<アメリカは貿易による経済的利益はもちろん、東南アジアの親しい国、疎遠な国を貿易で一体化させ、対中国戦略の地歩とする戦略も失った。残るのはバラバラで脆いアジア>

 南米ペルーで先週閉幕したAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議で、環太平洋諸国は自由貿易の重要性をうたった首脳宣言を採択した。保護主義の様相を色濃くする次期米政権を念頭に、アメリカを含めたAPEC諸国は「開かれた市場を維持し、あらゆる形態の保護主義に対抗する」と訴えた。その翌日、ドナルド・トランプ次期米大統領は動画サイト「ユーチューブ」で2分半ほどの動画を公開し、就任初日に取り組む政策の最優先事項として、アジア太平洋地域でアメリカが旗振り役を務めてきたTPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱を通告すると明言した。トランプの離脱宣言により、来年1月に新政権が発足するまでの「レームダック会期」での法案通過は絶望的になった。

リバランスは有名無実に

 アジア諸国のアメリカに対する信頼性は、大きくぐらついている。日本をはじめベトナム、シンガポールなど、TPPの批准をアメリカのアジアに対する深い関与を示す試金石と見なしてきたアメリカの同盟国にとっては、TPP発効が不可能となった事態は、大打撃だ。シンガポールのリー・シェンロン首相は訪米時、TPPの失敗が意味することを端的に表した。「試されているのはアメリカの同盟国としての信頼性だ。合意が守られなければ、アジアはアメリカを当てにできない」

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 事実、次期米政権がアジアへの関与を徐々に弱めていくのではないかと懸念を募らせるアジア太平洋地域の同盟国は、トランプが大統領選を制してから翻弄されっぱなしだ。とりわけ日本や韓国の不安は尋常でない。米軍駐留費で応分の負担を求めるという主張から、新政権の対北朝鮮政策、手の内が明かされずブラックボックスのような対中政策まで、不確実さが不安の連鎖を呼んでいる。

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 そのなかでも最も致命的なのが、アメリカが戦略的に推進してきたアジア政策に終わりを告げる、TPPの消滅だ。とりわけバラク・オバマ大統領が掲げたアジア重視の「リバランス」は有名無実となる。リバランス政策の3つの柱は経済、外交、安全保障だ。そのなかでも特にオバマ政権が経済成長の基礎として戦略上最も重視してきたのが、世界経済の40%を占める12カ国が合意したTPPだ。アメリカがアジアと結びつくだけでなく、アジア諸国の間で相互に経済的な依存や協力関係を高めることで、参加国間の溝を埋め合わせ、アメリカが長期的にアジア政策を展開しやすくする意図が込められていた。

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バークシャー・ミラー(米外交問題評議会国際問題フェロー)