頭ひとつ上の弁護士は「猛練習・破壊・鷲掴み・手柄欲」

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裁判はドラマである。被告人、検察官、弁護士、裁判長……彼らの言動や立ち居振る舞いに、人生と人間の本質がにじみ出る。長年、裁判傍聴をフィールドワークとし、『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』『裁判長!これで執行猶予は甘くないすか』などを上梓している北尾トロ氏がお届けする、明日ビジネスに使える裁判スキルコラム!

■優秀な弁護士チームに学ぶ、理想の上司と部下

大きな事件になると、検察官も弁護人もチームを組んで裁判に臨む。検察官が用意する証拠書類は膨大になり、それを読み込みんで検討する弁護人の作業も、ひとりでは手に余る量になるからだ。また、罪状が複数あったり、複雑な内容を含んだりする場合には、手分けして対応する必要も出てくる。

組織に属している検察官はまだしも、個人事業主である弁護人が被告人に有利な判決を勝ち取るためには鉄壁のチームワークが欠かせない。

いい弁護人チームとは何なのか。もっとも多い2人組を例に考えてみると、パターンはふたつある。

(1)分担型:互角のキャリアを持つプロ同士がタッグを組む
(2)サポート型:ベテランと若手弁護士の師弟コンビ

(1)は、被告人の容疑が複数に渡る場合や、重大事件で証人の数が多いケースなどで見受けられる。便宜上、どちからが主任弁護人を名乗って前面に立つが、弁護の進め方は、互いの担当箇所をバランス良く分けて最大の成果を目指すスタイル。どちらが質問や尋問をしても遜色ないので、傍聴席から見ていても安定感があるのが特徴。

(2)は、ベテラン主任弁護人がメイン。若手は派手な見せ場もなく、一見すると助手のように感じられなくもない。ただし、ずっとそうなのではなく証人尋問を一部担当したり、どこかで存在感を示す機会が与えられたりすることが多い。とはいえ、裁判の結果を左右するような局面ではベテランが孤軍奮闘するのであくまでもサブの立場だ。

(1)(2)をもう少しわかりやすく説明しよう。

(1)の場合、いい結果を出すコンビは、主任弁護人がキャリアも弁護のレベルもわかった上で相棒を選び、互いに相手を尊重できる関係を形成すると想像できる。だいたいは弁論が得意なアタッカー役と実務型の守備役のコンビ。なお、自分よりはるかに格上を相棒にするとは考えにくいので、主任弁護人のレベルがチームの基準となる。

僕が注目したいのは(2)サポート型の師弟コンビで、全体としてはこちらの組み合わせが主流。チームとしての弁護活動を見ていると、彼らの関係性は上司と部下にも置き換え可能だと思えてくる。

■弁護人チーム ダメな師弟、デキる師弟の特徴3

(2)におけるいいチームとは何かを考える前に、ダメなパターンをいくつか紹介しよう。チームリーダーである主任弁護人の力量不足は論外として、チームとして機能していないことはよくある。

●単純な打合せ不足。
●信頼関係が薄い。
●若手にやる気がない。

このいずれか、あるいはそれらが少しずつ重なって、傍目からは主任弁護人がひとりで戦っている印象を受けるのだ。

若手がなにもしないわけではなく、証人尋問などもするのだが、頼まれ仕事を淡々とこなすふうにしか見えず、裁判に与えるインパクトは皆無。主任弁護人も若手に期待していないのか、書類作りやコピー取りといった事務仕事だけ間違えずにやってくれたらいいと思っているのがミエミエ。若手が女性のときは、証人が女性のときに出番を与えられたりするけれど、少しもたつくと主任がイラついたりして、アシスタント扱いの感は否めない。

こうなると主任弁護人の実力がすべてということになるが、若手弁護人を活かしきれないリーダーでは……。判決に直接の影響を及ぼすかどうかは別として、自分が被告人で、実刑になるか執行猶予付判決になるか微妙な裁判だったら、あまり歓迎できないチームではないだろうか。

では、できるチームとは? 主任弁護人が実力を備えているのを前提とすれば、大事な要素は3点だ。

●若手に登用をチャンスと捉える意識があり、主任弁護人に若手に経験を積ませたいとの配慮がある。
●若手が一手先を読み、裁判で使える資料作りをしている。
●被告人質問や最終弁論の練習をしている。

一言でまとめれば、ヤル気に満ち、検察との対決に勝つべく作戦を練り、武器を活かすための稽古を怠らない、ということだ。

僕は、被告人が無罪を主張する殺人事件の裁判員裁判の傍聴で、師弟関係にあるあっぱれな2人の弁護人チームを見たことがある。彼らは検察が用意した証拠をつぎつぎに叩き潰し、長時間に及ぶ最終弁論で裁判員たちの心を鷲掴みにして無罪を勝ち取ったのだ。

後日取材すると、体力のある若手が精力的に資料を作り、ベテランがそれを吟味する方法で証拠のスキを見つけていく手法が取られていた。また、最終弁論を資料に頼らずに行えるようリハーサルを重ねた結果だとわかった。

■有能な弁護士は「求められるレベルを高く解釈」

冤罪を阻止するという強固な意志で結ばれたからこそのチームプレー。そのときの若手弁護人の言葉が忘れられない。

「自分が足手まといになったら、この裁判は負ける。無罪の人が殺人犯になる。その使命感と……あとは自分のためですね。また私と組みたいと言ってもらえるように、求められたレベルを高く解釈したんです。ここまでやれってことですよね、と」

ここまでやっておけば問題ないところで終わらせず、検察が反論してきた場合を仮定して資料を作成する。証人がのらりくらりとかわしにかかったとき有効な資料はないかと探す。裁判員たちに熱く語りかけ、“有罪”に傾きがちな気持ちを引き戻すための決め台詞を用意する。実際に使われたのは一部だが、そのあたりはちゃっかり計算済みだ。

「それでいいんです。カツカツじゃ、資料を使いこなしたリーダーの手柄になりますけど、余るほどあれば、私の存在なしに勝利はなかったと思ってくれますから」

上司に頼まれる仕事は、やりがいのあるものばかりではないだろう。下っ端はつらいよとボヤきたくもなるだろう。でも、誰でもできそうなつまらない仕事にも自己アピールの種はある。若手弁護人が使った“過剰さ”の演出はその好例だ。

「ここまでやれとは言ってない」と上司は言うかもしれない。表面上は叱るポーズを取るかもしれない。だが、命令したとおりやったところで、上司にとっては当たり前の仕事をしたことにしかならない。

その点、やり過ぎな部下なら上司の心に爪痕を残すことができる。先を読み過ぎでも張り切り過ぎでもゼロよりいいではないか。求められるレベルが低ければ、過剰に見せかけるのはたやすいし、やることはやっているのだから“ダメ社員”のレッテルも貼られにくい。

そして、本当の勝負は上司にとって重要な案件に絡むことを頼まれたとき。ここで日頃の過剰さを捨て、必要にして十分な資料を作成するのである。カツカツの資料で案件を無事にクリアできたら、上司の手際が際立つからだ。

あなたの貢献度を知っているのは上司だけ。そんなことが何度か続いたら、有能な部下として認められ、つまらない雑務は他の部下の仕事になっていくだろう。

(コラムニスト 北尾トロ=文)