進化するコニカミノルタ、カギは「プロダクトアウト」からの脱却

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世界5極に「Business Innovation Center(BIC)」という新規事業開発拠点を設けながら、ダイナミックな組織変革に伴い、本業も進化するコニカミノルタ。その背景には、山名昌衛社長就任時に感じた危機感があった。

「イノベーション活動においては、新規事業創出だけではなく、本業そのものをトランスフォーム(事業変革)することも同じく重要だ」

コニカミノルタ社長・山名昌衛が「イノベーション100委員会」の会合で語った言葉だ。山名社長は、デジタル化の進展により、付加価値の形がハードからソフトへ移行する中で、本業自体を変革する必要性を説いた。今回、山名社長には、イノベーションを興すための行動指針「価値起点で事業を創る仕組みを構築する」についてうかがった。

10月号で掲載した「Business Innovation Center(BIC)」は、山名社長のコミットメントの下で、2014年に世界5極でスタートした。そこでは既存のやり方にとらわれず、スピード感をもって、顧客価値に応えるプロジェクトが数多く生み出されている。BICはお客様本位の新規事業創出を実現できたのか。それは既存事業の変革にどのような効果をもたらすのか。

─コニカミノルタでは14年4月からの中期経営計画を「TRANSFORM 2016」と名付け、経営の変革を進めておられます。なぜ、変革が必要だと考えられたのか、まずは背景も含めてご説明いただけますか。

きっかけの1つはやはり、1990年代後半から2000年代にかけて起こった産業のパラダイム転換です。プロダクトの心臓部が技術そのものからソフトウェアへと完全に移行し、様々な製品のコモディティ化が進んでいった。それに伴い、我々を含む先進国のビジネスが、これまでのやり方ではなかなか立ち行かなくなってきました。

ソフトウェアをつくるにしても、それをお客様に提供する際にはサービスの形にしないといけない。単体でいくらではなく、顧客価値に基づいたソリューションサービスとして提供できるようなビジネスモデルへと転換していかなければならなくなりました。実社会にあるデータをデジタル化し、場合によっては人工知能(AI)なども使いながら、それを分析・解析して新たな顧客価値へと変換していくことも強く求められるようになってきました。

コニカミノルタはもともとモノづくりの会社ですから、モノに関する技術の蓄積は豊富です。それから、データ化に必要不可欠な優れたセンシング技術も持っている。21世紀はモノかデジタルかのどちらかではなく、両方を使いこなしながら、目の前にある社会的課題を解決していかなければならない時代でもあります。

したがって、我々はそこに向けて組織全体をダイナミックに変革していくことを決意した。大まかに言えば、それが「TRANSFORM 2016」の中身です。

─変革の方向性として「お客様本位」ということを強く打ち出されていますが、これはすでに多くの企業が掲げているスローガンであり、当たり前のようにも聞こえる言葉です。一般的に言われている「お客様本位」と、山名社長のおっしゃる「お客様本位にはどのような違いがあるのでしょうか。

おっしゃるように「お客様本位」を意識していない企業はないくらいでしょう。当社も従来からそれを掲げてきました。ただし、発想がどうしてもプロダクツありきでした。お客様のニーズを聞いて、それを商品に反映していく。こうした「お客様第一」の考えは、まだ「プロダクトアウト」の発想です。一種の御用聞きであり、本当の意味でのお客様本位ではない。

今求められているお客様本位は、本当の意味での「マーケットイン」です。それは、お客様自身もまだ把握していない潜在的なニーズや課題をともに発掘したり、解決したりしながら新しい商品やサービスを創造していくこと。ですから言葉は同じでも、その意味は従来とはまったく違っています。

もちろん、頭ではみんなわかっていました。ただし、体がついていかない。新規事業の開拓をしましょうというと、どうしても技術中心で発想してしまいがちでした。

「それが本当に顧客価値につながるの?」と聞いても、「この技術は世界一ですよ」とか「この商品は世界初です」という説明しか返ってこない。この従来型の発想から早く脱却するためには、誰かがそれをやって見せる必要がある。

それには、これまで当社にはいなかったタイプの人材を外部から集め、当社の技術やカルチャーからいったん離れたところで、自由な発想でビジネスを構築してもらうのが一番いい。そのような考え方の下で立ち上げたのが、顧客価値に基づく新規事業の開発拠点「BIC」でした。

─従来の考え方ですと、まずは東京で「BIC」を成功させ、それを横展開していこうとなりがちですが、コニカミノルタのやり方は違いますね。世界5極同時にスタートされた。これはどうしてなのでしょうか。

それは簡単です。当社のビジネスで言いますと、お客様の8割はすでに海外です。BtoBでつながっている企業も、世界約200万社に上っています。先ほど申し上げた「お客様本位」の発想を貫こうとすれば、お客様に近いところでサービスを展開しなくてはなりませんから、5極同時でないと意味がありません。我々の方からお客様に近づいていこうとする試みですから、当然、そうなります。

BICに関しては13年に構想し、本格的に動き出したのが14年2月です。現在、5極合わせて約100のプロジェクトが動いていますので、このスピード感に関しては期待通りだと言えます。

BICで立ち上がったプロジェクトが今後、事業化していくことへの期待が一番ですが、それよりも嬉しいのはBICの活動に刺激を受けて、もともといた技術者たちの発想や新規事業を立ち上げる際のやり方にも、大きな変化が見られるようになってきたことです。実は、この変化こそが本来の狙いであり、成果だと思っています。

─具体的にはどのような変化が見られますか。

いくつか例をあげられます。例えば、最近展開を開始した「ケアサポートソリューション」がいい例でしょう。

これは介護施設で働くスタッフの負担を軽減し、業務を効率化することで「介護者不足」などの社会的課題を解決していくことを目的としています。施設内の事故で最も危険なのは、高齢者が転倒しているのに気づかないこと。それを防ぐため、従来は入居者自身にセンサーをつけ、入居者が動くたびにアラームが発動するような仕掛けをとっていました。

この方法では「駆けつけたけれども何もなかった」という空振りも多くなります。夜間、少人数で回している場合などは、スタッフの負担も大幅に増えてしまいます。こうした負担を減らすため、当社の技術者はまず施設に泊まり込み、介護者のワークフローを観察することから始めました。3カ月間で十数施設を調べ、介護士の仕事を24時間追跡し、研究しました。

その結果浮かんだ解決策のひとつが、介護者にスマートフォンを持ってもらうことでした。入居者が起床やベッドからの転落などをすると、天井のセンサーでそれを検知し、すぐに画像の形で介護者の持っているスマートフォンへと送る。同時にアラームも鳴らす。

そうすれば、介護者が送られてきた画像を見た上で緊急性を判断できるため空振りを抑えることができ、負担を軽減できるはずだという仮説を持ちました。

完成したソリューションサービスには当社が得意とするセンシング技術を組み込んでいますが、プラットフォームとしては、すでに世に広く出回っているスマートフォンを活用しています。必要な技術が当社にない場合は、他社の技術も使いました。

先ほど申しました「プロダクトアウト」から「マーケットイン」へという発想の転換がなければ、このようなサービスは生まれなかっただろうと思います。

─それは非常に大きな変化です。技術者の方が「こういう社会的価値を生み出したら、世の中の役に立つんじゃないか」と発想する。我々はこれを「価値仮説」と呼んでいますが、まさしくその「価値仮説」を持って検証し、必要な技術を柔軟に組み合わせることで実際の価値が生まれていく。理想的だと思います。

複数のセンシング技術を組み込めば、ベッドで横になっておられる方のわずかな体の動きから睡眠や呼吸の状態をリアルタイムで把握できます。また、介護記録や測定した体温や血圧などバイタル情報をスマートフォンから入力することもできるので、いちいち紙に記録する手間も省けて、楽なんです。

検証の結果、日勤の場合で10%、夜間の場合で29%も介護する側のワークフローを軽減できることもわかりました。すでに受注もいただいております。

同様の例は「3Dレーザーレーダー」にも言えます。これはもともと監視用などに開発されたもので優れた製品ではありますが、単体で販売するよりもビデオマネジメントなどのソフトウェアと組み合わせた方が、ユーザーの気持ちに寄り添ったサービスができる。

リアルタイムの映像を観察しながら変化を予知し、警告できるシステムに構築できたら、セキュリティのみならず、ビジネスの幅広い用途で使っていただくことも可能です。当社はすでにビデオマネジメントシステムを持つ会社を買収しておりましたので、今、そこと当社の技術者が一緒になって開発を進めているところです。

─世界では今、ありとあらゆる分野で「デジタル・ディスラプション」(テクノロジーを使った破壊的イノベーション)が進行していますが、同時に、それを起こせる企業とそうでない企業に明確に分かれつつある。山名社長はコニカミノルタを自ら創造的破壊を起こせる企業へと変革していこうとされているかと思いますが、そのために、社内に対してはどのような働きかけをされているのでしょうか。

ことあるごとにイノベーションの重要性を説いています。昨年10月にも「イノベーションの輪」と題した動画を作り、社員に向けてメッセージを発信しました。英語に翻訳し、海外にも流しています。6月には、全世界の組織を対象に「グローバル・アワード」も開催しました。技術だけではない、新たな顧客価値の創出に取り組んだチームを表彰しています。

今年のアワードには、全世界から200件超の応募がありました。1チーム3人編成でファイナリストに残ったのは10チーム。日本、アメリカ、香港、ドイツ、それと国をまたがった混成チームで応募してきたケースもありました。当日は全員が一堂に会し、一日中、英語で発表や質疑応答をしました。

日本で開催しましたので、部署に関係なく問題意識のある国内の社員を約80人集め、パーティでファイナリストたちと交流させたりもしました。当日の映像は社内SNSで公開し、当時参加できなかった社員も自由に見られるようにしています。道のりはまだまだ長いですが、少しずつ意識変革が進んできているところです。

ビジネス環境の変化はコントロールできませんが、変化の先頭にたつことはできます。イノベーション100委員会の会合でも話に出ているように、日本の経営者の中にも、強い危機感を持ち、変化にただ対応するのではなく、自ら新しいビジネスモデルをつくることで先頭に立っていこうという流れは出てきています。それがとても大切だと思っています。

山名昌衛◎コニカミノルタ取締役兼代表執行役社長。1954年、兵庫県生まれ。77年早稲田大学商学部卒業後、ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)入社。2002年執行役員企画本部経営企画部長、06年コニカミノルタホールディングス常務執行役、13 年コニカミノルタ取締役専務執行役、14年4月から現職。

西口尚宏◎一般社団法人Japan Innovation Network発起人かつ専務理事。日本長期信用銀行、世界銀行グループ人事局、マーサー、産業革新機構を経て、現職。