子どものころに夢見た職業につけた人はどれくらいいるのだろう? おぼろげに思い描いていた夢がいつしかしっくりこなくなったり、やっぱり無理だと諦めたりした人も多いかもしれないが、ユカイ工学代表の青木俊介氏(以下、青木氏)は中学2年生のころに心に決めた夢を実現させている。

夢のきっかけは「ターミネーター2」

 「中学2年生のときに映画『ターミネーター2』にはまったんです。その中に人工知能をパソコンで作っているエンジニアが出てくるんですが、それがすごくかっこよかったんですよ。それからこういう人になろうと思って、ロボットを作りたいと思うようになりました」

 そう話す青木氏の目の前には、同社の開発した最新型のロボット「BOCCO(ボッコ)」がいる。

 2007年に創業したユカイ工学は、これまでパソコンにつないでかわいがることのできる手のひらサイズのロボット「ココナッチ」や、iPhoneやiPadのためのツールキットである「konashi」などを発表している。

 ココナッチは卵のような丸みを帯びたロボットで、メールなどを受信すると音や動きでお知らせしてくれる。また、konashiはフィジカルコンピューティングツールキットでソフトウエアエンジニアやデザイナーが手軽にプロトタイピングを行うことができ、どちらも発表直後から注目を集めていた。

 ユカイ工学の歴史は、IPA(情報処理推進機構)から未踏プロジェクトの採択を受けて、開発資金を獲得したところから始まる。そして、今年6月にけいはんなATRファンドからの1億円の資金調達をするまでは外部の資金を入れこなかった。

 このファンドは、もとはNTTやKDDIを株主とした研究機関で音声処理に強い。「音環境知能技術」などをBOCCOに取り入れることを目指しての投資だという。これまで、ユカイ工学は外部から受注した受託開発で会社を回していたが、ここから自然な会話を実現する家庭内ロボットの開発を加速させる。

 

  ユカイ工学の代名詞とも言えるBOCCOも、コミュニケーションを円滑にすることを目的とした家庭内ロボットだ。アプリと連動し、預かった伝言を離れた場所にいる人へ伝えることができるほか、設置したセンサーが玄関の開閉を教えてくれる。1人で留守番をする家族と簡単にコミュニケーションできるので子どもを持つ人を中心に注目を集めている。

 「ずっとロボットを作りたいと思っていて、大学時代は人工知能を学んでいました。そのまま大学に残ろうかなとも思っていたんですが、同期で起業しようよ、という話になったんです。そしてチームラボを創業することになるんですが、創業の2000年当時はロボットがビジネスになるというイメージも世間にはあまりなかったように思います」

 青木氏は2001年にチームラボの立ち上げに参加し、CTOとしてソフトウエアの開発を行っていた。チームラボはエンジニア、数学者、建築家、デザイナー、アニメーターなど様々なスペシャリストから構成されている「ウルトラテクノロジスト集団」。美術館やイベント会場など様々な場所でデジタルを駆使した作品を発表しているのでご存知の方も多いだろう。

 青木氏はその後2006年にチームラボを離れ、中国留学を経てユカイ工学を設立する。

満を持してロボットの市場が登場

 研究対象だった人工知能やロボット。それが変わったのはpepper(ペッパー)登場だと青木氏は言う。

 「ペッパーは先駆者ですよね。ロボットのマーケットがある、ということを知らしめた印象的な瞬間だったと思います。ですが、そこには技術的な必然性があるんです。以前にもASIMO(アシモ)やAIBO(アイボ)が登場していましたが、そこから急にペッパーが登場するわけではありません。小型のモーターの誕生やリチウムイオン電池の登場、そしてCPUチップが小型化するなどいろいろな技術の進歩がありました。それぞれの技術が追いついてペッパーが登場したというわけです」

 そのほかにもカメラやセンサーが安価になったためドローンが生まれるなど、研究の対象であった技術がマーケットにダイレクトに影響する出来事が次々と起こり、世間はそのたびにざわつく。

 「最近では顔認証によって家族の顔を認識し、相手によって違う反応もできる家庭用ロボットJIBO(ジーボ)やアマゾンの人工知能スピーカーであるEcho(エコー)などネットワークを前提にしたロボットが登場しました。どちらもiPhone のSiri(シリ)やOK Googleのように個人が使うものではなく、家の中に設置し家族で使うものというのも特徴のひとつでしょう。音声認識もクラウドを使ったネットワーク機能が進化しているのでよりコミュニケーションできるロボットが登場しています。これもすべて急に登場したわけではなく、技術の進化によって必然的に生まれたというわけですね」

 ロボットの市場が登場した現在で、青木さんが期待する未来とはどういうものだろうか。

2025年までにロボットが普及する社会を目指して

 ユカイ工学のビジョンは「2025年ロボットがすべての家庭に1台ずつある世界」。BOCCOも拡張可能な設計で、Linux OSが作動しているためセンサーも進化していくため、今後も発展させていきたいと青木氏は言う。

 「BOCCOの裏コンセプトは座敷童(ざしきわらし)なんですよ。家に置いておくと、家の人が幸せになるようなロボットを作りたいと思いました。名前も東北弁で子どものことを『ぼっこ』と呼ぶことからきています。スマートフォンやタブレット、パソコンはコミュニケーションを便利にしてくれますが、その一方で家族間などのコミュニケーションを希薄にしているような出来事もありますよね。

 リビングで団らん中に、お父さんがスマホを触っていて奥さんが怒ったり・・・(笑)。個人が使うようにデザインされているので、近い人とのコミュニケーションを邪魔にしているんですね。そこを解決していくのはデザインそのものを変えていかないといけません」

 また、青木氏にとってのIoTはロボットのことだと言う。
 「インターネットとつながることで、極論的にはすべてがロボットであると言えると思います。モノがロボットになっていくというイメージですね」

 中学2年生のころからロボットだけを追い求めた青木氏の未来は、やはりロボットなくしてはあり得ない。

 「究極のIoTは『このロボットを置いておくとなぜか夫婦円満になるよね』と言えるようなモノですね。便利さを追求することで、身近な人とのコミュニケーションが希薄になってしまう、いまのデザインを変えて、より円満に過ごせるような生活をIoTで実現できればいいなと思います」

 技術が進化し、ロボットが切り離せない社会がやってくる。2025年、どのような世界が待っているのだろうか。

<プロフィール>
 青木俊介

ユカイ工学株式会社 代表

東京大学在学中に、チームラボを設立、CTOに就任。その後、ピクシブのCTOを務めたのち、ロボティクスベンチャー「ユカイ工学」を設立。ソーシャルロボット「ココナッチ」や、フィジカルコンピューティングキット「konashi」などIoTデバイスの製品化を多く手がけている。2014年には、家族をつなぐコミュニケーションロボット「BOCCO」を発表。

 

筆者:IoT Today