韓国の朴槿恵大統領の親友、崔順実(チェ・スンシル)被告の国政介入疑惑、いわゆる「崔順実ゲート」をめぐり、韓国全土では連日連夜の抗議集会、デモが開かれている。朴槿恵大統領は、進退問題を国会の決定に預け、任期前に辞任する意向を示すところまで追い込まれた。

北朝鮮の国営メディアは連日、韓国で繰り広げられている反朴政権の集会、デモを大きく報じているが、朴槿恵大統領の辞任受け入れ発言については今のところ報じていない。その理由は定かではないが、北朝鮮当局は報道の余波が自国に跳ね返ってくるのではないかと懸念しているとの見方が出ている。

オーストリアのウイーン大学のルディガー・フランク教授は、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材に、北朝鮮当局は今回の大規模集会、デモについて自国の住民に伝えつつも、非常に慎重にならざるをえないだろうと指摘し、次のように述べた。

「(韓国国民は)職務をまともに遂行できない政治指導者に対して、いかに反対するかを見せており、(北朝鮮の指導部の立場からすると)非常に都合の悪い実例になりうる」

短期的には、朴槿恵大統領の無能、腐敗、側近の不正行為、そして集会やデモなど、混乱した韓国の状況を報じることは、「北朝鮮のプロパガンダの勝利」ということを見せつける側面もあると指摘する一方で、民主的な集会やデモで政権交代が実現する可能性もあり、金正恩政権にとっては決して好ましいとは言い難い。

「北朝鮮当局としては、路上に出た100万を超える市民の姿をフィルタリングなしにさらけ出すことは避けなければならないだろう。支持を得られない指導者が民意によって除去される状況が、詳細まで知れ渡ることは非常に都合が悪いからだ」(フランク教授)

多くの脱北者の見方も、フランク教授と軌を一にする。そんな声を米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)が報じている。

2014年に脱北し、現在は米国在住のキム・マテさんは、北朝鮮の国営メディアが伝える朴槿恵大統領退陣を求める集会、デモを見た北朝鮮の人々は「(韓国には)集会、報道、出版、結社の自由がある」ということに気づいてしまうだろうと述べた。

また、別の脱北者、デイビッド・キムさんは次のように述べた。

「北朝鮮政府は、韓国を『腐りきった資本主義社会』などと教育しているが、人々は『自由な国だからあのように大統領を引きずり下ろすこともできる』とか『北朝鮮の指導者は代わらないが、韓国の指導者は5年に1回代わる』などと思い、韓国に行きたい、住みたいと思うだろう」

さらに、北朝鮮に大量に流入している韓流のドラマやバラエティも、北朝鮮の人々の考えに影響を与える可能性が指摘されている。番組によっては、韓国の今の世相が色濃く反映されているからだ。

米国の北朝鮮向け放送を行っている放送局、なかでもVOAは、朴槿恵大統領の退陣を求める集会やデモについて詳しく報じている。韓国の民主主義、政治的表現の自由が保障されていることが、北朝鮮の人々の考え方を変えることにつながることを理解しているからだろう。

一方で、韓国の北朝鮮向け放送を行っている各放送局は、これらのことについて、ほとんど報じていない。