「Thinkstock」より

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 深刻な人手不足解消のため、外国人技能実習制度とEPA(経済連携協定)の制度拡充と積極的活用に期待が高まっている。技能実習制度とは、外国人技能実習生が最長3年間、企業との雇用関係の下で技能の修得をするもので、厚生労働省は同制度の目的を「技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力すること」としている。さらに日本政府は現在、EPAに基づき、ベトナム、フィリピン、インドネシアから介護福祉士志望者を受け入れており、資格を持つ外国人に在留資格を認める方針を示している。

 では、これらの制度は国内の人材不足解消に有効なのであろうか。また、現状でどのような問題があるのであろうか。外国人労働者の実態に詳しい、丹野清人・首都大学教授に話を聞いた。

――外国人技能実習制度もEPA(経済連携協定)も、制度の目的は日本で技能を身につけてから母国に帰って産業の発展に貢献してもらうことで、日本側の人手不足を補うことが目的ではありません。しかし、雇用する側の目的は人手不足対策です。ボタンの掛け違いではないのでしょうか。

丹野清人氏(以下、丹野) それはタテマエとホンネの違いです。制度の趣旨が技能移転であることはタテマエであり、日本政府のホンネは間違いなく人手不足対策です。技能実習制度に関する文書には、必ず技能移転による国際貢献が制度の趣旨であることが書かれていますが、この文言は決まり文句として外せないのです。

――企業側にも、技能移転による国際貢献という意図はないでしょうか。

丹野 「企業側には長期的に考える余裕がない」といったほうが正しいでしょう。非正規雇用問題やブラックバイト問題が問われていても、非正規雇用はなくなりません。企業は安く雇える人が欲しいのであって、決して正社員がたくさん欲しいのではありません。今は派遣労働者の派遣単価が時給2500円というように高止まりしていますが、それでも正社員よりは安いのです。

 相変わらず人手不足が騒がれ続けていますが、それは安い労働力が不足しているのであって、正社員については抑制している部分が少なからず存在しています。よって、非正規労働者は減少しません。この状況が置かれたまま外国人労働者を雇用しようとなった場合、雇用側には、正社員の領域に入れることは念頭にないのです。

 正社員として雇用する場合は「高度人材」(専門知識を持つ経営者・技術者など)になりますが、「高度」を名乗る割には大した給料を支払うわけではありません。欧米で高度人材として扱われる人は、それこそ年収が億円単位に達しています。しかし日本では、高度人材は単なる正社員です。日本側が求めている高度人材は海外から日本に入ってきません。

●かなり低い資格取得率

――現状で、技能実習制度で来日している外国人は、今年6月時点で74職種で21万人、EPAでは看護と介護を合わせて3000人程度しか来日していません。人手不足対策とはいえ、到底不足分を補える数字ではありません。

丹野 厚生労働省はEPAについて失敗だったと思っているでしょう。EPAでインドネシア、フィリピン、ベトナムの3カ国の人材を受け入れても、日本で看護師資格と介護福祉士資格を取らなければ長期間働けないのですが、国家試験のハードルが高すぎるのです。日本の4年制大学を卒業した日本人ですら介護福祉士の合格率が50%程度なのに、それを外国人に要求しても通るわけがありません。

 ――EPA人材の介護福祉士国家試験の合格率は、2015年度に初めて50%を超えたと発表されました。ただ、この数字は受験者に対する合格率なので、来日しても受験しない人を含めると、資格取得率はかなり低くなります。

丹野 そうですね。看護でも介護でも日常で使わない専門用語が多いのですが、こうした用語の知識よりも、本来は実技にウエイトを置いたテストで適性を見極めるべきなのに、筆記試験によって日本人と同じ基準で合否を決めるので、外国人は合格しにくいのです。

 例えばEPAの初期の頃、インドネシア人では、日本で言えば東京大学に相当するインドネシア国立大学の卒業生も来日しましたが、その人たちですら合格率を上げることができませんでした。社会の上層階層に属する人たちが受験しても受からないことがわかってしまうと、外国人は日本に集まってきません。

 わざわざ外国で働くからには見通しが必要です。看護師の場合も介護福祉士の場合も、日本の国家試験の受験資格を得るには、日本で2〜3年の実務経験が必要になります。人生のなかで2〜3年は大きいでしょう。その大きな決断に対して、あまりにも合格の確率が低いと人は集まりません。

 ましてや当たり前のことですが、優秀な人ほど見通しを計算しますので、優秀な人が集まらなくなってしまいます。日本人の合格者とは基準がずれてしまいますが、一定の合格率を担保するようにして、合格した後に日本語力などを訓練するというように発想を変えて受け入れないと、制度をつくっても利用されないままになってしまうでしょう。

●御礼奉公を強いる

――EPAで介護人材を受け入れる場合、国家資格合格までは日本人と同一賃金で、労働時間が週28時間に限定されて、あとの時間は受験勉強に充てることになっていますね。介護事業者にとっては、コストパフォーマンスに見合わない使い勝手の悪い制度で、現状では体力のある事業者でないと、なかなか受け入れられないという問題もあります。

丹野 医療法人を母体とするような社会福祉法人などでないと、たぶん受け入れは難しいでしょう。看護師の場合も相当なコストが発生します。看護師国家試験の合格率は数年間10%を下回っていましたが、外国人を受け入れた法人は給料を払って、寮を提供して、受験勉強の費用も負担すると、1人につき年間700万円ぐらいかかってしまいます。

 受け入れた人が全員合格すれば1人当たり700万円のコストで済みますが、かりに3人を受け入れて合格者が1人なら2100万円のコストになってしまいます。看護師国家資格を受験するには、インドネシア人とベトナム人は日本で2年、フィリピン人は日本で3年の実務経験が条件になるので、受け入れた医療法人は1人を合格させるためにゆうに5000万円、場合によっては1億円くらいのコストがかかってしまいます。

 そうすると、そこまでコストをかけた人が有資格者になった後に他の病院に転職してしまったら困るので、債務返済労働のようなかたちで縛りつけておかざるを得なくなります。

――御礼奉公を強いるわけですね。

丹野 今のEPAの受け入れのあり方では、本人にとっては合格した後に自由な労働力になれるわけではなく、不自由な状況に置かれてしまいます。受け入れた医療法人も、有資格者を縛りたくて縛っているのではありません。そこまでコストをかけた以上は元を取らなければなりません。EPAは誰もハッピーにならず、誰もが不幸になってしまう仕組みです。

 かりに安い労働力として雇って、資格を取らせないまま一定の年数働いてもらって帰国させるのなら、今の仕組みのままでもよいでしょう。しかし、資格を取って日本で長く働いてもらうのなら、資格要件を緩くして、人が集まってくるインセンティブと計画性をもった仕組みにして受け入れを図ることが必要です。
(構成=小野貴史/経済ジャーナリスト)