2016年は、グランプリ史上初めて9人の勝者が生まれたシーズンになった。年間総合優勝を達成したマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)は、第2戦・アルゼンチンGPでランキング首位に立ったが、5月上旬の第5戦・フランスGPでホルヘ・ロレンソ(モビスター・ヤマハ MotoGP)に逆転され、6月の第7戦・カタルーニャGPで首位の座を奪還。以後は、着々とチャンピオン獲得の地固めを続けていった。

 優勝が難しそうなら表彰台を狙い、表彰台が難しそうなら可能なかぎりの上位フィニッシュを目指し、とにかく少しでも多くのポイント獲得を念頭に置いたレースを続けた。その賢明な戦い方が、今年のマルケスの大きな特徴といえるだろう。

 勝てなかったレースでも彼はたびたび、「大切なのは、目先の優勝よりもチャンピオンを獲得することなので、今日は2位(3位、4位or5位)で終わることができてよかった」という発言を繰り返してきた。その言葉どおり、レース数を経るにつれ、マルケスは王座獲得の確度をどんどん高めていった印象がある。

 そのマルケスの総獲得ポイント数は298。21世紀になって、年間総合優勝を達成した選手は、ほぼ毎年300ポイント以上の点数を獲得している。例外は、2006年のニッキー・ヘイデン(252ポイント)のみ。年間17戦だったこの当時、あるいは年間16戦だった21世紀序盤でも、チャンピオンを獲得した選手は350ポイント以上の点数を稼いでいる。

 今年のマルケスの意外に少ない年間総獲得ポイント数に加え、メーカータイトルではヤマハを僅差で上回ったホンダが獲得する一方、チームタイトルはモビスター・ヤマハ MotoGPがレプソル・ホンダ・チームを抑えきったという事実にも、今シーズンの緊密な戦いがよく反映されている。

 とはいえ、全18戦のうち12戦で表彰台に立ったマルケスの総獲得ポイントを一戦ごとに平均すると約16.5ポイントで、計算上では毎戦3位以上の点数を獲得して確実に表彰台圏内に収まっていたことがわかる。ちなみに年間ランキング2位で終えたバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)は249ポイントで、一戦あたりの平均は約13.8。4位入賞の13ポイントを少し上回る点数を稼ぎ続けていたことになる。

 マルケスやロッシがこのような低い総獲得点数で終わっているのは、いうまでもなく、1年間に9人の選手が優勝し、ポイントが多くの選手に広く分散したためでもある。その9人の優勝者という珍しい現象を生んだ理由は、共通ECU(※)ソフトウェア導入と、タイヤ供給メーカーのブリヂストンからミシュランへの変更、というふたつの要素が大きく影響したことも論を俟(ま)たない。

※ECU=Electronic Control Unitの略。電子制御装置。

 今シーズンから、エンジンや車体の電子制御を行なうECUソフトウェアが、従来の各メーカー独自開発品から全車共通のものへと統一されたことで、メーカー間のソフトウェアレベルでの実力差が平準化され、接近した戦いを生むことになった。昨年からMotoGPへ復帰したスズキは、2015年は最高順位が6位だったが、今年はマーベリック・ビニャーレス(チーム・スズキ・エクスター)が第12戦・イギリスGPでの優勝を含む4戦で表彰台に上がり、ビニャーレス自身も年間ランキング4位でシーズンを終えた。

 チームマネージャーのダビデ・ブリビオは、「復帰して以来、電子制御はライバルたちに追いつくのに特に苦戦していた技術分野だったので、我々はもっともルールチェンジの恩恵を受けた陣営のひとつだと思う」と、その効用を率直に認めている。ブリビオはまた、「タイヤが今年からミシュランへ変更になったことも、我々にはポジティブに作用した」とも話している。

 MotoGPの公式タイヤサプライヤーが昨年までのブリヂストンからミシュランに切り替わったことにより、各陣営はデータ蓄積の優劣がなくなり、タイヤ特性を効果的に引き出すバイク作り(≒セットアップの探求)という面で、ほぼ同一条件になった。

 ミシュランのテクニカルディレクター、ニコラ・グベールは「タイヤ選択は、ときに大きな差を生むことがある。たとえば、レッドブルリンク(第10戦・オーストリアGP)の(アンドレア・)イアンノーネは、誰も選択しなかったミディアムコンパウンドのリアタイヤを装着していた。ダニ(・ペドロサ)がミザノ(第13戦・サンマリノGP)で勝ったときも、フロントタイヤが唯一、ソフトコンパウンドだった」と話す一方で、「とはいえ、タイヤだけが(9人もの異なる優勝者を生んだ)大きな理由ではない。天候も大きな要素になっただろうし、電子制御も、レースによってはある陣営の制御が他陣営よりもうまく動作して勝負を分けたのかもしれない」とも述べた。

 2017年が今年と同様に、多くの選手が入れ替わり立ち替わり優勝するような波瀾のシーズンになるかどうかは、まったくの未知数だ。だが、ヤマハからドゥカティへ移るロレンソや、スズキからヤマハへ乗り換えるビニャーレスなどの大型移籍、そしてKTMファクトリーの新規参入など、いくつもの目を惹く要素がある。来年のMotoGPは、1月末に始まるプレシーズンテストから早速、多くの話題が目白押しになるだろう。

西村章●取材・文 text by Nishimura Akira