ヒッチコックにインタビュー中のトリュフォー
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 『サイコ』(1960)、『めまい』(1958)を触れずして、巨匠アルフレッド・ヒッチコックを語ることはできない。とりわけ、公開当時に賛否両論を巻き起こした『めまい』は掘れば掘るほど物議を醸し出し、ひいてはヒッチコック自身の性癖や人間性にも話が及ぶ。ドキュメンタリー映画『ヒッチコック/トリュフォー』でヒッチコックの実像を追ったケント・ジョーンズ監督が、劇中、繰り広げられる『めまい』にまつわる論争を改めて分析した。

 本作は、ヌーヴェルバーグの旗手フランソワ・トリュフォーが、敬愛するヒッチコックに肉迫したインタビュー書「定本 映画術」(晶文社)に基づいたドキュメンタリー。マーティン・スコセッシ、デヴィッド・フィンチャー、ウェス・アンダーソン、リチャード・リンクレイター、黒沢清ほか現代に生きる10人の映画監督へのインタビューを交えながらヒッチコックの映画術に迫る。

 実に50時間(1日5〜6時間、9週間)という膨大なインタビューと製作費をかけて作り上げた「定本 映画術」は、トリュフォーにとって1本の映画に匹敵すると言われている。そういった観点から見ると、「トリュフォーならではのスピード感はあるものの(編集・出版に)急いでいたのか、インタビューにおけるヒッチコックの息づかいや、彼独特のユーモアが文字に反映されていない」と指摘するジョーンズ監督。

 全インタビューの音声を聞いたがゆえの辛口批評だと思うが、ヒッチコック作品の中で異色とされる『めまい』にトリュフォーが噛み付いているのも面白い。「確かにトリュフォーは、『スピード感がなく、ゆったりとしていて寂しい映画だ』みたいなことを言っていますが、これに対してヒッチコックが、『それは感情の起伏がある人の視点から語っている』と返している。まるでヒッチコックが感情が麻痺した人のような自虐的な言い方をしているところが興味深い」と力を込める。

 さらにトリュフォーは、「物足りない、面白いが中味がない」など『めまい』に対してヒッチコックに厳しい意見を突き付ける。もともと、敬愛するヒッチコックの正統な評価を取り戻すために始めたインタビューだっただけに、こと『めまい』に対するトリュフォーの思いは計りしれないものがあるが、「映画は大作だっただけに興行的に失敗だった」というトリュフォーの最後の言葉は、ヒッチコックにトドメを刺す。ジョーンズ監督いわく、「結局、『めまい』の何がヒッチコックを悩ませていたかというと、あの作品がヒットしなかったこと。それを認めることが何よりもつらかったのだと思う」と推測する。

 「定本 映画術」に大きな影響を受けたという現役監督たちの中でも、『めまい』は賛否が分かれる作品だが、とりわけジョーンズ監督は、フィンチャーの言葉が(同意はしないけれど)心に残っているという。「彼は『女性の目線から見える愛の物語、あるいは男の要求に応えながら愛を求める女性の物語』という面白い見方をしていた。『めまい』と同じ手法で、女性の目線を入れずに撮ったのが『ゴーン・ガール』かもしれない」と分析してみせた。(取材・文:坂田正樹)

映画『ヒッチコック/トリュフォー』は12月10日より新宿シネマカリテほか全国順次公開