左から、庵野秀明監督と新海誠監督。(写真=AFLO)

写真拡大

今年は、庵野秀明総監督の『シン・ゴジラ』、そして新海誠監督の『君の名は。』という2つの邦画が多くの観客を集めた。これらの作品の大ヒットによって、映画の力が改めて注目されるとともに、「ヒット」が社会を動かし、経済を活性化するという当たり前の事実が再認識された。

ヒットは、どのようにして生まれるのか。

ハリウッド映画などでは、「このように作ればヒットする」という経験則があり、実際にそのようなパターンに沿って脚本が作られたりするという。「脚本はこう書け」という教科書が存在したりする。

もし、ある法則に従ってものづくりをすれば必ずヒットするのであれば、世の中にはもっとヒット商品があふれていそうなものだが、そうでないのは、物事がそれほど単純ではないということを示している。

なぜ、ヒット作の法則を見出し、事前に予想することが難しいのか。根本的な原因は、「ヒット」の背景に、人間の脳に「新奇性選好」という性質があるからだと考えられる。

人間は、今までに見たことがないもの、「新奇性」があるものを好む。生まれて初めて見るものに対して、脳のドーパミンなどの報酬系は特に強く活動する。ヒット作の背後には必ず、この「今までに経験したことがない」という要素が存在する。

『シン・ゴジラ』も、『君の名は。』も、「一体どんな映画なのだろう」と容易には予想できない側面が存在した。だからこそ、人々は好奇心を掻き立てられて映画館に足を運んだ。

「新奇性選好」がうまく機能していることは、2つの「現象」で検証することができる。

ひとつは、「もう見た?」「まだ見ていないの?」などと、「経験者」と「未経験者」の間に一種の「経験デバイド」が生まれるということ。その結果、経験者が、あたかも未経験者に対して優位に立っているような錯覚が生じる。

もうひとつは、「ネタバレ」が話題の軸になること。内容が新奇性にあふれているからこそ、それを相手に伝えてしまうことで、せっかくの楽しみが台なしになる。

「経験デバイド」と「ネタバレ」に対する関心がうまく演出できれば、その作品は、ヒットの条件である「新奇性選好」を刺激していると言える。大ヒットを夢見るすべてのビジネス・パーソンが、考えてみるべきことだろう。

大ヒットするためには、加えて、「安心感」という「着地点」も必要である。『シン・ゴジラ』で言えば、歴史あるゴジラ・シリーズであること、また、『新世紀エヴァンゲリオン』をはじめとする人気作で知られる庵野監督の作品であることが「安心感」を与えた。『君の名は。』についても、タイトルや新海監督の知名度など、さまざまな「安心感」の要素があった。

結局、新しさの刺激の後に、大きな安心がくるものがヒットすることになるが、このうち、生み出すのが比較的難しいのは新しさであろう。

新しいということは、つまり、前例がないということである。最近進化の著しい人工知能も、たくさんの前例=ビッグ・データを集めなければ、肝心の能力を発揮するための「学習」ができない。

いかに、前例のなさというブルーオーシャンの中に新しさを追い求めるか。ここに、これからのビジネスの成功を考えるうえでのヒントがある。

(茂木 健一郎 写真=AFLO)