スペイン人指導者、ミケル・エチャリ(70歳)は、2009年から日本代表をスカウティングしてきた。アルベルト・ザッケローニ監督率いる代表を評価しつつ、2012年暮れには下降線に入ったこと指摘。そしてブラジルW杯での守備の崩壊も"予言"している。

 エチャリはリーガエスパニョーラの古豪、レアル・ソシエダで20年近くにわたり、強化部長、育成部長、ヘッドコーチ、セカンドチーム監督、戦略担当などを歴任。エイバルでは監督、アラベスではスポーツディレクターを務めた。

「バスクフットボールの父」の異名を取り、鋭く詳細な洞察力で、「ミスター・パーフェクト」とも呼ばれる。豊富な見識によって、ホセバ・エチェベリア、ハビエル・デ・ペドロ、シャビ・アロンソなど、スペインを代表する選手を発掘してきた。

 現在はバスク代表監督(FIFA非公認)を務めており、昨年末にはバルサ組を中心としたカタルーニャ代表をカンプノウで破っている。この時のプレッシング戦術はその後、欧州各クラブのバルサ対策にも用いられた。

 慧眼(けいがん)の持ち主であるエチャリは、これまで日本代表のロシアW杯アジア最終予選5試合を検証。5回にわたって貴重なリポートを届けてきた。来年3月以降、ハリルJAPANはいかに戦うべきなのか――。その参考として、日本代表の各選手に"通信簿"をつけてもらった(対象は2試合以上、もしくは90分間以上プレーした選手)。

GK
●西川周作
5試合を守った。落ち着いており、ボールプレー技術が高い。彼を起点に始まる攻撃もあった。ただ、防げた失点はあったかもしれない。UAE戦のFKは壁の作り方が悪く、軌道を読めず、ブロックがずれ、しかも弱かった。イラク戦のCKの失点は反応が遅く、コースを見失ったか。世界標準でのストップ能力は未知数だ。

DF
●酒井高徳
走力やスキルなど基本的能力は高いが、戦術的に物足りない。攻め上がるタイミングが早すぎて、相手に攻撃を読まれており、特にUAE戦はそれが顕著だった。また、イラク戦は高さで完全に競り負けた。オーストラリア戦は右サイドに入って及第点と言っていい。

●酒井宏樹
高徳と同じ長所と欠点を持つ。攻守のトランジッションでポジション補整力に難も見られた。しかし、攻め上がったときのキック技術は目を見張る。サウジ戦は本田圭佑を後ろから守備でサポートしつつ、適切な攻撃参加も見せた。

●森重真人
高さに問題はなく、マーキングもタフ。しかしプレーへの集中が切れ、背後を取られることがあった。フィードに自信があるのだろうが、それを乱用するのは効果的ではない。吉田麻也を含め、1人は中心になるCBがいないと、強豪相手では厳しいだろう。

●吉田麻也
ヘディングが強く、経験もある。UAE戦での久保裕也へのロングパスのように、好プレーも少なくない。だが、UAE戦で与えたファウル(FKで失点)は不必要で、高いレベルのアタッカーと相対した場合、ターン(ステップ)が命取りになることも。

●長友佑都
UAE戦の前半はほとんど連係を作れなかった。しかし後半になって、左サイドでテンポを作った。本田とのコンビにはオートマチズムがある。


●槙野智章
オーストラリア戦は左サイドに入って、戦術パーツとして機能。しかし後半は敵選手の突破を許し、安定感は見えなかった。

MF
●長谷部誠
日本代表の戦術の軸。ポジション補整力が高く、いち早く綻(ほころ)びをカバーできるし、展開力に長け、配球の質にも優れる。山口蛍、柏木陽介に不足するものを補完する存在だ。オーストラリア戦ではDF、MF、FWのラインを統率した。プレーの読みが鋭く、UAE戦で久保に出したパスは白眉だった。

●山口蛍
アグレッシブな性格。2列目に入る感覚は鋭敏で、イラク戦は後半から出場し、明らかに試合が好転した。オーストラリア戦も堅実にプレー。しかしサウジ戦は相手や長谷部との距離を誤り、自らの力を過信してインターセプトを狙い、不用意さも顔を出した。

●柏木陽介
イラク戦で先発したが、持ち場を留守にすることが多かった。決定的パスを狙いすぎ、結果的にプレーの流れを悪くした。ラインを破るパスを心がけるべきだ。

●清武弘嗣
UAE戦、前半途中まではプレーが単発だったが、その後はいくつかいい連係を見せた。ドリブル、パス、シュートと水準以上で、セットプレーは柏木よりも可能性が高い。プレスについてはセビージャでマンツーマンの練習をしているからか、1人だけ浮くこともあった。

●香川真司
UAE戦は中央の攻撃が渋滞、サイドに流れる柔軟性を見せてほしかった。オーストラリア戦はアンカーをフタに成功。コンビネーションプレーは舌を巻くレベルで、サイドからのパスを引き出す位置取りは理にかなっている(オーストラリア戦では原口元気→本田のシーンで、シュートは止められたが、小林悠がニア、香川はファー、山口がその間と、模範的攻撃陣形を見せた)。

●原口元気
UAE戦は主役。Extremo Falso(偽ウィング)として、インサイドハーフ的に広く攻守をカバーした。ダイナミズムを感じさせ、ボールを奪い、持ち運び、フィニッシュできる。欠点は我を失うことで、オーストラリア戦のPKはその証左だ。サウジ戦も自分のマークを捨て、中途半端なポジションで裏を取られた。

●本田圭佑
「時間を操れる」選手。イラク戦の先制点、清武へのパスはタメを作って、受け手を最高の状態にした。UAE戦の2点目も左サイドで長友とパス交換、そのタイミングは最適だった。オーストラリア戦は前線でプレスとカウンターを有効にし、岡崎慎司が不調の場合、本田の"偽9番"はひとつの選択肢となる。

●小林悠
オーストラリア戦は失点まで、インサイドハーフの位置で貢献。ダイアゴナル(斜め)のランニングが印象的で、日本では数少ない高さが武器になるアタッカー。

FW
●岡崎慎司
ゴールへのビジョンを持つ優れたストライカー。UAE戦は、なぜ彼を下げたのか? 動きの質が非常に高い。イラク戦の先制点、左に旋回して2人のマーカーを引き連れたセンスは唸らせるものがあった。

●大迫勇也
サウジ戦は多くの好機を得た。ポジションは取れていたが、シュートはどれも緩く、もしくは大きく的を外れていた。

●浅野拓磨
タイ戦では先発し、2点目を記録。足は速いが、それに囚われ、単純なオフサイドにかかっている。プレーが不規則で、高いレベルでプレーするには技術不足。


 以上、厳しい評価もあったが、あくまで「世界標準」の視点である。

「すべての戦力を把握しているわけではないが、CB、アタッカーはもう1人ずつは必要か。しかしチームとして可能性を感じる。もう少し連係を深め、オートマチズムを作ることができれば......。あとは攻守の切り替えでの守備補整力の向上。そうすれば世界で対等に戦える集団になれる」

 エチャリは希望的観測を示している。

小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki