性的マイノリティー「LGBT」向けビジネスが活況を呈し、その波は保険業界にも押し寄せています。今回は、生命保険のプロがLGBTビジネスに対する“本音”を語ります。


保険業界とLGBTの関係とは…

 性的マイノリティー「LGBT」向けビジネスが活況の様相を呈しています。

 先日、自社のブログでLGBT向け生命保険について解説したところ、大きな反響を呼び、LGBTの方から生命保険に関する相談を受ける機会も増えてきました。

 そこで今回は、生保関連の事業者としての立場から、LGBTビジネスに対する“本音”を語ってみたいと思います。

LGBTからの相談内容は大きく3つに分類

 LGBTの方から筆者に寄せられる相談内容は大きく3つに分類されます。それは「受取人問題」「老後問題」「LGBTの『T』の医療保障」です。順番に見ていきましょう。

1.受取人問題

「同性パートナーに保険金を残したいが、どうすればよいのか」という相談を受けます。従来、生命保険の受取人は配偶者などの親族に限られていました。しかし現在は、ライフネット生命が受取人を同性パートナーにまで拡大したことから他社も追随し、同性パートナーの証明書や、同居の事実が確認できる住民票の提出など一定の条件をクリアすれば、同性パートナーを指定できる会社も増えています。

 また、意外と知られていませんが、正式な遺言書で同性パートナーを保険金の受取人に指定しておけば、万が一の時に、生命保険会社はその支払いを拒むことができません。少々ややこしいのですが、「受取人は親族に限られる」というのはあくまで保険会社の社内ルールであって、契約を締結する際(=新しく保険に入る時)に適用されるものです。

 その後、遺言書で受取人を変更することは民法上まったく問題はなく、実際に保険会社の約款も「遺言書で指定した受取人に保険金を支払う」と明記しています。ただし、こうした方法を採用すると本人の死後、契約上の保険金受取人として指定されている親族と、遺言書で指定されている同性パートナーの“2人の受取人”が存在してしまいます。

 保険会社は遺言書を優先するとしても、当事者間でトラブルになることも想定できます。保険会社は仲裁などしてくれませんから、あらかじめ弁護士などに事後処理を依頼しておくなどの対策が必要になります。

 昔より緩和されているものの、同性パートナーによる受け取りには、証明書や住民票の提出もしくは遺言書の作成などの高いハードルが待ち構え、一筋縄では行きません。

「お金を貯めること」は普遍的

2.老後問題

 同性パートナーがいらっしゃる方の感覚として、「その人とずっと一緒にいるわけではなく老後は一人だろう」と思っているケースが多い気がします。

 こうした人にとって老後の話は切実で、それに関する相談も多いのですが、問題の本質としては、いわゆる「おひとり様」と言われる独身男性/独身女性と何ら変わりません。「お金を効率的に貯めましょう」という話でしかなく、LGBTだからといって特別な条件が存在するわけではありません。

「ゲイ(もしくはレズ)専門の老人ホームが欲しい」といった声も多く、もしかしたら、今後そうしたビジネスが生まれる可能性もあるのです。

3.LGBTの「T」の医療保障

 相談件数として意外に多いのが「T」(トランスジェンダー)の医療保険加入です。トランスジェンダーは性同一障害の人であり、性転換手術などを希望する人です(ここでは便宜上そう定義します)。

「T」にはホルモン剤の投与を受けている人が多いようです。性転換手術をした知人によると、ホルモン剤投与は「体調不良」「風邪を引きやすくなる」などの肉体的影響が大きいため、「入院時の保障が欲しい」と考える人が多いといいます。

 しかし、これはかなり難しいと言わざるを得ません。個人的には、性同一障害を病気と呼ぶことに抵抗はありますが、医学的には「精神疾患」に分類される以上、ホルモン剤を投薬していれば、保険会社は「治療中」と判断します。そうなると、医療保険には加入できません。

 相談に来られる方に「難しいです」とお伝えするのは心苦しいのですが、こればかりは仕方ありません。現実的には「解決できる問題」と「解決できない問題」があり、現場としては、「難しいことのほうが多い」というのが率直な感想です。

「差別」と「特別扱い」の区別は難しい

 こうした問題は今後、企業が「LGBTに理解を」と声を上げることで、解決していくものも多いはずです。その半面、LGBT当人たちに話を聞くと、現在のブームを支持しながらも、一人の個人としては「放って置いてほしい」という“冷めた”意見も見られます。

「差別」でも「特別扱い」でもない――。そのバランスは難しいですが、相手を尊重し、いい意味で「放っておける」世の中になればと思います。

(株式会社あおばコンサルティング代表取締役 加藤圭祐)