トロフィーを握りしめる塚本監督(右)と“塚本ファン”のクーネン監督(左)
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 映画『鉄男 TETSUO』(1989)や『野火』(2014)の塚本晋也監督がモロッコで開催中の第16回マラケシュ国際映画祭で、功労賞にあたる“トリビュート”(賞賛)を贈られ、現地時間4日にセレモニーが行われた。フランス女優イザベル・ユペールら約1,500人が見守る中、塚本ファンを公言している、『ドーベルマン』(1997)のヤン・クーネン監督から記念のトロフィーが塚本監督に授与された。

 クーネン監督は、冒頭「時に映画監督というものは、独自の妥協なき残酷な世界を通して我々を魅了し、映画を観るという行為を、一生記憶に残るような強烈な感覚的体験に変えてくれます。塚本晋也は、その経験を与えてくれる非常に稀な監督の一人です。『鉄男 TETSUO』シリーズや『TOKYO FIST』(1995)、『BULLET BALLET バレット・バレエ』(1998)など彼の初期作品を観た時、それまで観たことのない映像を浴び、認知的衝撃を受けたことを覚えています」と塚本監督を紹介。続けて、プレゼンターの大役を授けてくれたことを映画祭に感謝しつつ、モロッコの国旗にも使用されている五芒星とフィルムがデザインされたトロフィーを手渡した。

 塚本監督は壇上で「今活躍している監督で最も尊敬するマーティン・スコセッシ監督も以前この賞を受け取ったと聞き、さらにさらに光栄に思います。自分のほとんどの作品が自主映画で、好きなものばかりをつくってきましたので、本当にこのような賞をいただいてよいものか、と少し途方に暮れますが、だいぶ長いことやってきたことへのご褒美と思い、ありがたく頂戴いたします」と感謝の言葉を述べた。

 同映画祭では2014年の第14回に日本映画特集を行い、『BULLET BALLET バレット・バレエ』も上映された。その際、塚本監督も映画祭への招待を受けたが、俳優として出演したスコセッシ監督作『沈黙 -サイレンス-』(日本公開2017年1月21日)の撮影準備に入っていたために、参加出来なかった経緯がある。塚本監督はスピーチの中でその事を残念に思っていた事を明かしつつ、今回、『鉄男 TETSUO』『TOKYO FIST』『野火』の3作が特集上映されることの意義の大きさを語った。

 まず「40代半ばまでは、都市と人間、言い換えると、現代社会と人間性の関わりみたいなものをテーマにしてきました。ある時期から、私たちをとりまく都市という環境も、大きな自然という海に浮かぶ小さな船にすぎないと思い、都市の外の大自然に興味がいくようになりました。最新作の『野火』という作品は、そういった興味が最高に高まった時につくられました」と自作の足跡を説明。

 さらに「我々人間は、この美しい自然の中で、もっとよい形で地球の営みに貢献しなければならないと思うのですが、必ずしもよい行いをしているとは思えません。その一番の悲劇は戦争です。過去から延々と続き、20世紀には最大の悲劇を生みました。その悲劇を繰り返さないよう、人間が持つ叡智を示していかなければならないのだと思いますが、どうも人間は過去の教訓から学ぶことをせず、同じ過ちを繰り返しているように思えてなりません」。

 「一兵卒の戦争体験を描いた『野火』はそんな世の中に、焦りのようなものを感じてつくりました。そして、未来の子供たちが平和に暮らせるよう祈りをこめてつくりました」と自主制作でもつくりたかったという作品への思いを力強く語ると、会場から大きな拍手を浴びていた。

 同映画祭では毎年、世界の映画界で多大なる貢献を果たした人物に“トリビュート”を贈っており、今年は塚本監督のほかフランス人女優イザベル・アジャーニ、オランダのポール・ヴァーホーヴェン監督、地元モロッコの俳優・コメディアンの“アブデルラウフ”ことアブデラヒム・トウンジへ。さらに、今年永眠したイランのアッバス・キアロスタミ監督と、地元モロッコの映画監督&脚本家のアブデラ・マスバヒを“トリビュート”に追加し、故人を偲んだ。(取材・文:中山治美)

第16回マラケシュ国際映画祭は10日まで開催