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マンチェスター大学とノッティンガム大学の研究チームは、グラフェンに似た結晶構造を持つ新しい二次元薄膜材料セレン化インジウム(InSe)を開発した。二次元のInSeはシリコンを上回る電子移動度を持つ半導体であり、次世代の高速トランジスタなどの材料として有望視されている。研究論文はナノテク専門学術誌「Nature Nanotechnology」に掲載された。

原子1個分の厚さしかない二次元の炭素材料であるグラフェンは、従来の材料を凌駕するさまざまな物質特性を備えており、電子・光学デバイス、二次電池やキャパシタ、強化・軽量化素材など幅広い分野への応用が期待されている。また、グラフェンの電子移動度は15000cm2/Vs超と極めて高いため、トランジスタなど半導体デバイスへの応用も研究されているが、シリコンなどの半導体材料と異なりバンドギャップがゼロであるため、トランジスタのオン/オフ切替えを行うことが困難であるという問題がある。

このため近年では、グラフェンに似た二次元の結晶構造と半導体のバンドギャップを兼ね備えた、新しい二次元材料の研究開発が活発化している。今回報告されたInSeもそうした二次元半導体の一種である。

InSeの二次元薄膜は、大気中の酸素と水分によって急激に損傷してしまうという性質があり、これまで作製することが難しかった。今回の研究では、不活性ガスであるアルゴン雰囲気中で処理する新技術を用いることにより、二次元InSeの作製に初めて成功した。

二次元InSeの電子特性を評価するため、InSeを用いた電界効果デバイスも作製した。InSeとグラフェンのコンタクトを形成して、同じく二次元材料の一種である六方晶窒化ホウ素(hBN)で封止し、上部にトップゲート電極を載せるデバイス構造とした。

このデバイスを使って測定されたInSeの電子移動度は室温条件で2000cm2/Vsであり、室温でのシリコンの電子移動度1350cm2/Vsを上回っている。-269℃(約4K)の液体ヘリウム温度では、さらに1桁高い104cm2/Vsオーダーの電子移動度が測定されている。量子ホール効果も観測され、半導体中で電子が二次元平面状に分布する「二次元電子ガス」と呼ばれる状態が形成されていることが確認された。

世界で初めてグラフェンの作製に成功し、2010年にノーベル物理学賞を受賞したアンドレ・ガイム氏も、今回の研究に参加。「極薄のInSeはシリコンとグラフェンのいいとこどりである。InSeはグラフェンのように薄く、シリコンのように優れた半導体だ」という趣旨のコメントをツイッターで発信している。

InSe以外にも、これまでに二硫化モリブデン(MoS2)、二硫化タングステン(WS2)、二硫化ハフニウム(HfS2)、六方晶窒化ホウ素(hBN)などさまざまな二次元材料が開発されており、それぞれが異なった材料特性を持っている。グラフェンの特性を補完するこれらの新規二次元材料を用いることで、シリコンでは実現できない性能を持つ次世代半導体デバイスが可能になると期待されている。

(荒井聡)