角川書店第2本社ビル photo by Lombroso CC BY 3.0

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 先月13日放送のNHKスペシャル『終わらない人 宮崎駿』の番組内で、宮崎駿氏に対して人工知能で作ったCGを見せたところ、「生命の冒涜」だとして激怒されてしまった川上量生氏。

 同氏が代表取締役社長を務めるカドカワは、’14年に「ニコニコ動画」で有名なIT企業であるドワンゴと、大手出版社のKADOKAWA(旧:角川書店)による経営統合で誕生した。

◆増収増益を牽引する出版事業

 以降、積極的なベンチャー企業の買収やネットだけで学べる通信制高校「N高校」の設立を行うなど話題を振りまいている。そんなカドカワの経営状況はどうなっているのだろうか? 決算書を読み解き、最新の数字を追っていく。

 最新の四半期決算ではカドカワは増収増益。通期業績予想において、営業利益を31億円から60億円へとほぼ倍額に引き上げるなど、好調ぶりが見て取れる。それを牽引しているのは全社の売上の約半分を占める出版事業である。

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 映画が大ヒットしている『君の名は。』の原作小説など関連書籍を手がけていることが、大幅な売上・利益アップの原因だが、この事業セグメントには一時的なものにとどまらない成長が期待できる。

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◆独自路線でも好調な電子書籍部門

 出版業界は紙の雑誌が売れなくなったことなどを理由に20年間で1兆円も市場が縮小するなど非常に厳しい市況にさらされているが、電子書籍のマーケットは着実に成長しており、今後5年間でほぼ倍増して3000億円を超えると予想されている(参照: 「インプレス総合研究所『電子書籍ビジネス調査報告書2016』」)。

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 その電子書籍業界においてKAODOKAWAは、出版事業の売上では負けている講談社・小学館・集英社といった他の大手出版社を差し置いて1位をキープしている。同社は経営統合してすぐに電子書籍ビューワーの「i文庫」や読書の履歴管理・感想共有サービス「読書メーター」を買収するなど、自社の電子書籍プラットフォームの強化に力を注いでいる。

 また、アマゾンが配信停止の措置を取って講談社を激怒させた、定額読み放題サービス「Kindle Unlimited」には当初から参加しないなど、独自路線を取っている。一方で、紙の本においてもKADOKAWAは’15年から出版取次を介さずアマゾンとの取引をはじめ、コスト削減に務めるなど、したたかだ。

 そんな出版事業と比べて、Webサービス事業は冴えない。ドワンゴが運営する「ニコニコ動画」のプレミアム会員数は、’16年に入ってから完全に横ばいとなってしまっている。

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 原因はスマホ最適化から取り残されたことに尽きるだろう。’16年はスマホ動画元年と言われ、早くも1000万ダウンロードを突破した「AbemaTV」を筆頭に、各社がさまざまなサービスでしのぎを削っている。

 動画配信のサービスだけでも「ツイキャス」や、Twitter社が所有する「Periscope」、アイドルや声優などの配信数が多い「SHOWROOM」、「LINE LIVE」など、数え上げればキリがないほどの競合が存在する。

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 それらのサービスは基本的に無料で使える広告モデルで提供されている。広告依存度が低く、月額課金をしてくれるユーザーを積み上げてきたニコニコ動画だが、今後もユーザーがお金を払い続けてくれるか、気がかりなところだ。

◆ほとんど利益が出ていない「ニコニコ動画」

 ニコニコ動画のプレミアムサービスに近い価格帯では、昨秋日本に上陸した「Netflix」や日テレが所有する「Hulu」などのドラマ・映画が定額で見放題なサービスが存在する。それらと渡り合う価値を提供するハードルは高い。ネット動画の先駆けであるニコニコ動画だったが、動画配信業界の盛り上がりは逆風となり兼ねない状況だ。

 利益構造を見ても、売上原価がかさみ、ほとんど利益が出ていないことがわかる。衰退傾向にある出版業界と成長著しいIT業界だが、両者の融合を試みるカドカワにおいては、逆転現象が起きているのだ。

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 そう考えると、経営統合は実はドワンゴ側にとっての渡りに船だったと言えるかもしれない。統合が行われた’14年度において、カドカワは260億円あまりの「負ののれん」を特別利益として計上した。

 これはKADOKAWAの取得原価に比べ、時価評価が大幅に上回ったこと、つまり安くKADOKAWAを買えたことによるボーナスである。実はその特別利益の計上がなければ、同社は最終赤字に陥っていたのだ。

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 今期500億円の長期借入を行ったことで、手元に1000億円もの現金を持つカドカワ。これからどのように攻めていくのかますます注目の企業だ。

【参照】
カドカワ株式会社「有価証券報告書・四半期報告書」

<文/大熊将八>

おおくましょうはち○現役東大生にして、東大・京大でベストセラーの企業分析小説『進め!! 東大ブラック企業探偵団』(講談社刊)著者。twitterアカウントは@showyeahok