武正公一氏(民進党憲法調査会事務局長・衆議院憲法審査会会長代理)

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■民進党として憲法議論を深く掘り下げたい

【塩田潮】民進党の憲法問題への基本姿勢は。

【武正公一・民進党憲法調査会事務局長兼衆議院憲法審査会会長代理】民進党は今年3月の結党のときに発表した党の新綱領で「日本国憲法が掲げる『国民主権』『基本的人権の尊重』『平和主義』を堅持し、自由と民主主義に立脚した立憲主義を断固として守る。象徴天皇制のもと、新しい人権、統治機構改革など時代の変化に対応した未来志向の憲法を国民とともに構想する」としました。まず環境権や国民の知る権利などの新しい人権をどうするかが中心テーマかと思います。さらに統治機構改革ですね。道州制なども含めた国と地方のあり方、あるいは国会は国権の最高機関といわれながら、行政府に対して権能が弱いのではという点や、衆議院と参議院の役割分担などを踏まえる。民進党の方針からすれば、現憲法に足らざる点、加えるべき点などの議論を進めるのが一つの立場です。

民主党時代の2005年に「憲法提言」をつくっています。これは草案を目指したような土台になっていますが、民進党の憲法調査会の役員会で、文書として党の憲法の議論の土台の一つだろうと確認しています。民進党は結党からまだ半年余ですので、旧民主党や維新の党の文書などを積み上げ、それらを土台にしながら、憲法の議論を深めていきたいと思っています。私としては憲法調査会で、役員会や総会などを通じて、党として議論を深く掘り下げることを積極的に進めたいという考えです。

国会の憲法審査会は、安保法案の審議が行われていた昨年の6月、立憲主義に関して3人の参考人の「安保法案は憲法違反」という発言で、それ以来、審議をやりたくないという与党側の理由で1年半、止まっていました。ですが、今年の10月26日に再開することで合意しました。再開すれば、憲法制定の経緯、立憲主義などからスタートして、去年、与党から提案があった参政権をめぐる諸問題もしっかりやっていこうと確認しています。

【塩田】武正さんご自身は憲法改正問題についてどうお考えですか。

【武正】アンケートなどで改正の是非を問われたとき、私は「賛成」と言っています。日本国憲法は不磨の大典ではないという考えです。ただ、現在は衆議院憲法審査会の野党の筆頭で、民進党の憲法調査会事務局長ですから、党内でも国会でも議論を深めたいというのが自分の立場です。

【塩田】改正に肯定的ということであれば、現憲法で直すべき点、新たに付け加えるべき事項についてお考えがあると思いますが、どういう点ですが。

【武正】県議も経験していますので、現憲法の地方自治の章は、全4条しかなく、全体の分量からいってバランスに欠けているところがあります。改正となれば、地方自治の部分を手厚く、分厚く書く必要があります。

前の国会で自民党から「緊急事態・環境条項・財政規律」の3項目が提議されましたが、特に憲法審査会でヨーロッパに行ってギリシャやポルトガルなど財政的に困窮に至った国を見て、財政規律にはこだわっています。それを憲法で規定すべきか、法律で本当に担保できるのかという問題があります。

もう一つ、衆議院で外務委員が長かったり、外務副大臣も務めました。政府の外交に関する説明について、憲法73条で外交の処理や条約の締結が内閣の事務と位置づけられているものですから、国会に対して行う説明がどうも弱いという感が強い。こういう点をどうすべきか、問題意識として持っています。

■3分の2の「改憲勢力」の中身を見極めたい

【塩田】岡田克也前代表は在任中、安倍首相とは立憲主義に対する考え方が基本的に違うので、安倍内閣の下では憲法改正論議に応じないという趣旨の発言を行いました。

【武正】岡田さんのそういう発言は理解しながらも、去年5月に与野党で合意して憲法審査会を進めました。現場では決して安倍内閣では憲法の議論はできないと否定したわけではありません。岡田さんはこれまでの安倍首相の発言が憲法改正に非常に前のめりという点を問題にしたんです。第1次安倍内閣時代の07年、安倍首相の改憲発言で、憲法調査特別委員会は大もめにもめ、7年経ってようやく国民投票法の改正案が成立したという経緯もあります。2度目の政権の13年には、安倍首相は憲法96条を改正して改憲案の発議要件を「総議員の3分の2」から「2分の1」に下げようと言い出しました。これでまた憲法審査会が大揺れになりました。岡田さんの発言の真意は、そういった非常に前のめりの安倍首相に対する警告という側面もあったと思います。

【塩田】数の上では民進党を除く自民党、公明党、日本維新の会、日本のこころを大切にする党の4党の合計議席が衆参で3分の2を超えました。一方、憲法問題では民進党は党内に改憲派と護憲派が同居していると言われています。

【武正】4党が「改憲勢力」と報じられていますが、本当にそうなのかどうか、憲法審査会での議論で見極めたいと思います。公明党からは「私たちは改憲勢力ではない」みたいな話も漏れ伝わってきます。安倍首相は参院選前、「改憲項目を参議院選後に絞り込む」と言っていましたが、自民党は最近、そのことを封印しています。3分の2という議席数の中身をしっかり見極める必要があると思います。

【塩田】憲法をめぐる民進党内の路線の違いは、一つの党として一緒にやっていけなくなるほど深刻で根深いものではないということですか。

【武正】民主党の時代から、05年に党として憲法提言も決め、それを土台に議論してきました。民進党になっても、この憲法提言や、維新の党の憲法に関する考え方などを土台に、と確認しています。党内で丁寧に議論を積み重ねてきた経緯がありますので、それで進めていけばなんら問題ないということです。

【塩田】民進党には旧社会党出身者など、護憲に思い入れを持つ人がいて、一つの党として憲法問題でまとまって行動するときに壁になるのでは、と見る人が少なくありません。

【武正】それは9条の問題が中心だと思うんです。その点は党としての慎重な対応が求められます。安倍首相が行った集団的自衛権行使容認の憲法解釈変更の閣議決定、その後の安保法案について、白紙撤回を求めていますが、その点ではみんなまとまっています。

【塩田】集団的自衛権問題の反対論は、行使容認不可・安保法制不要という考え方と、解釈変更ではなく、憲法改正で対応すべきだという考え方の二つがあります。民進党は。

【武正】集団的自衛権については党内でも議論があり、日本周辺であれば認めてもいいのではという意見もありましたが、今回は手続き論ですね。立憲主義からいえばあり得ないことで、一内閣が恣意的に憲法解釈を変えた。入り口の議論で認められないということです。安全保障や外交については党内でいつも議論があります。安保環境が激変していますので、その点もしっかりと踏まえる。憲法というよりも、まず法律やさまざま制度で対応できるところがあるので、そういった議論で情報を共有するようにつねに努めています。

■1年半前に憲法を議論する土俵が崩れた

【塩田】憲法審査会の今後の展開ですが、将来、改憲の対象として取り上げる項目をどうするかという絞り込みは、時期的にはいつごろまでと想定していますか。

【武正】そもそも憲法審査会を開くべきでないという党もあります。憲法審査会は憲法調査会の時代以来、16年間、与野党の丁寧な合意形成を旨としてやってきました。その伝統に則って進めていくことだと思います。

【塩田】安倍首相は「在任中に改憲を成し遂げたい」と発言したこともありました。現段階では自民党総裁任期は18年9月までで、残り2年足らずですが、改憲原案の取りまとめ、改憲案の国会発議、国民投票というスケジュールをこなせるかどうか。

【武正】安倍首相は「各党は憲法草案を」という趣旨のことを言っていますが、踏み込みすぎで、私は越権と思っています。憲法に関わる基本法制の審査を行う場は国会の憲法審査会です。審査会として丁寧に議論を進めていきます。

それから、1年半前に憲法を議論する土俵が崩れてしまった。与野党で憲法を議論するには共通の土俵の確認が必要ですから、今度は立憲主義をテーマに掲げたわけです。3分の2以上による発議、国民投票での過半数ということであれば、当然、国会での与野党の合意形成が必要になってくるはずです。議論の土俵の確認が必要と思います。

【塩田】安倍首相は筋金入りの改憲論者と見て間違いありません。憲法改正について、首相は憲法上、なんの権限も権能もありませんが、安倍首相が構想していると思われる改憲プランについて、どう見ていますか。

【武正】私は安倍首相の改憲案については知りません。興味もありません。安倍首相は行政府の長で、行政府の長は改憲案は出せません。一方で自民党総裁ですから、自民党は憲法草案なるものを05年と12年につくっていて、総裁とすれば、自民党の憲法草案が案だろうと普通は考えます。二つの案がありますので、どちらかという話はありますが。

【塩田】自民党が12年に発表した日本国憲法改正草案と題する自民党案の印象は。

【武正】個人の権利が著しく縛られ、国家が非常に全面的に出ている草案だと思います。

【塩田】民進党の野田佳彦幹事長はこの自民党改憲案の撤回を唱えました。自民党はこの案に固執しているわけではなさそうですが、現在の時点で自民党はどんな改憲案を目指していると受け止めていますか。

【武正】先述したように、前国会での「緊急事態・環境条項・財政規律」の提案が当然、引き継がれていると思いますが、憲法審査会のメンバーも替わっていますので、改めて自民党の考えを聞きたいと思います。

【塩田】大きな議論となってきた9条や96条、憲法前文などを、自民党が改憲対象項目として出してくる可能性は。

【武正】議論すべきテーマとして自民党が掲げる可能性は「なきにしもあらず」と考えていますが、今までの与野党の合意形成で96条はもう封印されたと思います。9条などは、与野党で合意形成からいえば、議論の俎上にという点では優先度が低い。もっと優先度の高いものがあると思います。私の知るところでは過去に自民党の幹事からそういう話はなかった。もし変わったとすると、参院選の結果、衣の下の鎧が見えてきたと言わざるを得ません。

■公明党がどういうスタンスを取るかに注目

【塩田】公明党は「加憲」を唱えています。公明党の憲法問題への対応については。

【武正】集団的自衛権の憲法解釈変更の閣議決定や安保法案への対応を見ていると、いかがなものかと受け止めています。参院選を終えて1年半ぶりに始まる憲法審査会で、公明党がどういうふうなスタンスを取るのか、それは注目です。

【塩田】自民党の谷垣禎一前幹事長は私のインタビューで、「憲法改正は野党第一党と一緒になってやらなければ」と口にしていました。そういう意見も少なくありません。

【武正】衆参で3分の2以上というのは、これまでなかった議席状況ですが、改憲勢力といっても、3分の2がまとまって発議要件をクリアするのは難しいだろう、まして国民投票があるというのが谷垣前幹事長の発言の真意だと思うんです。自民党も16年間、そういう認識で、国会での憲法の議論をやってきたんだと思います。07年に与野党が合意形成直前までいったのが、安倍首相の発言で議論のテーブルが引っ繰り返され、それで7年間、時間がかかってしまった。

自民党から最近も、憲法改正推進本部の責任者が首相官邸に行って安倍首相に再三、「国会で与野党で丁寧に議論しているから、口出ししないでくれ」と申し入れているのに、首相は水を向けられると、踏み込んだ発言をしてしまうところが国会で見受けられます。

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武正公一(たけまさ・こういち)
民進党憲法調査会事務局長・衆議院憲法審査会会長代理
1961(昭和36)年3月、静岡県清水市(静岡市清水区)生まれ。幼少期に埼玉県に転居し、埼玉県立浦和高校から慶応義塾大学法学部政治学科に進む。卒業後、松下政経塾に。95年に埼玉県議に当選。2期目の途中の2000年6月の総選挙に民主党公認で出馬して初当選(以後、埼玉1区と比例北関東ブロックで当選6回)。09年から鳩山由紀夫内閣と菅直人内閣で外務副大臣、12年に野田内閣で財務副大臣。民主党時代に党憲法調査会副会長を務める。

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(ノンフィクション作家 塩田潮=文 尾崎三朗=撮影)