トマーシュ・ベルディヒ(チェコ)の時速200キロ超のサーブを完璧なタイミングで次々に跳ね返し、リターンウイナーを連発する。翌日のニック・キリオス(オーストラリア)戦ではコートを縦横に走り、最後はネット際でボールに飛びつきスーパーボレーを叩き込む。あるいは、すべてのショットでウイナーを奪いにくるキリオスの強打に一歩も引かず、意地のぶつかり合いとなった激しい打ち合いを、力で相手をねじ伏せ制する――。

 あまりに豪快にして、切れ味鋭い錦織のめくるめくプレーの連続に、2度のグランドスラム優勝を誇る元世界1位のマラト・サフィン(ロシア)ですら、驚きと興奮を隠せなかったという。

「すごくいい内容の試合が、昨日、今日とできた。去年よりはチームに貢献できたかなと思うし、楽しくプレーできました」

 獅子奮迅の活躍を見せたIPTL(インターナショナル・プレミア・テニス・リーグ)での2日間を振り返り、錦織圭は紅潮したほほに満足そうな笑みをともす。しかし同時に彼は、冷静にこうも述懐した。

「毎回こういう試合ができればいいんですが、本当の試合はプレッシャーもありますし、こんなに気楽にできないですが......。でも正直、1週間くらいテニスもしていないなか、自分でもここまでプレーできてびっくりしています。本当に強くなっているんだなと実感できました」

 この錦織の言葉は、彼がすでに手にしているものと、これから獲得しなくてはならないもの、双方をくっきりと浮かび上がらせる。

 すなわち、彼自身が改めて自覚したように、「本当に強くなっている」という事実。しかし、時として実戦特有のプレッシャーに阻まれ、そのすべてをコート上で表現しきることができないという現実だ。

 錦織が持つものと持たざるものを、奇しくも今回のIPTLで端的に指摘したのは、昨年に引き続き今年もチームメイトとしてともにコートに立ったサフィンである。

「錦織が今後、グランドスラムで優勝するのに必要なものは何だと思うか?」

 そう問われた2度のグランドスラムホルダーは、真摯な口調で自らの想いを述べた。

「今は上位勢が少しずつ衰えを見せ、下からの突き上げはそこまで強くないという、彼にとって非常にチャンスのある時期だ。その機を、しっかり掴まなくてはいけない。そのことは彼もわかっているはずだ。ただ、ケイはもう少し成熟する必要がある。彼は勝つために必要なカードをすべて手もとに備えているのに、もっとも重要な場面で自分を信じきることができていないように感じるからだ」

 まるで錦織の認識を裏打ちするかのような、元世界1位の示唆に富む言葉。そしてサフィンが挙げた「重要な場面で自分を信じる力」こそは、錦織自身が今、何より欲しているものでもある。

 約2週間前にATPツアーファイナルズで今季の公式戦全日程を終えたとき、錦織は今後改善したい点として、次のように語っていた。

「集中しなくてはいけない場面を見極められたり、ブレークポイントをしっかり取れるようになったり......そこが一番、今いるところ。一番はメンタル面だと思います」

 また、今回のIPTLでの会見時にも、これから迎えるトレーニング期間について、「来年いいスタートを切るためにも、さらに自信をつけたい。この大会もそうでしたが、どれだけ練習やトレーニングを蓄積するかで自信は出る。この12月、練習して自信をつけたいと思います」と、その重要性と要諦を明言した。

 サーブなど技術面の改善や見直しの必要性に触れつつも、錦織はこのわずか2〜3週間の間に幾度も「メンタル」「自信」を、さらなるステップアップのカギとして口にしてきた。かつて彼が、これほどまでに内面の強さへの渇望を露わにしたことは、なかったように記憶している。

 今回のIPTLでライバルやレジェンドプレーヤーたちをも驚嘆させた圧巻のプレーの数々を置き土産に、彼はまた、プレッシャーと数多の野心と闘争心が渦巻く孤独な戦地へと戻っていく。今大会の終わりにコート上でマイクを向けられた錦織は、息を弾ませながら、今年最後の挨拶をファンに送った。

「僕はまたアメリカに帰ってトレーニングに入りますが、またどこかで、テニスを見に来てください!」

 再開のその日までの、しばしの別れを告げる言葉――。それは、次に会うときまでには追い求めるものを手に携えて帰ってくるという、清い約束のようにも響いた。

内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki