2016男子テニスツアーの最終戦・ATPワールドツアーファイナルズ準決勝で、錦織圭(ATPランキング5位)は、ノバク・ジョコビッチ(2位、セルビア)に、1−6、1−6、わずか1時間6分で敗れてシーズンを終えた。今季最後の試合で、自分の納得のいくテニスができなかったため彼の表情は曇った。

「やっぱり......、あまりうれしくないというか、喜ばしい終わり方ではないので、やっぱり後味は悪いですけど......。1試合目の(スタン・)ワウリンカに勝ち、(アンディ・)マリーにも勝利まであと一歩でしたし、ポジティブなところもあるので、また来年もっと上に行けるようにしたいですね」

 準決勝後の会見で、錦織は「大丈夫です」と語ったものの、ラウンドロビン(以下RR)2戦目のマリー(1位)とRR3戦目のマリン・チリッチ(7位)とのプレーで、左わき腹にテーピングをしていたことを踏まえると、フィジカルに何らかのトラブルがあったと見るべきだろう。チリッチ戦の第2セット中盤から、錦織のテニスのクオリティが目に見えて落ちたが、もしフィジカルの問題ではなく、疲れやメンタルの影響で、あれだけテニスのレベルが落ちたのなら、それはそれでかなり大きな問題だ。左わき腹は、昨年のツアーファイナルズ直前にも痛め、今季もグラス(天然芝)シーズンで痛めた。おそらく今後もフィジカルは向き合っていかなければならないポイントになっていくだろう。

 ツアーファイナルズでの錦織のハイライトとなった3時間20分のフルセット(7−6(9)、4−6、4−6)におよんだマリーとの激戦では、錦織が今持てる力を出し切り、世界最高レベルのラリー戦を演じた。「圭がほとんどのラリーで主導権を握っていた。たぶん他の誰よりも、とてもうまくボールを動かしていた」とマリーに言わしめたほどだった。

 ツアーに帯同するダンテ・ボッティーニコーチも、少し興奮気味に錦織を評価していた。

「試合の後には『圭に素晴らしいテニスをプレーできたね』と話したんだ。あの試合は、歴史的なものでした。本当に接戦でした。圭は2セットで勝てるチャンスがありましたし、自信を深めることはできたはずで、いい感触を得たと思います」

 だが、ボッティーニコーチは続けて、セットの立ち上がりの悪さとブレークポイントを取り切れないところが課題であると指摘した。

「いつも圭はサービスゲームで、もう一段上のフォーカスが必要です。あのようなタフな第1セットを取った後は、特にね。そして、何度もあったブレークポイントの場面で、いいプレーを実行できませんでした。いいプレーはしましたけど、あのような試合を勝つには、メンタルの部分も少しずつ向上させる必要があります。圭自身もわかっていることなんです」

 錦織もこのように語っている。

「試合の中でもっとアップダウンが出ないようにして、集中しなきゃいけないポイントを見極められたり、ブレークポイントをしっかり取れるようになったり。そこが(上に行くために)一番必要なところ。サーブはまだまだ改善しなければいけないところはありますけど、一番はメンタル的なところが多いかなと思う」

 試合の流れを決めるような大事なブレークポイントをいかにして確実に取っていくかは、さらに上を目指すためのキーポイントになる。
 
 2016年シーズンで、錦織はツアー優勝こそATPメンフィス大会での1回だけだが、グランドスラムのUSオープンでベスト4に進出し、マスターズ1000のマイアミ大会とカナダ大会でともに準優勝を果たし、これまで以上に大舞台で安定した強さを発揮することができた。

 トップ10選手との対戦では5勝13敗。負け越した要因はジョコビッチに0勝6敗、マリーに1勝3敗、この2人によるところが大きい(2014年シーズンが11勝7敗、2015年シーズンが6勝10敗)。リオ五輪の3位決定戦で、ラファエル・ナダル(当時5位)に勝ったり、US(全米)オープン準々決勝で、マリー(当時2位)に勝ったりして、錦織が意地を見せた場面もあった。

「トップ10の選手との対戦でたくさんいい試合があったり、勝ったりした。ナダルやマリー、勝てなかった選手に勝ててきているので、確実にステップは積めていると思います」

 また、マッチ成績は58勝21敗。2014年シーズンが54勝14敗、2015年シーズンが54勝16敗だったので、58勝は自己最多となった。ドミニク・ティエム(8位)と並んでツアー3位タイの勝利数だ。ちなみに1位はマリーの78勝9敗、2位がジョコビッチの65勝8敗だ。

「試合数ももちろん重要ですし、一番勝った年というのは、大きな意味があります。だけど、やっぱり大きな大会でどれだけ勝てるか、なので。今年マスターズの決勝に行けたり、USオープンでまたベスト4に入ったり、そういうのが徐々に増えてこないといけない。それが今年、さらに昨年よりもできていることだと思います。ちょっとずつ積み重ねていければいいかなと思います」

 錦織には、2016年シーズンをランキング3位、4位で終えるチャンスがあったが、ライバルたちに阻まれて、自己タイの年間5位でフィニッシュした(2014年5位、2015年8位)。

「結果的に見れば、一番いい年だった。5位で終われたのも価値のあることだと思う」と錦織は振り返り、さらに「チャンスがあれば、4位や3位に入っていける圏内にいる」と自信をのぞかせる。

 ボッティーニコーチも、「(4位や3位は)たしかに圭にはチャンスがあります。オーストラリアンオープンでの第4シードは、目標のひとつです」と来季を見据える。

 錦織の長年の悲願であるグランドスラム初優勝を考える時、上位4シードに入っておくことは大切なポイントになる。現在の2強であるマリーとジョコビッチと準決勝まで対戦しないで済むのは、錦織にとってアドバンテージになるはずだ。次世代の若手選手たちも実力をつけてきている中、錦織は来季の早い時期に4位以内に入って、初優勝を目指すための基盤を築いておきたいところだ。

「自分で言うのもあれですけど、次に4位や3位に入れる能力はあると思います。そこに行くには、自分がトレーニングを積んで、しっかり練習すれば可能だと思う。来年、再来年とどんどん変わっていくと思う。なるべく上の方に自分がいられるようにしたいです」

 ワールドツアーファイナルズで初優勝して、初めて年間ナンバーワンになった29歳のマリーは"マリー時代"は訪れないと控え目に語る。

「できるだけ今回のような成績を目指してトライするけど、永遠なんてない。30代半ばになって、今のレベルでプレーできるとは思わないし、たくさんの試合ができるとも思わない」

 ジョコビッチも「永遠なんてあり得ない」と口をそろえるように、時代は、確実に流れている。2017年シーズンには、34歳のロジャー・フェデラー(16位)や30歳のナダル(9位)もツアーに復帰して、ツアーをおもしろくしてくれるだろう。新旧ライバル達との競争がますます激しくなる中で、錦織はまもなく27歳になり、来季にはプロ転向10周年を迎える。節目となるシーズンに悲願のグランドスラム初優勝を実現できるかどうか、まさに正念場となる。

神 仁司●文 text by Ko Hitoshi