「ビーチサッカーは僕のすべて。普通のサッカーやフットサルに興味はない」

 3度目のビーチサッカー・ワールドカップに挑む茂怜羅(モレイラ)オズはそう話す。

 ビーチサッカーは長い間、世界各地のビーチで「遊び」として行なわれてきた。特に、ブラジル・リオデジャネイロのコパカバーナは、古くから多くの人がプレーしてきた「発祥の地」といわれている。

 競技人口が増えたことで1992年に統一ルールが定められ、1995年には第1回世界選手権がリオデジャネイロで開催された。ジーコ、ロマーリオ、カントナなど名選手もプレーしたことから欧米をはじめ世界的に人気が上昇し、ブラジルでは7万人もの観客が入るゲームも行なわれている。現在では世界75カ国でプレーされているといわれ、世界選手権は2005年からFIFA(国際サッカー連盟)ワールドカップへと移行した。

 試合は1チーム5人。各12分間の3ピリオドで行なわれる。ピッチサイズは縦37メートル、横28メートルと通常のサッカー(一般的に縦105メートル、横65メートル)の半分以下で、ゴールもひと回り小さい。ボールの大きさは同じだが、裸足で蹴るためソフトな表皮で作られている。また試合中、選手は自由に何度でも交代できる。

 ビーチサッカーの醍醐味は、なんといってもアクロバティックなプレーだ。「スコップ」と呼ばれるテクニックでボールを浮かせてパスをするため、オーバーヘッドキックが試合中何度も見られる。派手なプレーだけでなく、砂上での瞬発力、ボディバランス、さらにボールコントロールやタッチの柔らかさなど基礎的な技術も求められる。

 そのビーチサッカーの日本代表キャプテンが茂怜羅オズだ。190センチ、86キロの堂々たる体格で、フィジカルの強さと破壊力のあるキックを持つ日本のエース。ただし、キャプテンマークを巻いていることでも分かるように、オズはパワーだけの選手ではない。4人のフィールドプレーヤーの最も後方にポジションを取る「フィクソ」として攻守を組み立てる能力があり、パスセンスにも優れている。ゲームの読み、判断力、リーダーシップも持ち合わせ、「世界最高のフィクソ」とも呼ばれている。

 オズはリオデジャネイロのコパカバーナ地区で生まれ、6歳でビーチサッカーを始めた。すぐにボールを蹴る才を見せ、ジュニア時代にはCRヴァスコ・ダ・ガマで「普通」のサッカーをプレーし、何度もスカウトを受けた。しかし「海で生まれて、海の雰囲気が好きだったし、裸足で蹴るのが好きだった。楽しいことがしたかった」とオズはビーチサッカーを選択する。「家族やコーチには『普通のサッカーをやれば、給料いっぱい貰えるのに......』とよく言われた」と笑う。

 プロ選手になると、ブラジル国内だけでなく、世界中のクラブからオファーが届いた。しかし2007年、21歳で日本の地を踏んだことからオズの人生が大きく変わる。「日本のチームでプレーすることになって色々勉強したら、日本が大好きになった。文化や人の優しさやマナーにね。死ぬまで日本に住みたいと思った」と話す。日本でプレーを続けながら2012年に日本国籍を得て、代表チームにも呼ばれた時は、「日本人として戦いたいと思っていたから幸せだった」という。

 ビーチでも強豪であるブラジル代表になるチャンスを捨て、日本よりも圧倒的に環境の良いブラジルでのプレーを選ばなかった。

「ブラジルは生まれた国だし、家族もいる。だけどブラジルと対戦してももうあまり意識することはない。心は100%日本人、日本代表のユニフォームは自分の皮膚のようなもの」

 その後、オズは日本代表として2013、15年のワールドカップに出場。13年のタヒチ大会では4ゴールを挙げ、大会のシルバーボール(優秀選手賞)を受賞した。また、ビーチサッカーワールドワイド(国際統括団体)が選出する年間ベスト5に、2014年から3年連続で選ばれている。

 来年のワールドカップは、バハマ・ナッソーで行なわれる(4月29日〜5月7日)。年が明けると合宿、ワールドカップ・アジア予選と続いていく日本代表チームについて「今までで一番いい状態ではないか」と手ごたえを口にする。

 今季はブラジル、UAEなどに遠征し、積極的に海外で試合を行なった。今シーズン最大の目標だったアジアンビーチゲームズ(9月、ベトナム・ダナン)でも優勝を飾り、初のアジア制覇を果たした。

「ブラジルともいいゲームができたし、アジアを制したことで自信がつき、もっと上を目指す意識が出てきた。3度目のワールドカップになるけど、僕自身は常に優勝を狙っている。これまでベスト8にとどまっているので、次はいい成績を残したい。簡単には言えないけど決勝戦までいきたい」

 日本の「カピタン」はさらにこう続ける。

「いい成績を出せば日本のみんなにビーチをもっと知ってもらえる。なでしこジャパンの例もあるから、僕らが結果を残して日本のビーチサッカーの世界を変えていきたい」

 来シーズンの目標を語るオズの視線は、バハマ、さらにその先のビーチサッカーの未来に向けられている。

小崎仁久●撮影・文 text&photo by Kosaki Yoshihisa