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【映画を聴く】『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』前編
デヴィッド・ボウイも愛聴した“歌唱力”

演技だけでなく、歌にも定評のあるメリル・ストリープが、超絶オンチな大富豪のマダムを演じる『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』。本作は、かつてNY社交界に実在したフローレンス・フォスター・ジェンキンスという女性の半生を描いた伝記映画だ。

熱心に新作映画をチェックしている人ならお気づきかもしれないが、彼女を題材とした映画は今年の2月にも日本公開されている。『偉大なるマルグリット』というフランス映画で、このコーナーでも公開時期にレビューさせていただいた(史上最低の音痴歌手をモデルとした悲喜こもごもの人生オペラ、『偉大なるマルグリット』 )。

1868年生まれのフローレンス・フォスター・ジェンキンスは、両親の莫大な遺産を相続したNY社交界きってのセレブ。音楽家を支援するクラブを創立し、自身も歌うことをこよなく愛しているが、自分の歌唱力に致命的な欠陥があることに気づいていない。彼女のパートナーでマネージャーでもあるシンクレア(ヒュー・グラント)は、その事実を本人に気づかれないようにマスコミを買収し、イエスマンのピアニストに伴奏をさせ、彼女が歌うリサイタルには懇意の人しか呼ばないなど、影であらゆる策を講じている。

そんなストーリーだけを聞くと、まるでドタバタコメディのように思える話だが、本作をただ滑稽なだけに留めていない最大の要素は、フローレンスとシンクレアの夫唱婦随ならぬ“婦唱夫随”の関係性だ。ひたすら純粋に音楽を愛し、ついにはカーネギーホールのステージに立ちたいと言い出すフローレンスの夢は、いつしかシンクレアの夢にもなっていく。

邦題の“夢見るふたり”が指す“夢”はあまりに大きく、そして儚いもののように思える。しかしフローレンスのカーネギーホール公演は、1944年10月25日に実際に行なわれている。完売の客席には当代随一の作曲家だったコール・ポーターの姿もあったという。また、後にリリースされた彼女のレコード(現在CDでも数種類が流通している)は、アウトサイダー・ミュージックの必聴盤として、あのデヴィッド・ボウイの生涯のフェイバリットだったことでも知られている。(後編へ続く…)

後編「本当に歌が上手い人は、たとえ下手に歌っても人を魅了する!」