『翔んで埼玉』(魔夜峰央/宝島社)

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 地元の魅力を見つめ直すような商品が現在人気を集めている。

 昨年12月に復刻というかたちで発売された、埼玉県を自虐的に扱ったギャグ漫画『翔んで埼玉』(作:魔夜峰央/宝島社)が地元である埼玉県の人々を中心に55万部もの大ヒット。

 一方、食品では“鉄のまち”として知られる福岡県北九州市内にある官営八幡製鐵所の関連施設が世界遺産に登録されたのを機に、地元の菓子店が3Dプリンタを用いて本物のネジのように回して締めて食べられるように開発した「ネジチョコ」も入荷即完売の状態が続いていた。

 また、にんにくの名産地である青森県田子町は、にんにく入り炭酸飲料「ジャッツ タッコーラ」の大ヒットを受けて、黒にんにくを使用した新感覚リキュール「Kuroshu(クロシュ)」を発売し、売上を伸ばしている。

 このように、なぜここにきて“地元愛”にあふれた商品、特に食品類が人気となっているのだろうか。立教大学経営学部教授の有馬賢治氏に、マーケティングの観点からこのブームを解説してもらった。

●萌えキャラではリピーターの獲得ならず

「地元愛と地域活性化を面白がって盛り上げる時代になっているのだと思います。少し前までは『ゆるキャラ』や『萌えキャラ』などをパッケージに印刷して商品展開するような収集マニア向けのものが多くありましたが、それではトライアルは確保できてもリピーターをつくることは結果的には難しかったようです。その点が製造、販売業者にも理解されてきたのか、地域ごとの特色や独自の味を訴求する商品が多くなっている印象です」

 特に、キリンビールが展開し当初目標の約2倍の売上を記録した、全国47都道府県ごとに違う味と個性を楽しめる「47都道府県の一番搾り」など、ご当地色を打ち出しやすい酒類は人気となりやすい傾向にあるようだ。

「酒税法に基づく焼酎の製造免許を取得するには、酒税をきちんと納められる製造規模が必要で、年間に最低720ミリリットル瓶で1万4000本前後を製造する必要があるのですが、サツマイモなど地域の特産品を原料とする場合に限り、より少ない製造量でも免許を与える『焼酎特区』の新設について政府は検討に入っています。これによって地域ごとに特徴のある焼酎を造りやすくすることで、政府は地方経済の活性化につなげたい考えなのでしょう。今後も地域ごとにいろいろなお酒が開発、販売されて、ヒットする可能性は高いと思います」(同)

 他方、人は味に対しては一般的には保守的なもので、地域色を出し過ぎると、一般受けする味から遠ざかってしまうこともありそうだが。

「味の好みは千差万別です。しかし、万人受けを狙って中庸な商品を作っても、面白みに欠けて、結果として似たり寄ったりの味になってしまいます。一方、地方のスーパーでは、地元企業銘柄の味噌や醤油が、全国展開されている定番銘柄よりも圧倒的に多く陳列されている場合もあります。このように、各地域が一般的な味に合わせるのではなく、“ならではの味”を貫き、万人受けしなくても地元で愛されれば良いという姿勢で商品展開をすることでヒット、定着しているものも多いようです。このようなナショナルブランドにはないオリジナリティや潔さが、今のローカルブランドには求められているのだと思います」(同)

●東京進出より地元

 ではなぜ、地域を盛り上げようとする商品が昨今増えているのか。

「今はインターネットが普及しているので、地元にいても得られる情報量は都内の人とそこまで大差はないでしょう。したがって、東京に住むことが必ずしも魅力的なことではないと考える地方の若者が地元に残り、地元企業に勤めて自分たちの街を盛り上げようとしていることが、斬新なアイディアを持つ商品が地方からたくさん生まれている要因のひとつなのではないでしょうか。

 さらに、今は地方のCMなども無料動画サイト『YouTube』で視聴ができますし、ふるさと納税制度もあって、ローカルな商品でも多くの人に知ってもらえるチャンスは多く、プロモーションを工夫すれば一気に話題となることもあります。これに加えて、通販などのお取り寄せ文化が一般的になったことで、各地方からでも面白い商品を全国に向けてPR、発信ができるようになっていると考えられますね」(同)

 食品である以上、味でファンを獲得しなければ長続きする商品にはなり得ない。ご当地独自の特徴を伸ばして、地元の人を中心に、観光客や地元以外の人にもトライアルしてもらうといった消費のバランスが、各地域発の人気商品を生み出す秘訣となっているようだ。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=A4studio)