夫婦で一緒に仕事をする“夫婦ユニット”を紹介している本連載。今回登場するのは、成田空港からほど近い場所で、年間30種類以上の無農薬・無科学肥料野菜を栽培しているご夫婦、溝口和孝(みぞぐち・かずたか)さんと、優子(ゆうこ)さんの夫婦ユニットです。

〈あるまま農園〉の夫婦ユニット三ヶ条
一つ:お互いのやりたいことに「ダメと言わない」こと。
二つ:くだらないことで「一緒に大笑いする」こと。
三つ:昼食後、のんびりと「一緒に昼寝をする」こと。

農家は、もっとも古い夫婦ユニットの一つ。あえて「夫婦ユニット」とくくるまでもなく、結婚そのものが夫婦ユニットの出発点となる職種です。「夫婦揃って畑や田んぼで汗水流して作物を作り、それを出荷する」というのが、世間一般の農家夫婦のカタチですが、溝口さん夫婦の場合、主に夫が「野菜を作る人」、妻が「野菜を売る人」。農業夫婦ユニットの新しいモデルケースとは?

農家夫婦ユニットの、新しいカタチ

-農家というと、起きてから寝るまで片時も離れずに暮らすイメージがあります。

溝口和孝さん(以後、和孝):一般的にはそういう印象ですよね。でも、うちの場合はちょっとレアケースな農家夫婦だと思います。

溝口優子さん(以後、優子):主人は毎日畑仕事をするけど、私が手伝うのは週に2、3回ですね。農業以外にもヨガのインストラクターをしています。

和孝:結婚前、妻は東京に住んでいて、デザイン事務所で働きながら、ヨガの講師もしていたんです。

優子:ヨガのインストラクターを続けながら農業を手伝うという約束で結婚したので、結構軽い気持ちでしたね。「農業やるぞ!」という感じではなかった。

和孝:農家に嫁いだからやりたいことができないというのは違うと思います。妻には自由に好きなことをしてほしい。そもそもデザインだったりヨガだったり、自分にはないスキルを持っている部分に惹かれたので。

優子:でも農家の男性ってお嫁さんのバックボーンは関係なく、単に農業を一緒にやってくれる人に来てほしいんですよね。農家夫婦はこういうもの、という世間のイメージ通りで。

和孝:農業仲間には独身男性がたくさんいるけど、結婚しない理由は「一緒に農業をやってくれる人がいない」から。

優子:お嫁さん探しというより従業員探し?(笑)

和孝:そういう考えは今の時代には合わないし、旧態依然の考えを変えない限り後継者は育たない。それで、私たち夫婦で新しいモデルケースを作りたいなと。

優子:農家の嫁の敷居を低くしたいんです。農家仲間からは「変な農家」と言われているけど(笑)。でも主人が毎日頑張っているのを見たら「もうイヤだ」と思いつつもやらないわけにはいかない。「一緒に農業を!」と大上段に構えなくても、夫婦になれば自然と助け合おうという気持ちは芽生えてくるものだと思います。

夫婦ユニットを組んだからこそできたこと

和孝:うちの場合、さらにレアケースと言える役割り分担があるんです。

優子:もともと主人は出荷グループを通じて生協などの市場で売る野菜だけを栽培していたんですけど、結婚後に「野菜宅配」も始めました。

和孝:出荷グループの仕事だけでなく夫婦ユニットとして「野菜宅配」の個人活動も始めたんです。その手配が妻の役目。

優子:それにともなって営業活動も開始しました。野菜宅配を広めるためにママ向けのコミュニティーに参加したり、営業の勉強をするためのセミナーに行ったりもしています。

和孝:このあたりの農家のお嫁さんで営業活動をしている人はいません(笑)。そのおかげで出荷グループだけのつき合いしかなかったコミュニティーがだいぶ広がりましたね。これまで消費者の顔が見えなかったけど、野菜宅配で直接お客さんに販売することで反応も得られるし、経済的にもプラスになりました。

優子:全部私が考えて、顧客を増やしていきました。そうだよね?(笑)。

和孝:妻がやりたいことは全部やってくださいと。すべて私が妻に合わせています(笑)。両立は大変な部分もありますけど、出荷グループには出せない珍しい野菜やこれからはやりそうな野菜作りにチャレンジできるという点で、農家としてやりがいや楽しみが増えましたね。

優子:とりあえず言ってみないとお互いに何を考え、どんな思いがあるかわからない。農業の素人である私の言うことに腹が立つこともたくさんあると思いますよ。ただ主人がなかなか気持ちを言ってくれないので、つい私が言い過ぎしまうんですけどね。

和孝:言えないのではなく、畑仕事でてんてこまいなのでそんなに構っていられないというか。まあ、子どもを保育園に預けたことで、もう少し農業を手伝ってくれるのかなと思ったら、営業に行ってしまったというね(笑)。そのおかげで野菜宅配のお客さんが増えたのでいいんですけど。

優子:(笑)そう思ってたんだ。でも、野菜宅配も営業もすべて結果論であり、最初からそうしようと思ってやったことではないんです。主人が野菜を作ってくれるからこそ、もっと多くの人に食べてほしいと野菜宅配を思いつき、営業に行って売ることができる。物を売るならなんでもいいわけではなく、丹精込めて作った主人の野菜だからこそ、こんなに頑張って売ろうと思うんです。

日々、笑いとスキンシップが大切

和孝:そんな役割り分担でやっているので、他の農家に比べたら一緒にいる時間は少ないですね。

優子:四六時中一緒にいるわけではないけど、朝昼晩の3食を家で食べるというだけで煩わしかったりしますよね(笑)。でも主人は少々手を抜いても文句を言わないので、そこはとてもありがたいです。

和孝:自分で作った野菜を、妻がおいしく料理をしてくれて、それを毎日3食べられるという暮らしは幸せだと思います。それと、一緒にいる時は妻がくだらないことでいつも笑わせてくれます。

優子:そうそう、ものすごくくだらないことでよく笑ってるよね。来年の作付けで「マンドラゴラ」作ろうよとか。『ハリーポッター』にも登場する、抜くと「キー!」と声を上げる植物なんですけどね。もちろん存在しないんですけど、「種はどこに売っているんだろう?」とか(笑)。

和孝:本当、くだらないでしょう。

優子:そういうくだらないことで、笑わせたいんですよ。

和孝:しかも忙しい時に限ってそういうことを言い出すので、「は?」みたいになる。でも、結局はそれで力が抜けてカラダ的にはいいコンディションになっているんだと思います。

優子:主人は気になり出すと一つのことしか目に入らなくなって、すぐにテンパってしまい、力みがちなになるんです。

和孝:そんな時にくだらないことを言われると「うるさい!」と思いながらも、「くす」っと笑ってしまうんですよね。それで肩の力が抜けるので、これもヨガ的効果なのかと。

優子:カラダの力を抜くのは大切なこと。特に農業って無理な姿勢で長時間作業をすることも多いですからね。カラダは資本。お互い健康でないと、仕事も暮らしもうまく回らなくなります。

和孝:実はヨガを教えてもらってから17kg減量したんです。身体的にも精神的にも妻のヨガ知識にはとても助けられていると思います。

農家に嫁ぐということは、「○○さんのお嫁さんになる」のではなく、「農家のお嫁さんになる」ということ。そんな世間一般の常識なんて気にもとめず、自分たちにピッタリくる農家夫婦ユニットのカタチを模索している溝口さん夫婦。因習に縛られることなく進むことが、これからの「農業夫婦ユニット」には必要なのかもしれません。

(塚本佳子)

【あるまま農園情報】

千葉県成田産・無農薬野菜の宅配
7〜10品おまかせ詰合わせ
1回お試しコース3000円(送料込)
公式HP