ここ数年、ロサンゼルス・ショーの目玉といえば、マツダのクロスオーバーという印象だ。一昨年はコンパクト・クロスオーバーの「CX-3」を発表し、昨年は3列シートのクロスオーバー「CX-9」を発表した。そして今年は、マツダの大黒柱として、販売台数の約1/4を占める「CX-5」がブランニューとなった。

1

初代はスカイアクティブ・テクノロジーを軸に、ものづくり革命とともに、従来のクルマ作りを刷新するほどの内容だった。ミドルサイズSUVという新しいカテゴリーに進出するとともに、手の届く価格帯でクリーンディーゼルを搭載するという話題満載のモデルだった。なにしろ、当時のマツダはSUVに強いというイメージは乏しかった。もちろん、ディーゼル乗用車の実績も乏しかった。あ、「ボンゴ」や「タイタン」にはディーゼルがあったけど、ね。ところが、わずか3年の間に、マツダはSUVのフルラインナップ・メーカーとなった今から思い返すと、少々、違和感を覚えるほどだ。事実として、「CX-5」におけるディーゼル車の販売比率の高さは、マツダとしても予想外の展開だったらしい。

ただ、屋台骨を支えるモデルとなると、たいていはフルモデルチェンジの際に、保守的な変更をうけることになる。一方で、新型「CX-5」は次世代に向けての進化の方向性を示すモデルともなるワケで、がぜん、新世代のマツダのデザインがどう変わるのか、期待が高まる。

ショー開幕前夜、インヴィテーションに書かれた住所を頼りに、デザイン部門のプレゼンテーションが行われるハリウッドにあるスタジオに向かう。赤いライティングが印象的なステージに、デザイン部門を率いる前田育男氏が登場した。マツダのデザイン部門は、現フォードのチーフ・デザイナーであるモーレイ・カラム氏のあと、現ルノーのデザイン部門を率いるローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏と、世界に名を轟かす外国人の著名デザイナーが続いていた。今から思うと大変失礼な話だが、2011年にヴァン・デン・アッカー氏が、ルノーの鬼才として名高かったパトリック・ルケモンの後を継ぐ形で移籍したあと、果たして、久方ぶりに登場する生粋の日本人デザイナーに、いったいどれほどの仕事ができるのか、と世界中の注目が集まったのは、ごく当然のことだった。今となってはまったくの杞憂なのだか、当然、案じる声も小さくはなかった。

しかし、いい意味で期待は裏切られた。前田育男さんが打ち出した魂動デザインは、瞬く間にグローバルで評価を得た。車種ごとのデザインが優れるだけではなく、マツダというブランド全体を通して、一本の軸が通った個性を放っていた。
「『人馬一体』というキーワードを軸に、グローバルで通用するデザインを目指しました。力強く、ダイナミックで、魂の存在が感じられるデザインとして、ソウル・オブ・モーション、魂動という表現をしています」と、前田さんは語る。

前田さんは、クルマをデザインしない。人の手でしか生み出すことのできない、人の心を打つフォルムにこだわり、最終的にクルマのデザインに落とし込んでいく。マツダの中では”御神体”と呼ばれるフォルムがあり、これをベースに、各モデルのチーフ・デザイナーが個々のクルマのキャラクターに落とし込んでいく。だからこそ、マツダ・デザインは一貫したDNAを感じるのだろう。

この日、新たに次世代のマツダ・デザインを占うキーワードとして打ち出されたのは、「CAR AS ART」という言葉だ。これまでのDNAである魂動デザインの基本は受け継ぐが、さらにデザインのクオリティをアーティスティックなレベルに高める方針だ。とはいえ、工業製品であるクルマを、一点ものであるアートの次元まで高めるというのは、並大抵のことではない。もちろん、デザインだけではなく、匠と呼ばれる経験豊かなモデラー、生産現場までが一丸となって取り組むのだという。

 

アンベールされた新型「CX-5」の詳細を見ていこう。一番の見どころは、マツダを代表するボディカラーとなった「ソウルレッド」の新色だ。従来は、「ソウルレッドプレミアムメタリック」だったが、新型「CX-5」では「ソウルレッドクリスタルメタリック」となった。最大の違いは、赤の「深み」だ。従来のソウルレッドにはオレンジがかった色味が入っていたのだが、新しいソウルレッドは光の明暗によるコントラストが強く出る。明るい部分はキラッと輝く、暗い部分はワインレッドのような深みのある赤なのだ。「CX-9」の新色であるマシングレーに使われたアルミフレークを入れ込んだ塗装が、この色合を出している。一番下にあたる反射・吸収層に、高輝度アルミフレークを均質に並べつつ、光吸収フレークを併用することによって、わずか三層の塗装で、複雑な色合いを実現している。

「色味そのものは変化させていませんが、輝きの部分を強調し、影になるところの深みを増し、明度差を広げました。フロントのシャープなエッジが、徐々に曲率が大きくなって、リアフェンダーへと変化していく。そのようなひとつの塊の、面による変化が映えるボディカラーを選んでいます。キャラクターラインにたよらず、面の変化によってもたらされる光の変化による動きを表現しました」と、デザイン部本部長である中牟田泰氏は言う。

初代「CX-5」の登場時、マツダにSUVのイメージがなかったため、あえてSUVらしい押し出し感のある顔立ちを採用した。一方、新型はひとめでマツダとわかるシャープな造形のフロントランプが採用されている。見た目の重心を下げて、安定感を高めて、ホイールアーチからボディサイドへと滑らかに連なる面によって、踏ん張り感を増している。

もう一つの注目は、クラスにふさわしい室内空間だ。初代「CX-5」ではお世辞にも高級感があるとは言いがたかった。その後、「デミオ」や「CX-3」あたりから、インテリアの質感がぐっと高まったことはご存知の通りだ。「新型CX-5では、立体の強さを出しました。ベンチレーショングリルなども、ぐっと収めて、奥行きを出しています。ドアとインパネの端境の一体感にも注力しました。共用パーツも活用しつつ、クルマの個性にあわせて作り分けています」と、中牟田氏。

実際に室内に乗り込むと、全体にまとまり感があって、素材の質感も高い。インパネからドアトリムまで連なる一体感があって、SUVらしい視点の高さと合わせて開放感が高い。一方で、ウェストラインから下を引き締めることにより、ドライバーオリエンテッドの印象も残している。

もうひとつのトピックスは、「SKYACTIV-D 2.2」のクリーンディーゼルが北米に初導入される点だ。フォルクスワーゲンのディーゼル問題で揺れる中、あえて投入するからには排ガス規制への適合には心を砕いたようだ。実際、北米モデルでは後処理装置に尿素SCRを搭載し、厳しい北米の基準をクリアする。加えて、「SKYACTIV-G 2.0」と「SKYACTIV-G 2.5」の2種のガソリンエンジンを搭載する。

「初代CX-5のお客様が、再び、新型を選んでくださるためにクルマを成長させました。ボディ骨格の構築、騒音や振動の低減、乗り心地の向上といった基本となる部分の向上に加えて、ドライバーが運転して楽しいのはもちろんですが、同時に、助手席や後席の人の快適性を阻害しないクルマ作りを目指しました」と、商品開発担当の児玉眞也氏は語る。

そのため、マツダが独自に開発した車両運動制御技術である「SKYACTIV-VECHICLE DYNAMICS」の第一弾である「G-ベクタリングコントロール」を搭載している。人間が感じる微小なGを検知し、ドライバーの操舵に対してエンジンの駆動トルクを変化させて、前後・左右のGを統合制御するシステムである。「トルクベクタリング」とどこが違うかというと、山道でかっ飛ばすようなシーンで大きなGの入力を検知して、左右の駆動力の配分を変化させて、よりクルマを曲げやすくするシステムだ。それに対して、Gベクタリングコントロールは、町中を走るような小さなG変化でも、滑らかな動きになるように制御しているという違いがある。

初代は、日本のクリーン・ディーゼル市場に風穴と空けたと同時に、マツダにSUVのイメージを植え付けた立役者だったが、新型となり、よりマツダ・デザインが際立つ個性派のクロスオーバーへと変革したのだ。

(文:川端 由美)
[Photo by Victor Decolongon/Getty Images for Mazda Motor Co.]

 

マツダCX-5の開発者に聞いた、新型CX-5の本当の狙いは?(http://clicccar.com/2016/12/02/422002/)