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●牛乳は健康に良いのか悪いのか?

 牛乳を定期的に飲むことが、健康に良い食生活である、という考え方は、比較的最近まで世界的に広く認知されたものでした。成長期のお子さんの場合には、身長を伸ばすために有効だと考えられていて、大人になってからは、将来の骨粗鬆症の予防に有効だとされていました。かつては粘膜を保護する、胃潰瘍の治療薬としても使用されていました。カルシウムの摂取のためには、牛乳を含む乳製品の吸収率が高く、効率的であるとも考えられていました。

 しかし、その一方で牛乳は健康に悪いのでは、という考え方も、近年では決して少数派とはいえません。

 牛乳というのはかなり高カロリーの食品で、動物性の脂肪を多く含んでいます。特に大人になっても牛乳を飲むという習慣は、肥満や動脈硬化に結びつく可能性が否定できません。牛乳に含まれる蛋白質のカゼインは、1型糖尿病の原因の1つなのでは、というデータが複数報告されています。一部のがん、特に前立腺がんは、乳製品の摂取量と関連があるとする、これも複数の報告があります。

 牛乳には乳糖が含まれていますが、この乳糖は人間の乳糖分解酵素により、ブドウ糖とガラクトースという2種類の単糖類に分解され、その後に身体に吸収されます。小さなお子さんはこうした酵素を多く持っていて、そのため効率的に乳糖を分解して吸収できるのですが、大人になるとその効力は落ち、吸収される量は減ります。

 そしてこのガラクトースは、比較的少量の摂取においても、動物実験では酸化ストレスを増し、慢性の炎症を惹起して、老化を促進するという複数の報告があるのです。

●ガラクトースの健康への害

 ネズミにおいては、体重1キログラム当たり100ミリグラムのガラクトースで、慢性の炎症や老化促進の影響が生じるとされています。この量を人間で換算すると、6〜10グラムとなり、概ね1日当たりコップ1〜2杯の牛乳を、飲み続けることに相当します。乳糖は生乳に5%程度含まれていて、それが200ミリリットル当たり5グラムのガラクトースに、ほぼ変換されるからです。

 仮に動物実験と同じことが人間にも当てはまるとすると、1日コップ1〜2杯程度の牛乳を飲んでいても、老化が促進されるということになり、これは由々しき事態で、今の牛乳の摂取についての考え方を、根底から見直さなければならない、ということになります。

 しかし、本当にそれは人間においても当てはまるような事実でしょうか? それは今のところ明らかではありません。

●スウェーデンの疫学データのインパクト(2014年)

 2014年のブリティッシュ・メディカル・ジャーナルという医学誌に、乳製品と寿命や骨折との関係を調べた論文が発表されました(註1)。そこでは、スウェーデンにおける、男性と女性の2つの大規模な疫学データを活用して、牛乳の摂取量と生命予後及び骨折リスクとの関連性を検証しています。女性は6万人以上、男性は4万5000人以上が対象となっていて、女性は20年以上、男性も10年以上という長期の経過観察を行った、これまでで最も大規模な疫学データです。

 結果はビックリするようなもので、牛乳を1日コップ3杯以上飲んでいる女性は、コップ1杯未満しか飲まない女性の倍近く、亡くなる人が多かったのです。男性では違いはもっとわずかですが、やはり牛乳をたくさん飲む人は、飲まない人よりも亡くなることが多いという結果になっていました。

 骨折の起こりやすさについても、女性では牛乳をたくさん飲んでいる人のほうが、少ない人よりもやや骨折が多い、という結果になっていました。なかでも多かったのは股関節の骨折です。男性においては骨折と牛乳の摂取量との間には関係は見られませんでした。

 そして、乳酸飲料やヨーグルト、チーズのような乳製品では、牛乳のような死亡や骨折との関連は認められませんでした。

 つまり、特に女性で牛乳を1日2杯以上飲んでいると、病気で亡くなる人や骨折をする人が増えるというショッキングな結果です。その一方で、発酵食品であるヨーグルトや乳酸飲料、チーズではそうした結果は出ていません。

●牛乳は本当に骨折予防に良いのか?

 スウェーデンのデータでは、牛乳を飲むことにより骨折が増えています。骨に良いはずの牛乳でどうしてそうした結果が出てしまったのでしょうか。

 実は10代で牛乳をたくさん飲むと、骨の量は増えるのですが、身長も伸びるので、結果として大人になってからの重心が高くなり、それが股関節の骨折を起こしやすくする、というデータが存在しています(註2)。もちろん、カルシウムやビタミンDが多く摂れるというメリットもあるのですが、そればかりではないのです。

●牛乳と生活習慣病との間には、どのような関係があるのか?
 
 乳製品を多く摂る人は糖尿病などの生活習慣病にはなりにくい、というデータが複数存在しています。しかし、牛乳には動物性の脂肪が多く含まれていて、本当にそれで生活習慣病の予防になるのか、という疑問があります。

 2014年のダイアベトロジア誌という糖尿病専門誌の論文では、乳製品を高脂肪のものや低脂肪のものに分け、また生乳とヨーグルトやチーズを分けて検討した結果、ヨーグルトのような発酵乳では、明確な糖尿病の予防効果が認められたが、牛乳などのみでは、そうした予防効果は認められなかった、という結果が報告されています(註3)。

●牛乳と健康をどう考えるのが良いのか?
 
 それでは、牛乳は健康に良いのでしょうか、悪いのでしょうか?
 
 これはまだ結論の出ていない問題ですが、乳製品の健康への良い影響の多くは、実は牛乳ではなく、ヨーグルトやチーズによるものだと考えられます。

 その理由はまだ明確ではありませんが、牛乳に比べてヨーグルトなどの発酵乳のほうが、低脂肪で、老化の促進因子であるガラクトースの含有量も少ないことが、その要因として想定されます。特に成長期を過ぎた大人では、1日コップ1杯を超える牛乳を飲むことは、あまり健康的ではない、と考えたほうが良いように思います。
 
 皆さんも乳製品と賢く付き合ってください。
(文=石原藤樹/北品川藤クリニック院長)

【参考文献】
註1:Michaelsson K, Wolk A, Langenskiold S, et al. Milk intake and risk of mortality and fractures in women and men: cohort studies. BMJ. 2014 Oct 28; 349:g6015.
註2:Feskanich D, Bischoff-Ferrari HA, Frazier AL, et al. Milk consumption during teenage years and risk of hip fractures in older adults. JAMA Pediatr. 2014 Jan; 168(1):54-60.
註3:O’Connor LM, Lentjes MA, Luben RN, et al. Dietary dairy product intake and incident type 2 diabetes: a prospective study using dietary data from a 7-day food diary. Diabetologia.2014 May; 57(5):909-17.