BYDの電気自動車「秦EV」。上海のディーラーにて筆者撮影


 前回の記事「中国のEV市場が驚くほど急拡大した理由」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48423)に引き続き、中国の電気自動車(EV)市場の現状を現地からお伝えしたいと思います。

 前回は、主に補助金政策に視点を当てて、EVに対する国別の支援策の違いや、急拡大する中国市場に対して後れを取りつつある日本の現状を取り上げました。

 今回はよりミクロな視点で、現在の中国市場で人気の高いEV車種、また消費者がEVを購入する際にチェックすると思われる性能やセグメントについてデータを分析してみました。

 その結果、中国のEV市場では、環境性能や走行時の電気代以上に初期購入費用(イニシャルコスト)が重視されており、同時に、小型車から大型車へと消費者の嗜好が移りつつあるという傾向が分かりました。

売れている新エネ車はほとんどがEV

 まずは現在の中国市場におけるEV販売データを改めておさらいしましょう。

 中国汽車工業協会によると、2015年における中国市場の新エネルギー車(新エネ車)販売台数は33.1万台に上り、前年比で実に4.4倍となる大躍進を遂げました。このうちEVの販売台数は同5.5倍の24.7万台、プラグインハイブリッド車(PHV)の販売台数は同2.8倍の8.3万台となり、販売台数でEVがPHVの約3倍に達しました。

 翌2016年は、同じく中国汽車工業協会発表のデータによると、2015年ほどの急激なペースではないものの、1〜10月における新エネ車の販売台数は前年同期比82.2%増の33.7万台、そのうちEVの販売台数は同102.5%増の25.8万台、PHVは同37.2%増の7.9万台となり、前年に引き続きEVがなおも主流となっています。

 では、実際にどのようなEV車種が人気を博しているのか。右の表は全国乗用車市場信息聯席会調べによる2016年10月における中国市場のEV、PHVを含む新エネ車の車種別販売台数順位です。

 車種別トップテンは、10位の「BYD 秦」がPHVであるのを除くと、全車種がEVで占められています。中でも1位の「北京汽車 EUシリーズ」と2位の「BYD e6」が販売台数で3位以下を大きく突き放しているのが目立ちます。

(*配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで本記事の図表をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48539)

中国EV市場をリードする3社

 メーカー別では「北京汽車」「BYD」「衆泰汽車」の3社の車種が数多くランクインしています。実際にこのメーカー3社は名実ともに中国EV市場をリードする主要メーカーであり、その動向は常に業界から高く注目されています。

 中でも「BYD」こと比亜迪汽車銷售有限公司は世界で初めてPHVの量産を手掛け、EVでも(私の記憶が間違ってなければ)三菱自動車に続いて世界で2番目にEVの量産を開始するなど、新エネ車市場において中国はおろか世界的にもリードし続けているパイオニアです。

 同社は元々2次電池メーカーとして出発してから自動車事業へ参入してきたという異色の経歴を持ちます。そうした背景もあってか、新エネ車の開発、量産事業に早期から取り組んできました。現在においても、独ダイムラーと技術提携して共同開発車を出すなど、国内外から中国の新エネ車の代表的メーカーとして認知されており、その販売ラインナップも広範囲に及んでいます。

EV市場は民族系ブランドの独壇場

 販売台数で上位に入っているメーカーすべてが、外資系自動車メーカーとの提携によって設立された合弁ブランドではなく、中国系自動車メーカー、いわゆる民族系ブランドである点は注目に値するでしょう。

 中国の自動車市場は、フォルクスワーゲンやゼネラルモーターズなどといった世界大手との合弁ブランドが常に市場シェアの大半を占めており、一方、技術力やブランド力に劣る民族系ブランドのシェアは小さいのが常です。

 しかしEV市場に関しては、状況が異なります。どの民族系ブランドも、合弁メーカーと比べ会社規模が小さいながらもEVの開発と量産には力を入れており、川上の関連部品産業も含めこの方面で確実に実力を高めつつあります。

 その背景には、合弁メーカーが中国市場でまだ本格的に現地生産に入っていないこと、また、前回もお伝えしたように、中国政府も民族系ブランドに対して手厚い補助金政策を行っていることがあると思われます。

「1回の充電で200キロ」が1つの基準

 続いて、主要EV車種の性能を見ていきましょう。

 上の表は、中国市場における主なEV車種の各主要諸元の公開情報と価格を筆者がまとめたものです。参考までに日本市場で販売されている日産自動車の「リーフ」とテスラモーターズの「モデルS」の諸元も併記しました。なお、東風日産の「晨風e30」は「リーフ」をベースにした現地モデル車ですが、見ての通り一部仕様が異なるため、別車種として記載しております(下の写真)。

日産「リーフ」の中国モデル車「晨風e30」(出所:Wikipedia)


 まず、EVで最も重要視される諸元とくれば、言うまでもなく「充電1回当たりの走行距離」でしょう。ガソリン車と比べて充電に時間がかかりやすいEVにとって最大のボトルネックであり、消費者もまずはこの数値を見てから購入の検討に入ると思われます。

 その走行距離ですが、上の表にある各EV車種の大半で200キロメートル以上となっており、この数値が市場で1つの大台となっていることが分かります。低価格を売りにした小型のEVはさておき、一定水準のEVに求められる距離は「200キロメートル」が1つの基準となっているといえます。

ランニングコストよりイニシャルコスト

 走行距離に続いて注目すべき点は、やはり価格です。

 表を見てお分かりいただけるように、EVの価格帯は250〜400万円前後です。ガソリン車に属する民族系ブランド車種の価格帯は日本円で100万円前後が多いことを考えると、かなりの割高感があることは否めません。

 ただし政府の補助金込みで考えると、「充電1回当たりの走行距離」が150キロメートル以上のEVですと通常150万円程度の補助金が支給されるため、実際のイニシャルコストはほかの車種とはほとんど大差がなくなる計算となります。こうした点が近年のEV市場急拡大につながっていると考えられます。

 逆を言えば、EVの宣伝に多い環境性能や、ランニングコスト(走行時の電気代)に対しては、中国の消費者は購入する際にそれほど意識していないのではないかと思われる節があります。

 そう考えるのも、どのメーカーのオフィシャルサイトでも1キロメートル当たりの走行に使用する電力量の比率を表す「電費性能」に関する記述がなく、環境に対するアピールもそれほどみられないからです。

 普及を促す政府にとってEVは環境対策としての意義が大きいものの、実際に購入する消費からすれば、環境云々以前に、購入時のイニシャルコストや車体のデザイン、利便性により重きを置いているということなのかもしれません。

大型車種の販売シェアが増加傾向

 次にセグメントで見た場合、大半のEV車種が軽もしくはコンパクトカーであることに気付かれると思います。特に軽車種だと日本でも珍しい2人乗りのEVが中国市場には多く、販売台数でも低価格の優位と相まって、小型車種ほど販売台数上位につけている状況がみられます。

 小型車種が売れ筋となっている理由としては、1回の充電当たり走行距離がやや限られているものの、日本と違って中国では軽自動車のような安価な大衆車市場がこれまであまり開拓されていなかった背景から、イニシャルコストの低さと相まって街乗り用のセカンドカーと割り切り購入する層に受け入れられた点などが挙げられるでしょう。

 ただ、EVセグメントの売れ筋は現在は小型が主流ですが、大型の車種に消費者ニーズが移りつつある傾向も報告されています。

 上の表はリチウム電池業界シンクタンクの鋰電大数据の調べによる車体全長を基準に取ったセグメント別EV販売台数シェアの表です。この表によると、A00、A0セグメント(全長2.00〜2.45m)のシェアは2015年通年の87%から徐々に減っていき、2016年通年では65%にまで落ち込んでいます。一方、A、Bセグメント(全長2.45〜2.75m)の販売台数は2015年から2016年で13%から35%へと約3倍に成長しており、EVの中でも大型車種の販売が徐々に伸びてきている傾向がはっきり出ています。

 筆者がみていても、このところ各メーカーが発表するEVの新車はスポーツタイプ多目的車(SUV)やミニバンといった比較的大型の車種が明らかに増えています。日本を含め世界的にSUV人気が高まり、販売も増加していることを考えると、EVの大型化傾向は今後も続くように思われます。

大衆車か?プレミアムカーか?

 ここまで、世界最大のEV市場である中国の現況について、各種データの分析を行ってきました。分析の中で筆者が重要と考えるポイントは大きく2つあります。

 1つ目は、中国の消費者は購入時に環境性能についてそれほど意識はしていないということです。

 つまり、メーカーがいくら環境性能をアピールしたところで、結局は価格や利便性といった費用対効果こそが購入する際の最大の決め手だということです。それは筆者が一消費者の目線に立ってみてもうなずけます。「環境にいい車」であることが購入の最大の決め手になるとは思えません。

 2つ目は、現在売られているEVは小型車種が主流ですが、今後は、より大型の車種が人気を増す可能性が高いということです。

 EVの開発、販売で世界をリードするテスラモーターズは、比較的大型な車体でプレミアムカーとして売り出したことで成功を収めました。そのことを考えると、非常に安価で購入しやすい大衆車と、付加価値の高いプレミアムカーに、EV市場は今後二極化していくのではないかと思われます。

 最後に、日系メーカーのとるべき戦略について筆者の個人的な考えを述べます。もしも安価な大衆車としてEVを開発した場合、世界市場ならともかく、日本市場では軽自動車と激しく競合することが予想されます。そのため、あえて数を追うのではなく、付加価値の高いプレミアムカーとしてEVを開発していき、ブランド力を高めて世界市場に打って出るべきではないか、というのが筆者の意見です。

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筆者:花園 祐