有名人の薬物報道は<再犯を助長>?(shutterstock.com)

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 マスコミ報道によるプライバシーの侵害は、どこまで許されるのか? 覚せい剤取締法違反(使用)容疑で警視庁に逮捕された歌手・ASKAを巡る、取材手法や報道内容に疑問が寄せられている。

 11月28日の逮捕の際には、ASKAの自宅前に多くの報道陣が押し寄せ、車庫から出ようとする車に人が殺到。折れたベンツのエンブレムが地面に落ち、報道陣に踏まれるようすまで映し出されていた。

 再逮捕を報じるテレビ番組のなかには、逮捕直前に乗ったタクシーの車内映像まで公表。タクシーの運行業者が提供したものと見られる。

 タクシーに搭載されたドライブレコーダーに、ASKAがスマホを見たり、行き先を指示するようすや、運転手に止まる場所を教えるところが記録されていた。

 ドライブレコーダーは事故などの万一の場合のため、警察等に提出するために設置されているもの。マスコミの求めに応じて差し出すのは、明らかに本来の使い方を逸脱している。視聴者の抗議を受けたタクシー会社は、ホームページに謝罪文を掲載した。

 テレビ番組『情報ライブ ミヤネ屋』では、芸能リポーターの井上公造が、ASKAから送られたという楽曲の音源を公開。未発表の曲を作者に無断で公開するという振る舞いにも、疑問の声があがった。

薬物依存の専門家も苦言

 芸能人の覚せい剤使用が発覚するたびに、メディアの報道は加熱する。そして、さまざまなコメントが飛び交うマスコミのあり方に、国立精神・神経医療研究センター・薬物依存研究部部長の松本俊彦医師は、苦言を呈している。

 薬物依存研究の第一人者であり、治療プログラム「SMARPP(スマープ)」の発案者でもある松本医師は、当サイトのインタビューで、女優・高島礼子の夫だった高知東生の逮捕報道を例に挙げて、このように語っている。

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 高知東生さんが逮捕された時に、集まった報道陣に「ありがとうございます」と言ったことに対して、あるタレントがテレビ番組で「ふざけるな」と批判していました。

 「反省が足りない」と言うのが、その方の理由です。逮捕されたその瞬間だけは、「これでやっと薬をやめられる」と思い、お礼の言葉が口からついて出てしまうというのは、薬物依存症患者には普通にあることなんです。

 この言葉は、それだけその人が悩んでいた、苦しんでいたことを示すものであることが多いのです。それなのに、どうして、薬物に対してあまり知識のない人が、そのようなコメントをするのか、残念に思いました。

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再犯を助長する有名人の薬物報道

 さらに松本医師は、有名人の覚せい剤事件を報じる時に挿入される、注射器や粉末などのイメージ映像が、薬物依存症の患者の再犯を助長する可能性があると警鐘を鳴らす。

 薬物の使用を連想させる映像が目に触れることで、<いま必死で薬をやめようとしている多くの患者の渇望を呼び覚ましてしまう>からだ。

 松本医師は、有名人の薬物報道が一般視聴者に<クスリの怖さ>を伝える役割があることを認めつつも、マスコミには薬物依存に苦しむ当事者の視点も自覚してほしいとコメントしている。

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 私は、<薬物疾患は慢性疾患>だと考えています。だから、芸能人がクスリでつかまると、マスコミが「栄光と堕落」とか「調子に乗っていたからこういうことになった」など、その人の生きざまや人格をすべて否定するような報じ方にも、違和感を覚えます。

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 ASKA再逮捕では、各局とも民間リハビリ施設のダルクの職員を出演させるなど、薬物問題の解説を試みている。だが、一般視聴者の興味や関心にこたえることが主眼であって、薬物依存に苦しむ当事者の視点が抜け落ちていないだろうか。

 当然ながら、薬物事件の容疑者にも配慮すべき報道のモラルは存在する。マスコミに携わる者は、自らの持つ影響力がときには人の人生を左右することを、いま一度思い返すべきではないだろうか。
(文=編集部)