びあらかじめ法律で定められる地区の公平な陪審によって行われる、迅速な公開裁判を受け、また公訴事実の性質と原因とについて告知を受ける権利を有する」とあります。ここで問題となってくるのは、「犯罪が行われた州及びあらかじめ法律で定められる地区の公平な陪審」という言葉。



通常は犯罪が行われた「州」と「あらかじめ法律で定められる地区」が一致するのですが、イエローストーン国立公園内の50平方マイルの土地は、「アイダホ州」に属しながら「ワイオミング州」の管轄内なのです。そのため、以下のベン図で示された、ワイオミング州とアイダホ州の重なりの部分から陪審員を選ぶ必要があります。



つまり、陪審員はイエローストーン国立公園のアイダホ州に属する部分から選ばれないとならないのですが、ここで問題なのが、該当地域には誰一人住んでいないということ。



つまり法律に従うと、陪審員が不在のため裁判を行うことができず、殺人者を解放しなければならないのでは?ということになります。この問題に対してKalt氏は数々の解決案を提案していますが、いずれもまだ実行されておらず、法の抜け穴は存在し続けています。



もっとも現実的な解決案としては、イエローストーン国立公園のうち、ワイオミング州に属する部分はワイオミング州の管轄内に、アイダホ州やモンタナ州に属する部分はそれぞれの管轄内にするという、「管轄地域の境界線を引き直す」ことが挙げられています。