『最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常』二宮 敦人 新潮社

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 以下の問題は、ある大学の入学試験問題です。どこの大学か分かりますか?

【問題1】自分の仮面を作りなさい 
※総合実技2日目で各自制作した仮面を装着してもらいます
 
【問題2】解答用紙に、仮面を装着したときのつぶやきを100字以内で書きなさい。
※総合実技2日目で係の者が読み上げます

 答えは東京藝術大学。平成23年度建築科の過去問題です。

 東京藝術大学、所謂"藝大"。いくら芸術に疎くても、その存在を知らない人はいないのではないのでしょうか。東京上野公園に本部を置く、日本最高峰の芸術大学です。

 本書『最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常』は、東京藝術大学美術学部彫刻科の現役学生の夫である二宮敦人さんが"芸術界の東大"に潜入した、前人未踏の体験記です。

「ある日、僕は台所で缶詰を見つけた。パッと見はツナ缶に思えたのだが、よく見ると覚えのないパッケージである。白い繊維質のものがぎっしりと詰まっていた。(中略)本を読んでいた妻がこちらを見て言った。『あ、それガスマスクよ』」(本書より)

 藝大の彫刻科では樹脂加工の授業があり、有毒ガスが発生するのでガスマスクは必須だそう。どこで購入するのかというと、なんと大学の生協で売っているとのこと。

 その異端さは入学試験から既にその片鱗をみせていますが、学生生活はさらに独特です。

 校内では作品に使う木材のオークションが日常的に行われ、染織専攻の冷蔵庫には上野動物園から譲り受けたペンギンの死体が保存してあり大騒ぎ・・・等など、びっくりエピソードが並びます。

 さて、イベントで使うトロフィーやお神輿など、何でも自分達で作ろうとするいい意味で荒っぽい美術学部とは相反する華やかな性質を持つのは音楽学部です。

 その中でも特殊な経歴を持つ、"藝大に口笛で入った男"、音楽環境創造科の井口理さんはこう語ります。

 「僕は、口笛をクラシック音楽に取り入れたいんです。(中略)びっくり芸ではなく、音楽として純粋に楽しめるようにしたいんです。オーケストラや室内楽に『口笛』というパートを作りたいんですよ」

 井口さんは2014年の国際口笛大会、成人男性部門のグランドチャンピオン。彼は今、口笛界の先導者的な存在であり、どんどん新しい目標を作っていかないといけないのだそうです。

 奇人変人エピソードが目立つ本書ですが、一貫して彼らに共通するのは、皆とことん真面目だということ。自分の興味のあることに対して一直線、とんでもない熱量で真摯に向き合っています。そこを突き詰めると結果的に"普通の世界と離れすぎて"しまうのではないでしょうか。「創造の天才たち」の頭の中、少し覗いてみませんか。