ハートフルテイストな『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』 (C)2016 Pathe Productions Limited. All Rights Reserved. 

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…前編「超絶的にオンチなメリル・ストリープがカーネギーホールを満員に!?」より続く)

【映画を聴く】『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』後編
米仏・名女優2人のオンチっぷりを聞き比べたい

メリル・ストリープはその演技力だけでなく、抜群の歌唱力でも知られる人だ。『マンマ・ミーア!』や『イントゥ・ザ・ウッズ』などのミュージカル映画のほか、今年3月に日本公開された『幸せをつかむ歌』では熟年ロックシンガーを演じ、ニール・ヤングに手ほどきを受けたというギター演奏も披露していた。

そんな技巧派のベテランが、超絶オンチなフローレンス・フォスター・ジェンキンスをどう演じるのかがこの映画の大きな見どころのひとつだが、本当に歌が上手い人は、たとえ下手に歌っても人を魅了することができる。そのことがよく分かる、さすがの絶唱だ。彼女はこの役を演じるため、まずは上手く歌うことを徹底的に練習し、その後少しずつ音程やリズムを崩していったという。絶世のオンチと嘲笑されながらも多くの人を魅了したフローレンス。その天真爛漫な人柄の再現にも余念がなく、さすがメリル・ストリープとしか言いようのない、なりきりぶりを見せてくれる。

前編でも触れたように、フローレンス・フォスター・ジェンキンスを題材とした物語は、本作よりひと足先にフランスで『偉大なるマルグリット』として映画化されている。こちらは伝記映画ではなく、彼女をモチーフとした半フィクション。主人公の名前もフローレンスではなくマルグリットに変えられているが、そのマルグリットを演じていたのはフランスの女優、カトリーヌ・フロだ。

彼女のオンチっぷりもなかなかに見事なものだったが、物語のトーンは大きく異なる。喜劇をベースに夫婦愛や夢に向かう感動を散りばめた『マダム・フローレンス!』に対して、『偉大なるマルグリット』では自分のオンチぶりに気づかないマルグリットを悲劇的な要素を多めに描いている。そのため見終えた後の余韻もまるで別もの。ベテラン女優ふたりのオンチぶりを聴き比べるという意味でも、ぜひ両作ともチェックしていただきたい(『偉大なるマルグリット』はDVDがリリース済み)。(文:伊藤隆剛/ライター)

『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』は公開中。

伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。