『シークレット・オブ・モンスター』 (C)COAL MOVIE LIMITED 2015

写真拡大

…前編「〜サントラ重視の映画レビュー」より続く

【映画を聴く・番外編】12月4日掲載・後編
ザ・スミスのファンも必見(!?)のサスペンスドラマって?

『シークレット・オブ・モンスター』(11月25日公開)
ムッソリーニの幼少時代のエピソードやサルトルの短編小説に着想を得た、ブラディ・コーベット監督による長編デビュー作。濃厚で陰影感に富んだ映像と、スコット・ウォーカーによる緊張感を煽る音楽の詰め込まれた予告編、『シークレット・オブ・モンスター』という邦題(原題は“the childhood of a leader:指導者の幼少期”)のイメージからサイコスリラー的な作品を想像する人が多いかもしれないが、基本的には戦時下を舞台とした文芸映画然とした作品。つねに不満を抱えて歪んだ行動を繰り返すひとりの少年のエピソードを並べることで、見る者に“モンスター”の誕生を予感させる。とにかくスコット・ウォーカーの音楽が効いていて、画面に出演している役者と同等の存在感を放っているので、彼のファンは必見だ。

『ブルーに生まれついて』(11月26日公開)
チェット・ベイカーの波乱に満ちた生涯を正確に辿った伝記映画ではなく、事実関係とその時系列を微妙に組み替えながら、彼の破滅性とロマンティシズムをより際立たせて見せる、寓話的な音楽ドラマ。ジャズに造詣が深いロバート・バドロー監督は、実在したチェット・ベイカーではなく、“イーサン・ホークの演じるチェット・ベイカー”を撮ることにこだわっており、その意味ではケイト・ブランシェットやリチャード・ギアなど、年齢も性別も異なる6人の役者がボブ・ディランを演じた『アイム・ノット・ゼア』あたりに通じる印象も。リチャード・リンクレイター監督と組んで映画化を計画したことがあるというだけに、イーサン本人の熱意も並々ならぬもので、ジャス・ピアニストのデヴィッド・ブレイドによるオリジナル・スコアに混じって味わい深い歌とトランペットを披露している。

『母の残像』(11月26日公開)
ラース・フォン・トリアーを叔父に持つヨアキム・トリアー監督の3作目の長編。原題の“Louder Than Bombs ”は、ザ・スミスのコンピレーション・アルバムのタイトルとして知られる言葉だが、元になったのはエリザベス・スマートというカナダの詩人の著作の一節。亡くなった戦場カメラマンの母と、遺された父と2人の息子それぞれの物語を、視点を切り替えながら群像劇的に見せていく。見る側の予想を裏切るカット割り、ごく控えめでありながら効力の強い音楽など、ラース・フォンの血筋と思えなくもない部分は見受けられるが、現実と妄想がシームレスにつながった展開は、ヨアキムならではのセンス。『ユージュアル・サスペクツ』から約20年、いい感じに枯れたガブリエル・バーンの演技も見どころだ。(文:伊藤隆剛/ライター)

伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。