4月に集団脱北した北朝鮮レストランの女性従業員たち

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北朝鮮の対韓国宣伝メディアである「わが民族同士TV」は先月の23日、いったんは脱北に成功して韓国に入国しながら、再び北朝鮮に戻った男女6人のトークショーを公開した。

このうち、36歳と63歳、29歳の男女3人は、こうした場に初めて登場した人々である。韓国当局はこれまでに、北朝鮮に戻った脱北者が16人いることを確認していたが、新たに3人増えて計19人となった。

人気爆発の美女も

トークショーで司会者により「1年前に祖国に帰って来た」と紹介された3人は、韓国での生活について「絶望の奈落」「変態的な獣のような社会」だったと非難。他の出演者らも口々に、韓国での「蔑視と差別」について語った。

先月をもって3万人を超えた韓国在住の脱北者は、多くが新たな環境に適応できず、あるいは韓国の行政上の対応の遅れもあって、苦しい生活環境にあることが知られている。

(参考記事:「自由」の夢やぶれ韓国でも性的搾取…脱北女性の厳しい現実

脱北者の中には、中朝国境のブローカーを通じて秘密裏に、故郷の家族に仕送りをする人も少なくない。ところが韓国の人権団体の調査によれば、ごく少数ながら、北朝鮮の身内から仕送りを受けている脱北者すらいる。そうした人々の中から、「帰った方がマシだ」と考える人が出たとしても、驚くには当たらないだろう。

その一方、脱北した人々に接近し、「素直に帰ってくれば罪は見逃す。しかし言うことを聞かなければ家族がどうなるか分からない」と脅迫する、北朝鮮による工作活動があるのも確かだ。そのようにして連れ戻し、今回のような番組で証言させ、国際社会からの人権権侵害追及に対する防波堤にするのである。

いま、そのような活動の最大のターゲットとなっているのは、まず間違いなく、4月に集団脱北した北朝鮮レストランの女性従業員たちだろう。彼女らの集団脱北は、北朝鮮当局に大きな動揺を与えた。そのため金正恩体制は、彼女らが韓国当局により「拉致された」との主張を、今に至るも続けている。

そのような主張に、耳を貸す人は少ない。しかし、彼女たちのうちの1人でも北朝鮮に帰国させ、「私は韓国当局に拉致されました」と証言させることが出来れば、集団脱北から受けたダメージを少なからず相殺できるだろう。

もっとも筆者とて、北朝鮮がそのような工作活動を狙っていると証明できる客観的材料を持っているわけではない。だが、ひとつ気になることがある。北朝鮮が今年6月になって16年ぶりに再開した、海外の工作員向けの乱数放送である。その目的と内容は、いまだ誰にも分っていないのだが、「美人ウェイトレス奪還」の指令であったとしても不思議ではなかろう。

いずれにしても、金正恩党委員長の工作員たちが彼女らを奪い返そうとしているのは、半ば北朝鮮が認めたようなものでもある。

北朝鮮レストランの女性従業員の中には、ネット上で韓国の男性らからアイドル並みの人気を集めている人もいる。

それだけに、他の脱北者よりは韓国社会に馴染めるような気もするが、北朝鮮当局から狙われているとあっては、不自由な生活を強いられかねない。

いずれにしても、脱北者が不本意な形で北朝鮮に帰らないようにするためには、韓国社会の対応が重要になる。

韓国統一省は11月27日、脱北者の「社会統合型」の定着に向け、雇用拡大を柱とする支援策を発表した。脱北者の社会進出を支援するため、中央行政機関や地方自治体、公共機関で脱北者の雇用を拡大。民間企業にも脱北者の採用を促す方針だという。

また、生活安定と自立に向けた支援金も、現在の1人当たり定着金 700万ウォンと住居支援金1300万ウォンから、物価上昇率などを反映して段階的に引き上げる方針だ。ほかにも、教育、就職、結婚、養育、家計など、韓国生活への適応に向けた支援を専門家と共に行う計画だという。

そのような施策が成果を上げ、命がけの脱北が少しでも報われることを期待したい。