■知られざる女子日本代表〜Beautiful woman(6)

「ライフセービングをやっていたおかげで、自然の偉大さ、海のすばらしさ、仲間の大切さなど、学校では学べないようなことを学べています」

 高校2年生の内堀夏怜(うちぼり かれん・17歳)は、名門ライフセービング団体である神奈川県藤沢市の「西浜サーフライフセービングクラブ」に所属するライフセーバーだ。これまで同クラブからは、2016年の内堀を含む多数の競技ライフセービング日本代表が輩出している。競技の魅力について、内堀はこう話す。

「自分が過酷な練習をしていることが、競技で勝つためだけではなく、1秒でも早く、助けが必要な人を救うことにつながっている。だから、がんばれる。早く泳げるだけでなく、波、潮の流れ、風など刻々と変わる自然を読むなど、色々な要素が競技結果に関係してくるのが面白いんです」

 競技ライフセービングとは、海辺、水辺で命を救うライフセービング技術の向上を目的にオーストラリアで競技化されたスポーツである。もともと創設された目的は、同競技を通じて一流のライフセーバーを育成することであり、勝ち負けは重要視されていない。競技とはいえ正確かつ迅速に溺者(できしゃ)を救い出すことが最重要事項であるため、ゴール後に選手が倒れ込んだり、溺者の代用で使用されるマネキンの鼻や口が水に浸かったりなど、実際の救出に適さない行為をすれば失格となる。

 10月19日には、片瀬西浜海岸(神奈川県)で第42回全日本ライフセービング選手権大会の2日目が開催された。低気圧の影響で朝から風雨が激しく、海中に目印となるブイを設置できないため午前中の競技は見合わせとなったが、正午に近づくにつれて風が収まり、小雨がちらつくなか11時頃から競技が開催された。各種目で熱戦が繰り広げられたあと、世界選手権から戻ったばかりの内堀夏怜(ユース日本代表)と平野修也(ひらの なおや・30歳・日本代表)の両選手から話を聞いた。

 内堀は幼い頃から湘南海岸でサーフィンや海水浴に親しんでおり、小学1年生の頃から「ただ泳ぐだけでなく、泳ぐことで何かの役に立ちたい」という思いを抱いていた。そして、4つ上の姉が通っていた西浜スイミングスクールのジュニアプログラムについていった際、ライフセービングと出会った。

「中学生までは、競技としてのライフセービングをしてきましたが、高校生から海の現場でパトロールを始めました。海の楽しさと怖さを知り、自然と向き合って人を助けるということ。そんなライフセービングの本質に触れ、ライフセービングの世界によりいっそう興味を持ちました」(内堀)

 中学生の頃はソフトボール部に所属しながら、クラブで競技ライフセービングに取り組んだ。部活とライフセービングの両立には多くの困難があった。それでも、「やめたくなったことはない」と即答できるのは、競技に対するモチベーションの高さからだろう。日焼けした引き締まった身体に、きりっとした表情を浮かべる彼女は、高校生とは思えないぐらいしっかりして見える。

 その内堀の憧れの存在でもあり、競技ライフセービングの日本代表として活躍する平野修也も、この競技の魅力にとりつかれたひとりだ。

「早く泳げる人が勝つのではなく、自然の要素も大きく関係するライフセービングという競技は、タイムレースではない面白さがあります。オーストラリアを代表する競泳選手のイアン・ソープ、グラント・ハケットたちも、もともとはライフセービングをやっていたくらい、オーストラリアではポピュラーなスポーツなんですよ」

 平野は東京消防庁の水難救助隊に所属していた元消防士だ。現在は競技者としてライフセービングとフィンスイミングの二足のわらじを履き、いずれも日本代表に選ばれている。猛然と砂浜を走り、波の中を巧みに泳ぎ、サーフボードで力強く波を越えていく彼の身体能力には自然を相手に生きる凄味がある。

「ほぼ毎日練習して、練習していないときも、ライフセービングの仲間と海で遊んでいます。趣味はサーフィン(笑)。基本的に毎日トレーニングをしているので、トレーニングをしていない時間は海で遊んでいるか、体を休めることにしています」
 
 普段から海の近くで生活する「海っ子」の平野は、オランダで開催されたライフセービング世界選手権2016 で3つのメダルを取り、2018年に行なわれるワールドゲームズの出場を決めている。

「目標にしていたワールドゲームズの出場権は手に入れました。今後はライフセービングでも、フィンスイミングでも、もっとパフォーマンスを上げて、世界と戦える力をつけていきたい。全体の底上げをするには水泳で速くなることがキーポイントになると思っています」(平野)

 内堀は2016年参加したユース世界選手権ビーチフラッグス競技で8位入賞、ボードレースも決勝に残った。

「世界大会で大きな経験ができました。海の競技はファイナリストに残れて、自分の力が世界に通用することもわかりました。言葉も習慣も、海の環境も違う同年代の人たちと競えたことは最高に楽しかった。レース直前まで踊ったり歌ったりしているのに、オーストラリア代表やニュージーランド代表はぶっちぎりで速い。とても刺激になりました。

 今回はユース日本代表として、世界大会に参加させていただきましたが、今後は正日本代表として世界大会出場を目指します。海の競技、ビーチ競技、プール競技のすべてを通して、結果を残していける選手になることが目標です。さらに、ライフセービングの魅力、海の魅力、自然の危険なところを若い世代に伝えていきたいと思います」

 ユース代表として世界としのぎを削るまでに成長した内堀にとって、ライフセービング先進国であるオーストラリアやニュージーランドとの差を見られたことは大きな財産になるだろう。そんな後輩の将来に、平野は大きな期待を抱いている。

「彼女は次世代のホープです。事実、今回ユース代表として女子では彼女しか選ばれていません。これまでユースの日本代表から世界選手権の正代表になった選手はいない。今回の経験を活かして、ぜひその大きな壁を越えてほしいですね」

 ライフセービング競技は「ゴールの先に、守るべき命がある」を命題としている。自然を相手に人命を守るライフセーバーたちの競技生活に、これからもっと多くの注目が集まることを期待したい。

たかはしじゅんいち●文 text by Takahashi Junichi