この"1"シリーズ"は、もっとも手頃なサイズと価格のBMWだ。一般的にCセグメントと呼ばれるクラスに相当するBMWで、輸入車ではフォルクスワーゲン・ゴルフ(第64回参照)、国産車だとトヨタ・プリウス(第116回参照)やマツダ・アクセラ(第86回参照)と同クラス。つまり、日本でも老若男女にオススメできる、比較的コンパクトなプチ贅沢ハッチバック実用車である。

 このクラスはエンジンを横置きする前輪駆動が定番にしてお約束。そうやってエンジンルームをできるだけ短く、メカをフロント部に集中させて、比較的コンパクトなボディのなかに室内容積を最大限に確保するわけだ。

 ただ、この1シリーズを見てCセグメントとしてはちょっと異質で奇妙なカタチ......と感じたあなたは、するどい。

 その奇妙さの源泉は、ビミョーに長いハナ先にある。1シリーズはこのクラスでは世にもめずらしい後輪駆動車で、基本骨格は兄貴分の3シリーズ(第37回参照)を前後に短く切り詰めて、さらにお尻(トランク)を切り飛ばして......という成り立ちとなっている。

 1シリーズのエンジンは高級大型セダン同様に、縦方向に搭載される。しかも、BMWの場合はエンジン本体が長〜い直列6気筒も想定されており、1シリーズも例外ではない。だから、なおさらハナが長い。今ではこういうレイアウトの小さなクルマは、ほとんどなくなってしまった。その意味で、1シリーズは世界でもレアな存在なのである。

 そんな1シリーズは、ハッキリと室内がせまい。エンジンルームが長いうえに、変速機と駆動シャフトがクルマの前後に貫通しているので、前席中央にあるシフトレバーまわりの土手(=センターコンソール)も背が高く巨大。これを「スポーツカーみたいで運転しやすい」と歓迎するマニア筋もあろうが、大多数は「邪魔くさい」と感じるだろう。

 今回紹介する118dスタイルは今年夏に国内発売されたばかりで、現行1シリーズとしてはもっとも新しいモデルだ。1シリーズとしては2番目に手頃な価格で、"d"という末尾記号から想像されるとおり、欧州車マニア好みの最新ディーゼルを積む。

 118dは欧州では普通の人がさほど強いこだわりも持たずに乗るタイプだが、こういうフツーのモデルでも......というか、フツーのモデルこそ、スカッとさわやかに気持ちいい乗り物なのが、BMWのツボである。

 118dの絶対的な性能は「そこそこ」のレベルで、特別に速くも俊敏でもない。しかし、その手応えはとにかく素直で正確で軽快。そして、なんともイイ感じに「すばしっこい」。

 交差点でもステアリングを持ちかえずに済むほどの敏感設定なのに、操作の重さとクルマの反応のサジ加減が絶妙なので、実際は過敏さや神経質さはまるでなし。なんというか、全身にただよう潤いとネバリが快感だ。

 118dのディーゼルエンジンはガソリンでいうと、3.0〜3.5リッター相当のトルク(=力)があって、ガソリンと較べれば震動もそれなりに大きめだ。しかし、1シリーズは前記のように後輪駆動なので、ステアリングに雑味のあるブルブルはまったく伝わらず、ステアリングを切った状態で加速しても、すっきりとスルルルーと加速していく。

 前記のようなエンジンの強力なキック力も、高回転まで回す必要もなく(というか、ディーゼルは回しすぎると逆におとなしくなる)、加速側だけでなく減速側のエンジンブレーキも強力。右足に粘りつくように回るので、アクセルだけでスピードの微調整もドンピシャにやりやすい。

 そうして手(=ステアリング)と足(=アクセル)をシンクロさせると、これがまあ、なんともリズミカルに走る走る!! 街中を鼻歌まじりで転がして、横丁の交差点をスイッと曲がるだけで思わず笑ってしまう。

 そんな1シリーズも、現行型はすでに6年目に突入。この文句なしのツボな味わいは、じっくりと熟成されたおかげもある。普通に考えればフルモデルチェンジもそう遠くないはずだが、一部では、次期1シリーズは2シリーズ(第92回参照)と兄弟車=つまり前輪駆動(!)になるかも......との説もある。

 まあ、そんなウワサの真偽はともかく、後輪駆動の1シリーズはレアな存在にして、なくなると確定したわけではないが、いつなくなっても不思議はない絶滅危惧種。しかも、ちょうど熟れまくった今が食べごろである。

【スペック】
BMW 118d スタイル
全長×全幅×全高:4340×1765×1440mm
ホイールベース:2690mm
車両重量:1480kg
エンジン:直列4気筒DOHCディーゼルターボ・1995cc
最高出力:150ps/4000rpm
最大トルク:320Nm/1500-3000rpm
変速機:8AT
JC08モード燃費:22.2km/L
乗車定員:5名
車両本体価格:378万円

佐野弘宗●文 text by Sano Hiromune