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●現行プリウスで初採用のTNGA
昨年末に発売された新型「プリウス」で初採用され、まもなく登場するクロスオーバーSUV「C-HR」にも導入されるトヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)。新世代プラットフォームのことだと思っている人もいるようだが、実はそれ以上に深い意味がある。TNGAとは一体、何なのか。それは技術というより哲学とでも呼ぶべきものだ。

○略語あふれる自動車業界、TNGAの特徴は?

自動車のメカニズム用語では、アルファベット3文字がよく使われる。クルマに詳しくない人でも、ABSやCVTなどは知っているだろう。ちなみにABSはアンチロック・ブレーキ・システム、CVTはコンティニュアスリー・バリアブル・トランスミッションの頭文字だ。どちらも長くて読みにくいし書きにくいから、省略形が一般的になったのかもしれない。

これに限らず自動車用語は長い外国語を使うものが多い。だからオートマティック・トランスミッションはATあるいはオートマ、エア・コンディショナーはACあるいはエアコンなど、略すことが多い。それがさらに長くなったので、現在は3文字用語が多くなりつつあるようだ。

ABSやCVTは世界統一用語なのでまだいいが、混乱するのはブランドによって異なる名称を用いる技術があること。たとえば横滑り防止装置は、トヨタ自動車はVSC、日産自動車はVDC、本田技研工業はVSAとまちまちだ。デュアル・クラッチ・トランスミッションや衝突被害軽減ブレーキにも同じことが言える。このあたりは早急に世界統一を目指してほしい。

では今回のテーマであるトヨタのTNGA、トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャーとは何か。4文字というのが珍しいけれど、それ以外にもうひとつ特徴がある。単なるメカニズムの略号ではないことだ。

TNGAは昨年12月に発売となった現行プリウスに初採用されたので、最近の技術だと思っている人もいるかもしれない。しかし、トヨタがこの4文字を明らかにしたのは2012年4月で、5年近くも前のことだ。

●「もっといいクルマづくり」のための改革
○具体化してきたTNGA

TNGA発表時のプレスリリースによると、「走る」、「曲がる」、「止まる」といった運動性能はもちろん、ドライビングポジションなどの人間工学や、デザインの自由度などを追求した新しいプラットフォーム(車台)を開発し、基本性能の向上と開発の効率化を両立するとある。

さらにこの新型プラットフォームは、設計部門とデザイン部門が協力して骨格改革に取り組むことで、これまでにないエモーショナルなデザインと優れたハンドリングが実現できるとしている。3種類の前輪駆動系プラットフォームから取り組む方針であることも明記されていた。

続いてトヨタは、2013年3月に「TNGA企画部」の設置を発表するとともに、取り組み状況を公表している。

ここではまず、エンジンフードと重心を低め、かっこいいデザイン、良好な視界確保、運動性能の向上など、ユーザーの感性に訴えるクルマを生み出せる次期プラットフォームを開発し、2015年に発売する新型車(これが現行プリウスだ)より順次導入することを表明した。

ここでは初めてパワートレイン(エンジン、トランスミッション、駆動系の総称)にも言及。こちらについても低重心・高性能にこだわったユニットを新開発していくとしている。

○世界販売台数の半分に導入予定

個別の車種をひとつずつ開発するのではなく、まず中長期のラインナップを決め、複数車種の同時開発を行う「グルーピング開発」を導入し、ユニットの共用化を進めることもTNGAの特徴。これによって開発効率を20〜30%向上し、そこで得られたリソースを「もっといいクルマづくり」に投入していくとのことだ。

その2年後、つまり昨年3月にも、トヨタは「もっといいクルマづくり」の取り組み状況を公表する中で、TNGAに触れている。ここではパワートレインとプラットフォームを一体で新開発することにより、クラストップレベルの低重心高を実現し、基本性能や商品力を飛躍的に向上させていくとしている。

さらに新しいパワートレインは燃費を約25%、動力性能を約15%以上向上し、ハイブリッドシステムでも15%以上の燃費向上を見込んでいることや、プラットフォームはボディ剛性を従来比で30〜65%向上するという数値目標も公表した。

2020年頃に全世界の販売台数の約半数に導入する見込みだというこのTNGAを、新開発プラットフォームのことだと思い込んでいる人も多い。しかしここまで読み進めてきた方は、TNGAはクルマづくり全体の革新であることが分かるだろう。フォルクスワーゲンで言えばエンジンの「TSI」、トランスミッションの「DSG」、プラットフォームの「MQB」を一体で開発しているような状況だ。

●TNGAのキモは低重心
○マツダのスカイアクティブとは何が違うか

TNGAと概念的に近いのは、マツダが打ち出している「スカイアクティブ・テクノロジー」だろう。“Be a driver.”や“人馬一体”といった言葉に象徴される、運転して楽しいクルマを目指すべく、マツダはゼロからクルマづくりをスタートし、エンジン、トランスミッション、ボディ、シャシーを新開発とした。スカイアクティブ・テクノロジーは技術というより、思想に近い存在かもしれない。

ただし、デザインについては「魂動」という別のストーリーが存在するマツダとは違い、トヨタのTNGAはテクノロジーとデザインが連携しており、開発コスト低減によって品質向上を目指すところはMQBに似ている。さらに、この2つの技術とTNGAが決定的に違うところもある。低重心へのこだわりだ。

○次期カムリでエンジンもデビュー

重心を低くすると、ハンドリングが向上するだけでなく、乗り心地も良くなる。サスペンションを固めなくても安定した走りが得られるからだ。軽さはすべての面で有利に働くというのはよく言われることだが、低重心もまた多くのメリットをもたらすのである。

現行プリウスに初めて乗ったとき、なによりも印象的だったのがこの低重心だった。ステアリングを切った瞬間、車体がスッと向きを変える感触は、やはり低重心を突き詰めたスポーツカー「86(ハチロク)」を思わせるほどだった。先日プロトタイプに乗ったTNGA第2弾のC-HRも、クロスオーバーSUVであることを感じさせない走りを見せつけてくれた。

ただしプリウスやC-HRは、プラットフォームについてはTNGAを導入したものの、パワートレインについては従来型を採用している。TNGAエンジン第1弾として開発されたのは2.5L直列4気筒で、来年1月に発表予定の次期カムリにまず搭載すべく、今年中に日本国内で生産が始まるという。続いて海外向けの次期カローラに搭載予定と言われる2L版が、TNGAエンジン第2弾となる。

次期カムリはプラットフォームもTNGAを採用すると言われている。TNGAにとっての本番は、実はこれからなのである。

(森口将之)