柔道男子66キロ級は、日本体育大学の1年生、阿部一二三(あべ・ひふみ)の時代に突入した。

 2年ぶりのグランドスラム東京の決勝(12月2日)で、阿部は今年11月の講道館杯で敗れた橋口祐葵(ひぐち・ゆうき)を、1分45秒、豪快な背負い落(せおいおとし)で畳に叩きつけた。シニアの大会で、かつ国際大会で、さらに決勝という緊迫の場面で、まさに"叩きつけた"という表現が適当なほど、見事な「一本」が決まることは珍しい。

 それだけ阿部の実力が、66キロ級で突き抜けた印象を受ける戴冠だった。表彰式の後、阿部は満面の笑みで、壮大なプランを口にした。

「(リオ五輪の選考レースに漏れて)悔しい思いをしたので、まずはこの大会で勝ててホッとしています。目標とする選手は(五輪3連覇の)野村忠宏さん。五輪で1回優勝したぐらいでは追いつけない。4連覇が目標です」

 2年前の講道館杯同階級で高校2年生ながら優勝し、続くグランドスラム東京も制覇。いずれも史上最年少の優勝で、阿部は一躍、脚光を浴びた。

 その後、リオ五輪の代表レースに参戦するも、好不調の波が激しく、際立った戦績を残すことができない。代表は、ロンドン五輪の代表でもあった海老沼匡に譲った。

 それでもリオ五輪の閉会式では、4年後の東京五輪に向けたPR映像に起用されるなど、柔道界のみならず東京五輪の組織委員会からも大きな期待を集める存在だ。

「そうやって期待していただくことはプレッシャーでもありますけど、やはりうれしいことですし、ありがたいこと。力にしたい」

 今年4月の選抜体重別選手権では、海老沼を計三度投げて、圧勝した。かと思えば、11月の講道館杯では、思うように足を踏み出すことができず、攻撃柔道が鳴りを潜めて準々決勝、敗者復活戦と連敗した。勝つ時には豪快に圧勝するが、負ける時はまるで別人のように、あっさり負けてしまう印象がある。そのことを阿部に問うと、彼自身も認めた。

「後手に回ったら、自分の良さが消えてしまう。常に前に出て、相手に圧をかけることができれば、今日みたいに勝つことができる。この1年、組み手を見直してきた。その成果は少しずつ出てきていると思います」

 阿部の柔道は組み際にこそ強さを発揮する。引き手と釣り手を持ったその刹那(せつな)、技を繰り出していくのだ。体勢が不十分の相手は、反応することもままならない。瞬発力と、道着を掴んだら簡単には離さない把持力(はじりょく)が阿部の武器であり、それが一本を呼び込む技のバリエーションにつながっている。

 グランドスラム決勝の橋口戦では、開始早々に相手の両袖を掴んですぐさま、袖釣り込み腰を仕掛け、橋口を一回転させた。勢い余って、「有効」のポイントにとどまったが、「一本」となった背負い落も、組み際だった。

「大学に進学して、練習環境が変わって、先生方からも組み際を大事にしろと言われてきました。意識して、組み際に技を仕掛けるようにしています」

 五輪代表の海老沼にも今年勝利している阿部は、もはや66キロ級のホープではなく、東京五輪に向けた大本命だ。

 そしてグランドスラム東京の初日は、阿部のほかにもうひとり、主役がいた。女子52キロ級の決勝に進出した阿部詩(あべ・うた)だ。夙川学院高校の1年生である彼女は、その名から察せられるように、阿部の3歳下の妹である。

 顔もそっくりだが、口を大きく開けて緊張を解きほぐす癖や、果敢に相手に攻め込んでいく柔道も兄に通じる。詩は言う。

「東京五輪では兄妹で金メダルを獲りたいです。兄の常に前に出ていく姿勢は私も見習いたい。顔が似ていますか? 私はそうは思わないですけど(笑)、ずっと一緒にやってきたので、柔道が似ている部分はあると思います」

 4年後、阿部兄妹が軽量級の顔となっている可能性は大いにある。

柳川悠二●文 text by Yanagawa Yuji