撮影:熊谷仁男

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東京から田舎町に引っ越してきた人気モデルの夏芽(小松菜奈)と彼女が心惹かれる粗暴な少年コウ(菅田将暉)、夏芽にそっと寄り添うコウの中学時代のクラスメイト・大友(重岡大毅)…彼らのひりひりした恋を描いた青春ラブストーリー『溺れるナイフ』で、自らのコウに対する強い想いを隠し、彼らを笑顔で見続けているもうひとりのキーパーソン・松永カナを演じた上白石萌音さん。

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『舞妓はレディ』で鮮烈なデビューを飾ってから僅か3年で『君の名は。』のヒロインの声で名を馳せ、自身も知らなかった才能を次々に開花させている。

「新境地」だったという今回の撮影秘話やデビューからいままでのこと、そしてこれからのことをたっぷり聞きました。

『溺れるナイフ』は一人三役だと思って、演じていた。

――『溺れるナイフ』台本を最初に読まれたときはどんな印象を持ちました?

「私はこれまで平和で真っ直ぐな作品に出演させていただくことが多かったので、この台本を読んだときはすごく衝撃的でした。

いろんな事件が起きるし、真っ直ぐ過ぎで歪んでしまった感情がすごくたくさん描かれている気がして。これをやることになったら、自分の新境地になるなと思いました」

――演じられたカナちゃんについてはどう思いました?

「カナのことは、台本を読んだけではよく分からなかったんです。

でも、その後に漫画を全部読んで、衣裳合わせをしたり、本(台本)読みをするうちに、だんだん他人事じゃない気がしてきて。カナは自分なんじゃないか?って思えてきたんです。

美しい人に憧れる気持ちは私にもあるし、自分はそうはなれないという諦めにも近いカナの気持ちも痛いぐらい分かって。でも、カナの気持ちが分かることを最初はあまり認めたくなかったんです。

好きな男の子に対して真っ直ぐ過ぎるが故に狂気的な部分をどんどん出してしまうカナが、普通の女の子が言えないことやできないことを代わりにやってくれているような気がして。

だから、いい意味でも悪い意味でもすごくリアルな女の子だなと思ましたね」

――カナちゃんと自分が似ているところは?

「さっきも言ったように、美しい人に対して憧れの気持ちを持つところですかね。でも私は、カナみたいにひとりの人をあそこまで好きになったことがなくて。

だから、そこまでひとりの人を思えるってどういう気持ちなんだろう?って少し羨ましいような気持ちもあります」

――先ほど新境地になるんじゃないかって言われましたけど、カナちゃんは本当に複雑な女の子です。最初はすごく友だち思いでニコニコしていたのに、最後の方ではめちゃくちゃ怖!って思いました(笑)。

「そうですね(笑)。私はこの役は三役だと思って演じました。前半と後半ではほぼ違うので、前半と後半で体重も変えてみました。

クランクイン前に一度増やし、中学時代を撮り終わって高校時代を撮るときにまた痩せたんです」

――それは自分で考えてやったことですか?

「衣裳合わせのときに監督に『中学時代のために太ってください』と言われて、それなら高校時代は痩せなきゃいけないなと、そこは自分で思ってやりました。

中学時代と高校時代の撮影の合間は4日ぐらいしかなかったんですけど、そこでガッと痩せて、喋り方や仕草、歩き方もすべて変えました」

――どういうふうに変えたんですか?

「前半はずっと猫背にしていて、ちょっと着ぶくれしている感じになるように制服の中に体育服を着ているんです(笑)。それに、前半はあまり笑わないんですよね。笑うにしても、自信のないちょっと引きつった笑い方なんです。

でも後半になるとスカートもうんと短くなって、歩き方も少し大股気味で自信を感じられるものにしたし、『コウちゃん』というセリフひとつをとっても言い方を全く違うものに変えました。

ここまで振り幅のあるひとりの女の子を演じるのは初めてだったけど、如何にコントラストを見せられるのか、その勝負でした。そのために衣裳の力も借りましたし、ヘアメイクさんも私をまったく違う印象にしてくださって、外側からも変わるための刺激をいっぱいいただきました」

――それにしても、クライマックスのあの表情はスゴかったですね。

「ありがとうございます。あの表情には、カナの大切なシーンが撮れなかったことも影響しているんです」

――どういうことですか?

「カナがコウちゃんへの想いを吐露するシーンも実はあったんですけど、時間の関係でそのシーンを撮れなくなってしまって。

だから、そのシーンのカナの感情もすべてあの目に込めようと思って。すごく大切に演じました」

――山戸結希監督の演出はいかがでしたか?

「私は初めての経験だったんですけど、監督はその役になりきって演出をされるんですね。なので、カナの演出をされるときは本当にカナのようにそこにいらっしゃるんです。

セリフも『こういうふうに言って欲しい』って声に実際に出して、『これを真似して欲しい』とおっしゃる監督で。そういう演出を受けたのは初めてだったから最初はビックリしたんですけど、監督の中ではこの映画はできあがっているんだと気づいてからは、監督がおっしゃるトーンに如何に近づけるのかをずっと模索していく作業でした。

私たちのお芝居が監督の中でガチッとハマッたらそれでOKだし、そこにハマるまでの時間はまるでパズルをしているような感覚でしたね」

――共演されたほかの3人からもすごく刺激を受けたんじゃないですか?

「もう、刺激だらけでしたね。菜奈ちゃんは撮影日数を重ねる度にどんどん夏芽ちゃんになって、夏芽と菜奈ちゃんの境目が分からなくなるぐらいにのめり込んでいる印象がありました。

役を生きるってこういうことなんだなって思いました」

共演した重岡さんは、太陽みたいな人でした。

――菅田さんの印象は?

「菅田さんは逆にスイッチをパッと入れる方で、直前までふたりでたわいもない話をずっとしていたんですが、『じゃあ、本番行きます!』って声がかかった瞬間にコウちゃんの顔になったんです。

たぶんご自身の中にスイッチがあって、それを入れたらパッと役に憑依できるんでしょうね。天才なんだなと思いました」

――重岡さんは?

「太陽みたいな人でした(笑)」

――みんなそう言いますね。

「もう現場の太陽。本当にムードメイカーでした」

――小松さんや菅田さんは「ひまわり」って言ってました。

「ひまわり!(笑)本当にそう。

いない日は寂しかったし、いるだけで現場の空気が明るくなって、どんなに撮影が遅くなっても、ず〜っと照らしてくれていたので、救われていたなと思いますね。

それにお芝居も本当にナチュラルで。私、クランクインの初めてのシーンが一緒だったんですけど、この映画はこういうトーンなんだっていうのを重岡さんに教えてもらったような気がします」

――ちなみに、上白石さんだったら、コウと大友のどっちを好きになりますか?

「もしコウちゃんみたいな男の子がいても、私は見てるだけで終わると思います。

そこはカナちゃんに近いですね。憧れというか、私には届かない存在だって思っちゃいます。

でも、男性のタイプとしても大友みたいな人が好きです(笑)」

――そうですよね。優しいし。

「はい。夏芽も夏芽でやっぱり普通の人から超越したものを持っているし、コウちゃんも神様みたいな人。

そのふたりだから、惹かれ合ったんだろうなと思うし、そのふたりだから恋ができたんだろうなってすごく思います」

中学校時代は、ひたすら地味でした。

――上白石さんは現在は大学生ですけど、中学、高校の多感な時期はどんな学園生活を送っていましたか?

「中学校まで鹿児島にいたんですけど、ひたすら地味でした(笑)」

――何がどう地味なんですか?

「本当に目立たなかった(笑)。勉強は頑張ってましたね。

スポーツも好きで。でも休み時間は仲がいい子とふたりでずっと喋っていたし、男子が苦手で本当に喋らなかった(笑)。

スカート丈も校則に引っかかったことは一度もないし、本当にルールに則って生きていましたね(笑)。

だから、高校生になって東京に出てきたときは、もうカルチャーショックで! 女子が男子の名前を下の名前で呼び捨てるとか、男子に『萌音』って言われるとか、それまではなかったので、何だ、ここは? と思って(笑)。

でも、それにもどんどん慣れていって、中学校のときよりもいろんな人と話すようになったし、行事などでも買い出しや会計をはりきってやるようになりました。

そういう意味では、カナほどではないですけど、中学と高校ではガラッと変わりましたね」

――女優やお芝居の世界に入って、最初に嬉しかったことは?

「オーディションで事務所に入ったのが中学1年生の終わりだったんですけど、『舞妓はレディ』(14)のヒロイン役に選んでいただいたのも、歌ったときとそうじゃないときのギャップがあったからなんですよ(笑)。周防正行監督がそうおっしゃっていて。

あのときほど、田舎で生まれてよかったと思ったことはないし、歌が好きでよかったって思ったこともないですね」

――あれは公開が2年前で、撮影していたのは3年前だと思うんですけど、それからの3年間の環境の変化はものすごいんじゃないですか?

「ものすごいですね。特にここ最近は本当にすごくて、私は心も技術的な面もまったく追いついてない。

周りの環境だけがどんどん変わっていくから、ちょっと怖いなって思うこともあるけれど、でも嬉しいですね。頑張って作ったものが、たくさんの人に届くことほど幸せなことはないですし、逆に身が引き締まります。

このままじゃいけない、もっともっと頑張らなきゃなって思います」

『君の名は。』ほどの感情の起伏は初めてだった。

――『君の名は。』のヒロイン声も本当に可愛くて、魅了されました。

「ありがとうございます(笑)」

――相手役の神木隆之介さんも『完璧だ』って言われていましたよ。

「本当ですか〜?」

――でも、あの作品も声優へのすごい挑戦だったと思います。

「本当にそうでした。まったく新しい世界に足を踏み入れた感じでしたね。前もアフレコは2、3言は経験したことがあったんですけど、あそこまでの分量と感情の起伏は初めてでした。

でも、神木さんが本当に神様みたいな人で、いつも役に完全に役になりきって横にいてくださったし、引っ張ってくださったから、私も最後まで頑張ることができたんです。

いや〜もう、神木さん様様でしたね」

――新海誠監督は厳しい方でした?

「全然! 『怒ることがあるんですか?』って聞きたくなるぐらいに穏やかな方でした。

ダメ出しをするのではなく、『では、こういう感じでもやってもらっていいですか?』とか『こういうニュアンスでもやっていただいていいですか?』っていう、もう本当に丁寧なご指示で、それがとても嬉しかったです」

――今年は『ちはやふる』もありましたし、いい作品に恵まれてますね。

「本当にご縁だな〜と思います。

素敵な監督と素敵な共演者のみなさんに恵まれて、どの現場も本当に刺激的でした。

でも、その中でも今回の現場は特に、“お芝居ってこれか!って、身体で感じるような日々でした」

――今回の現場が特にそうだったんですか?

「けっこう4人の芝居が多かったので、空気を作っていくというか、空気の中に飲まれるとはこういうことなんだっていうのをすごく教えてもらいました。

完成した作品を観ても3人が本当に素晴らしくて、私はその中に入ることができて、同じ空気を吸ってお芝居ができて、本当に幸せだったなと思います」

――本当にそれはスクリーンから伝わってきました。

「はい。もう才能の塊のような方ばかりでしたから」

――そのひとりじゃないですか!

「いや〜(笑)。でも、そういう方とお芝居をするたびに頑張らなきゃと思うし、どんどん吸収させてもらっていて。まだまだ助けてもらってばかりです」

――いま、仕事は楽しいですか?

「楽しいです!」

――もちろん辛いこともあると思うんですけど…。

「あります(笑)。はい」

――今回のこの現場でも辛いことはありましたか?

「ありましたね。暗い役だったので、心から笑っている時間が演じているときにはなくて。

でも、その分、休憩時間が本当に和気あいあいとしていて、すごく明るかったんですよ。みんなでくだらない話をしたり、歌を歌ったり、美味しいものを食べたり……撮影をしていた和歌山は梅が有名だから、梅のジュースでみんなで乾杯して『染みる〜!』って言ったり(笑)。

大変なことが多かった分、みんなと仲よくなれたし、そういう休憩中の雰囲気もすごくよかったので、それは表裏一体というか。

辛い想いをしてよかったなって思えるぐらい素敵でした」

『溺れるナイフ』は、いままでの恋愛映画が描いてこなかった恋の形がすごく詰まっている。

――上白石さんは、今回の映画ではどのシーンが好きですか?

「私が出ているシーンだったら、やっぱりクライマックスですね。あそこには魂を込めました。

ネタバレになるので詳しくは書けないと思いますけど、それだけは伝えたいです。

あそこは目だけのお芝居だったし、目に溢れてしまいそうな感情をいっぱい込めました! それくらい、自分の中でも大きなシーンだったんです」

――ご自身が出ていないシーンでは?

「夏芽ちゃんと大友のシーンが好きですね。(大友の)眉毛(を夏芽がいじるシーン)とか(笑)、バッティングセンターとか……バッティングセンターのところは特に好きですね。

癒されるというか、救われるというか。本当に素敵なふたりだなって思うし、大友の人柄が滲み出てるし、バッティングセンター、大好き!」

――その後のカラオケは?

「あれは新しいですよね。1曲まるまる歌うなんて(笑)。

あと、お祭りの前にコウちゃんと大友がちょっとだけ会話をするところがあるじゃないですか? あそこも好きです。コウちゃんが素を出して、心から笑ってるシーンだなと思って。

恋敵ではあるけど、それに男同士の友情が勝っているみたいな、そういうやりとりがすごくいいですね」

――先ほど言われたこと以外で、印象に残っている撮影中の思い出はありますか?

「撮影の合間に菅田さんがギターを弾いて、私が歌うっていうのをやっていました(笑)。

なんかその場で『あれ、歌える?』って聞かれて、『あっ、歌えます』って感じで、星野源さんや秦基博さんとかいろいろ歌いました。

みんながいるロケバスの中でも歌ったことがありました。けっこう過酷な撮影だったので、ギターの音に癒されていました(笑)」

――上白石さんは、この作品を同世代の人たちにどういうふうに薦めますか?

「私は恋愛映画ってすごくキラキラした、憧れのようなものを描いたものが多いと思っているんです。

今回の映画でも夏芽とコウのふたりが本当に輝いているし、こういう恋愛って素敵だなって思うシーンがたくさんあります。

でも、この作品はそれだけじゃなくて、いままでの恋愛映画が描いてこなかった恋の形がすごく詰まっている。

自分にも痛いぐらい当てはまるものとして観ることができると思うので、この4人と一緒に恋をして欲しいですね」

上白石さんが、最近ワクワクしたこと。

――今後、女優としてどうなっていきたいですか?

「今回共演させていただいたみなさんが、自由自在にお芝居をされる方々で、セリフを話すにしても、動くにしても、本当に柔軟なんです。そういうところが自分にはないなと気づかされたし、私も柔軟に自由自在にその役として動きたいなって、またひとつ新しい目標ができました。

今回も新境地でしたけど、これから先も心を本当にグニャグニャに柔らかくして、自由自在に言葉や空間を操れる人になりたいなと思います」

――自分が持っているもので、もっと活かしてみたいなと思うものは?

「わりと動けるぞ!っていうところですかね(笑)。どんくさい役が多いんですけど(笑)、運動はけっこう好きで、陸上の大会にも出たことがあるので、わりと動けるんだよっていうのは知って欲しいです(笑)」

――最後に。上白石さんが最近ワクワクしたことを教えてください。

「釜山国際映画祭で韓国に行って、初めて本場のキムチを食べてワクワクしました(笑)。

私、韓国料理がめちゃくちゃ好きで、これが本場の辛さか〜! と。ジワジワくるイジワルな辛さで、ワクワクしましたね」

――「釜山国際映画祭に行って」って言われたので、「レッドカーペットを歩いてワクワクした」とか、そっちに行くのかな? と思ったら……。

「キムチでした!(笑)」

劇中のカナちゃんとは違い、明るく無邪気に映画のこと、自分のことを語ってくれた上白石さん。

けれど、その言葉の端々には強い意志と前向きな心がくっきり。しかも物事を冷静に、適格に見る観察力を持ち、それを吸収して自分のものにできる彼女は、その小さな身体の中にまだまだ大きな可能性を秘めているに違いない。

『溺れるナイフ』の「上白石萌音」を見て驚愕する人も多いだろうが、早くも次が楽しみだ。今度はどんな顔を見せてくれるのか? しばらくは目が離せない。