映画業界の未来を担うクラウドファンディング[映画界のテスラが語る 第3回]

写真拡大

日本の映画業界は変革の季節を迎えている。

第1回で詳しく述べたが、映画興行はフィルムからデジタルへの移行にともない作品数が急増し、市場の競争は激化された。10年前と比べると劇場での上映作品数は倍になったのに対して、国内興行収入はほとんど変化していない。単純計算すると一作品の収入が半分になってしまったのである(図A)。


図A: 国内で上映される映画作品数(本)(出典:日本映画製作者連盟 http://www.eiren.org/toukei/data.html)

はたして競争は今後より激化し、映画業界は衰退に向かうのだろうか? 『君の名は。』『シン・ゴジラ』のような一部の大手企業のヒット作だけが利益を出し生き残るのだろうか? ひとつだけはっきりしているのは、クラウドファンディングが映画業界に希望を与えるツールになりつつあることである。

クラウドファンディングとは、インターネットで広く協賛を集める行為である。支援の対価として金銭的メリットではなく特典を用意する「購入型」が一般的であり、映画では支援者の名前をエンドロールに載せたりすることが多い。

融資などと違って出資を受けるリスクが少なく、魅力的なプロジェクトであれば多くの協賛が比較的短期間で集まるうえ、事前に宣伝とマーケット調査を行えるというメリットもある。

クラウドファンディングは急速に発展しており、2015年には世界市場規模が3兆円超(図1)、日本の市場規模は約360億円(図2)となった。2016年には世界で6兆円を超え、日本では470億円に成長する事が予想されている。2015年の世界での映画興行収入は約4兆円であり、今年はクラウドファンディング市場が映画興行の市場規模を超えると予測される。

図1:世界のクラウドファンディング市場(兆円)
aw

図2:国内クラウドファンディングの新規プロジェクト支援額(市場規模)推移
zzz
(出所:矢野経済研究所 http://www.yano.co.jp/press/pdf/1573.pdf)

クラウドファンディングは映画の分野に限ったものでないため、実際に映画に利用されるのは購入型全体の10%程度(参考:https://www.kickstarter.com/help/stats)とまだ規模は多くないが、世界の映画系クラウドファンディングは日本の年間興行収入(約2,000億円)に匹敵する勢いで成長している。

とはいえ、果たして国内でもそれは成功するのだろうか? あまり知られていないが、実はすでに邦画にもクラウドファンディングが大きな影響を与え始めているのである。

例えば、主役の声をのん(能年玲奈)が務めて話題になったアニメ映画『この世界の片隅に』。この作品が制作段階(パイロットフィルム制作)におけるクラウドファンディングで4,000万円近く集めたことは、映画業界内で有名な話だ。

さらにすごいことに、同作は大手の配給が付いていないにも関わらず、11月の国内興行ランキングでハリウッドや大手映画に並ぶ10位につけた。全国100スクリーンに満たない劇場で公開されながらトップ10に入るのは極めて異例であり、クラウドファンディングで制作・宣伝コストを節約しながらヒット作を世に送り出した意義は大きい。

この成功が示すのは、クラウドファンディングの登場によって大手作品でなくとも資金調達が可能となり、大手に引けを取らない映画を作り、広く評価されるということだ。この作品は業界関係者からも評価が高い。


(出典:https://www.makuake.com/project/konosekai/)

アニメに限らず、実写映画でも成果を上げ始めている。濱口竜介監督作『ハッピーアワー』は、大手の支援がないなかクラウドファンディングで500万円近く集め、300分を超える大作を生み出した。世界的に有名なロカルノ国際映画祭で受賞という結果も残し、世界に通用する邦画制作の一例となっている。

クラウドファンディング・プロジェクトを経験してみて

上記は成功例だが、映画業界においてクラウドファンディングはまだ充分に浸透していない。実際に私が国内外で複数のプロジェクトを行った実感として、日本での認知度が極めて低いことが主な原因と推測される。

2013年にプロデューサーを務めた作品『Plastic Love Story』は、まさにその”認知度の低さ”が失敗の要因となった。日本では初めうまくいかなったが、米国にある世界最大のクラウドファンディングプラットフォーム、KICKSTARTERに英訳したものを出したところ、目標以上の約1万ドルを集めるのに成功した。

その数年後、国内におけるクラウドファンディングの認知度向上を確認し、プロジェクトの打ち出し方を改良した上で映画『愛の小さな歴史』(第27回東京国際映画祭、TIFF)を日本のクラウドファンディングで公開したところ、全国公開の費用(約130万円)を調達。その翌年の映画『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(第28回TIFF)でも同様に約410万円を調達できた。

通常のインディペンデント映画制作者は2年に1本の作品を公開するのが限界とされているが、クラウドファンディング活用によって倍のペースで公開することができた。また、クラウドファンディングを通じて多くの人のサポートを得られたことは、心理的にも大きな励みにとなった。日本でもこのシステムがやっとスタートラインに立ったと言えるのかもしれない。

映画とクラウドファンディングの未来

クラウドファンディングを活用した映画制作が進むなか、それを映画配給(流通)に利用する試みも急激に発展している。

フィリピンで撮影された浅野忠信主演の映画『壊れた心』は、第27回TIFFで上映されたが、興行が不透明なため大手の配給が見送られた。そこでライセンサー(作品権利保有者)に掛け合って日本でクラウドファンディングを行ったところ、全国公開の費用(約300万円)が集まり、り国内での劇場公開が決まった(2017年1月7日公開)。今まで日本で上映される機会のなかった作品が、制作・配給される時代に突入したのである。


(出典:http://tokyonewcinema.com/works/ruined-heart/)

映画業界におけるクラウドファンディングはまだ市場規模が大きくないが、認知度拡大により活用する制作者も支援者も増え、今後より成長することが期待できる。

日本の映画業界はデジタル革命により競争が激化されたが、この新しい世代のツールによって市場が劇的に上昇する可能性があるのだ。現在はまだ一般的ではないが、そう遠くない将来、あなたの名前が劇場のエンドロールに流れるのかもしれない。