吉田カバンの新商品展示会風景

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 世代を超えてビジネスパーソンに人気の吉田カバン(株式会社吉田)が、11月11日までの4日間、東京都内の本社ビルで2017年春夏シーズン向けの「新商品展示会」を開催した。同展示会は関係者向けで、新商品が一般向けに発売されるのは2017年3月頃の予定だ。

 最終日に訪れた筆者は、会場で同社経営陣と意見交換をした。そのなかで興味深い内容があったので、今回はそれらを紹介しながら、消費者意識の変化を考えてみたい。

●スーツ姿でリュックを背負う会社員が増えた

 最近、首都圏の駅や電車を利用して感じるのが、スーツ姿でリュックサックを背負って通勤する会社員が増えたことだ。これまでも一定層いたが、肌感覚では目立って増えたように感じる。

「スーツに合わせるリュックサックも四角いタイプが増えました。書類が曲がらずにきちんと入るという長所が大きいと思いますし、カジュアルさが薄まるのも人気の理由だと思います。いわゆる横型の3WAYタイプからの変化といえるかもしれません」(吉田・取締役企画本部長、桑畑晃氏)

「3WAYタイプ」とは、「手で持つ/肩にかける/背負う」といった3種類の用途ができるカバンで、「肩にかける/手で持つ」ことができるタイプは「2WAY」と呼ぶ。荷物の量やその日の気分でカバンの持ち方を変えたい人もいるからだ。

「最近の傾向で興味深いのは、3WAYタイプを購入するお客でも、カバンの購入時にショルダーストラップがついているかどうかを意識しない人が多くなったことだ。つまり、『手で持つ/リュックにする』の2つの用途があればショルダー部分はいらないと考える人も増えているようです」(同)

 ショルダーストラップをいらないと思う理由は人によるだろうが、片方の肩だけに負担がかかるのを好まない人も多いようだ。

 ビジネスパーソンの通勤バッグも、かつては革製が多かったが、近年は布カバンが主流だ。戦前から革のカバンをつくってきた吉田カバンは、新たな切り口の革製も提案しており、展示会では同社の看板ブランド「ポーター」から、「ポーター ディライト」というシリーズを発表した。同商品はシュリンクレザーと呼ばれる革とナイロンテープの組み合わせでカジュアル感を打ち出している。後述する「時代性」を見据えた提案かもしれない。

●ビジネスシーンで進む「カジュアル化」

 クールビズですごした夏や秋が終わり、上着が心地よい時季となったが、ビジネスパーソンの仕事服もカジュアル化が進んでいる。金融機関など固い業種の会社員はともかく、以前に比べて冬でもスーツを着る人が減り、ネクタイをしない会社員が増えた。

 若い世代だけではない。先日会った中小企業の役員を務める60代男性(元大手企業の役員)は、こんな話をしていた。

「もう何年もスーツは買っていません。代わりに買うのがジャケットで、近年はジャケットにパンツスタイルで会社に行くようになりました」

 アパレル業界について意見交換をするなかで出てきた言葉だが、この人のように、いわゆる「ジャケパン」で仕事をする人が中高年世代でも増えているのだ。

 そうした消費者意識の変化もあり、スーツ市場は縮小している。4月12日付本連載記事『スーツが売れない…地獄的不況の業界で、2着4万円オーダーメイドがバカ売れの店が!』でも紹介したが、紳士用スーツは2007年度の3099億円をピークに市場が縮小し、13年度は2183億円にまで落ち込んでいる。

 スーツ姿でリュックという通勤スタイルも、ジャケパン愛用の消費者心理に近いものがある。ただし、夏のクールビズの基本スタイルがポロシャツを含めた「襟付きのシャツ」となり、一部の自由な職場を除いてはTシャツ姿で執務とはならなかったように、カジュアル化も、なんでもありとはいかないようだ。

●キャリーバッグもソフトケースタイプが人気となるか

 1935年に創業された吉田カバンは、2015年に創業80年を迎えた。当時は写真のように本社ビルのディスプレーもそれを打ち出していた。それに比べると、今回はアニバーサリー感を打ち出したコラボレーション企画も少なく、展示内容のコンセプトも「次なる時代に向けて」(同社)だという。

 そんななかで同社が打ち出したひとつが、「ポーター ハイブリッド」シリーズから10シーズン(5年)ぶりに発表したキャリーケースだ。「これまで四角いタイプが多かったのですが、軽くて丈夫なボストンキャリーバッグタイプを提案しました」(同社)

 パソコンやモバイル機器などカバンに入れる荷物が増えるにつれて、出張時でなくてもキャリーバッグを持ち運ぶ人が増えた。そうなると、カバン自体も軽量化が求められる。1983年の発売以来、大ベストセラーとなったポーター「タンカー」シリーズでビジネスバッグの軽量化・ソフト化を提案した同社らしさも感じられる。

「流行ではなく『新しさを提案する』のが当社のDNA」という吉田カバンだが、将来の消費者心理の変化をどう見据えていくのか。ビジネスパーソンの人気が非常に高いブランドだが、今後の課題のひとつは「アパレルにカネを使わなくなってきた消費者」との向き合い方かもしれない。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)