【パワーアシストだけじゃない】電動化で広がるパワーステアリングの役割

写真拡大 (全13枚)

もともとは油圧だったが電動の採用で燃費への影響が極小に

今や常識的な装備になったパワーステアリング、通称パワステです。ステアリングを回す力を、アシストすることで軽減するメカニズムです。乗用車ではほぼすべてのモデルに標準装備されています。しかし、当初は軽くすることが目的だったパワステも、現代のクルマではより進化した目的でメカニズムが利用されています。

ステアリングを回すのに、昔はそれほど力は必要ありませんでした。それはタイヤが細かったからです。タイヤが細くてグリップが低く、またステアリングホイール自体のサイズも大きかったので、ドライバーはそれほど力を入れなくてもステアリングを回せたんです。

現在のクルマではパワステが不可欠になっています。というよりも、パワステを前提にしたクルマ作りになっているのです。

最初のパワステは油圧によるものでした。ステアリングギヤに油圧を与えることで、ステアリングの操作力を軽くしました。右方向と左方向、両方に油圧が掛かっていて、少し切るとバルブが開いて、ステアリングギヤに油圧がかかります。

昔はクルマを停車する時はステアリングを直進に、というハナシがありましたが、それはステアリングが切れていると片側の油圧バルブが開いてしまうためです。それが経年劣化を生む原因となりました。

それに対して、電動パワステは比較的新しい技術です。電パとか、EPSと略されます。じつは日本発祥の技術なんです。軽自動車のステアリングを軽くするために考案された安価なシステムなんです。

ステアリングは速度が低いほど重くなります。駐車するときにステアリングが軽くなることを目的に、モーターがステアリングを押すのがEPSの構造です。当初は30km/h以下で作動するものでしたが、ホンダNSXによって本格的なEPSが開発され、その後急速に広まることになります。

油圧パワステではエンジンの力によって油圧を発生させます。そのためミッドシップでは油圧をエンジンからフロントのステアリング機構まで引き出さなければなりませんでした。NSXはそれを解消するために、EPSを採用したのです。

しかしEPSのメリットはミッドシップにも採用できるというだけではありませんでした。油圧パワステでは常に油圧がかかっているのに対して、EPSではステアリングが切れた時だけアシストがかかります。直進状態ではアシストがかからないのです。

アシストしないということは、それだけエネルギーを節約できます。電気は瞬時に起動することができるので、直進状態では休止することができるのです。そのため燃費対策に有効です。エコがクルマのテーマのひとつになると、EPSは多くのモデルに採用されていくことになりました。現代では、パワステといえばEPSのことを指す、といっても過言ではありません。

しかしその中間というのも、一時期存在しました。ハイブリッドです。構造としてはエンジンではなく、モーターで油圧を発生させるシステムです。電動油圧パワステと呼ばれていました。油圧はある程度保持できるので、モーターを常に作動させる必要はありません。その分だけエネルギーを消費しませんが、燃費対策としてはEPSと油圧パワステの中間になります。

自動運転技術にも役立っている電動パワステ

EPSでは、モーターの位置によって構造が複数あります。まずステアリングコラムにモーターを配置したのがコラム式EPSです。もともとのEPSはこの構造で、具体的にいえばステアリングシャフトに対してモーターを配置します。

メーターパネルの奥にモーターが配置されるので、大きな大容量のモーターを採用することができます。しかしステアリングギヤまで距離があるので、細かい制御は苦手です。

ステアリングシャフトの先端、ステアリングギヤに入るところにモーターを配置するのがピニオン式です。日本ではコラム式が主流ですが、ヨーロッパでは細かい制御が可能なピニオン式が主流です。

ラック・アンド・ピニオンのステアリングギヤに対して、2つのモーターを配置して、より高精度でハイパワーを可能にしたダブルピニオンという方式もあります。スカイラインのアクティブステアリングにも採用されていて、将来的な自動ステアリングのために最適なシステムです。

より高精度な制御が可能なのはラック・アンド・ピニオンのラック側にモーターを配置したラック式です。ステアリングギヤとタイロッドの中間なので、よりダイレクトになるからです。NSXのパワステは、この方式でした。ただしエンジンルームの下になるので、スペースを確保することが難しく、モーターの出力を大きくすることが難しいので、大きなミニバンではコラム式が採用されています。

現代のEPSには、車両制御が組み込まれています。直進状態を保持したり、ステアリングの重さをあえて変化させることで、ドライバーが回しやすい、あるいは回しにくい状況を作ることができます。

たとえば直進性が良くないクルマでも、EPSの制御によって直進性を高めることができます。現代のクルマは転がり抵抗を低減するため、トーもキャンバーもゼロに近い値なので直進性に不利です。そこを補正するのがEPSの役割でもあるのです。

自動ステアリング機能は、油圧パワステでは不可能です。モーターによってステアリングを切る必要があるからです。油圧パワステはアシスト力を出すものであって、自発的にステアリングを回すことばできないからです。将来性を含めて、油圧パワステとEPSには、大きな差があります。

理想はステア・バイ・ワイアです。スカイラインのアクティブステアのように、ステアリングシャフトとステアリングギヤが連結されておらず、コンピューターの判断によってモーターが作動するシステムが求められます。それによって単に操作力の低減だけでなく、いろいろ制御が拡がるからです。

パワステは単なるアシスト装置から、自動運転の機能の一部として進化したわけです。

(文:岡村神弥)