あなたの領収書、ここが危ない!

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■経理マンが動いて「1人飲食」を発見!

私は『経理部は見ている。』(日経プレミアシリーズ)を執筆するに際して、5年かけて経費チェックをしている多くの経理担当者に話を聞いてきた。仕事内容はひたすら毎日書類をめくり、金銭の支出とその内容が問題ないかを見続けている。皆さんがきちんと仕事に取り組む姿に感銘を受けることも多かった。決算発表などの華々しい場面とは無関係な担当者がほとんどだ。

また経理部自体が、社内でも控えめな存在と見られることが多い。営業部門や人事部門などに比べると、社内からの関心も低く、「なくてはならないが、普段は意識しないという意味で、もの言わない臓器の肝臓に似ている」とたとえる経理部長もいた。

経理部員としての個人も同じで、人事評価という観点から考えると、ミスをしないように、また問題が出ないように行動しがちになると指摘する経理の専門家もいる。周囲からも保守的だと思われている経理部員は多いようだ。

しかしそういう中でも、書類をわきに置いて現場まで足を運ぶ経理担当者がいたことが印象に残っている。

ある調査会社に奇妙な精算をする女性社員がいた。喫茶店での調査ヒアリングの際、飲み物のほかにケーキを1つ頼んでいる。経理担当者が「ケーキまで必要なのか?」と聞くと、「お客さん(ヒアリング相手)が要望した」と回答する。

彼女が提出したほかの書類にも、スイーツが入ったレシートがときどき混じっていた。会社が決めた単価である、1人500円以内という規定には収まっている。しかし、どうも合点がいかない。

それまでの彼女の書類を見直すと、喫茶店の手書き領収書は1000円近くのものが多い。領収書の「摘要」には、「2人分飲食」、「ヒアリングのため」などと書かれている。手書き領収書は明細がわからないので、こう書かれてあれば受け付けるしかない。

■ルールを変えて経費の透明性を高める

その後、何カ月か彼女の提出するレシートや領収書を見ていて、「1人で飲食しているのでは」という疑念が浮かんだ。彼女の活動日報と提出された書類を突き合わせることも検討したが、それでは非常に手間がかかる。

そこで担当者は、領収書の住所を頼りに、休日にその喫茶店に出向いてみた。メニューを見ると、飲み物は一律400円、ケーキセットは850円。提出された領収書の金額は2枚とも850円。1人で飲食していたのは間違いない。飲み物2人分なら計800円のはずだ。

ほかのFC店のレシートを調べると、人数は2人になっているが、ひょっとすると友人と一緒のものも含まれているかもしれないと思えてきた。

経理担当者は、彼女の提出した書類にはあえて何も言わず、新たなルールを設定した。

まず手書き領収書は原則認めない。ヒアリングを行うのは、明細の入ったレシートをくれる店に限り、かつ認めるのはコーヒーか紅茶だけ。その他のジュースやケーキなどはすべて自己負担。やむをえず手書き領収書になる場合は事情書を提出させることにした。

彼女の問題を個別に解決するよりも、社内全体で経費の透明性を高めたほうがよいと判断した。社員にとって店舗選びが多少窮屈になってもやむをえないと考えたという。

これには後日談があって、「喫茶店でのコーヒーと紅茶以外は支出不可」としたが、ファミリーレストランのドリンクバーは認めることにした。車を使う社員から「駐車場があるファミレスがヒアリングに一番便利なんです。コーヒーと紅茶に限られると仕事に支障が出ます」という声を聞き入れたからだ。現場の状況に応じて柔軟にルールを変えていくことも大切なことである。

■監査で必ず現場に赴く経理担当者も

また、あるメーカーの経理担当者は、地方に単身赴任をしていた支店長が気になっていた。月に何回か飲食の手書き領収書が提出される。ほとんどが「顧客との懇談」だ。それぞれの書類には特におかしな点はない。過疎地に支店があるので、手書きの領収書も認めていた。

過去の数カ月分の飲食をまとめると、4つの店で数社の取引先と繰り返し飲食している。金額はいずれも4000円前後だった。支店長は単身赴任である。ひょっとして仕事が終わったあとの夕食を1人で食べているのではと疑い始めた。店の場所をネットで検索すると、すべて支店から歩いて行けるところだった。

そのため、3カ月分の飲食した店と金額および相手先の名前を一覧表にして支店に送付し、それぞれの懇談内容を簡単に報告するように依頼した。まもなく報告書が届いた。すると、それ以後は、同様の経費請求はしなくなった。おそらく私的な飲食を疑われていると察して自重したのであろう。

そして支店長が転勤した翌年、経理担当者は、たまたま監査でその支店に赴いたことがあった。会議室で支店の社員が「前任の○○支店長は、営業成績がよくなかったので、気分の発散のためなのか、1人で飲んでいることが多かった」と語っていた。

彼が書類から推測していたことに間違いはなかったと思った瞬間だった。

このように彼は出張した時は、精算票に書かれた飲食店に立ち寄り、課題のある社員と直接面談をすることもある。実際に店で飲食すると精算表に書かれていることが立体的に理解できるそうだ。

経費の使い方が荒っぽい社員から中華料理店の手書き領収書が提出されたことがある。領収書にある住所に彼が行ってみると、怪しげなネオンサインのあるキャバレーだった。

彼らは、オフィスで書類を通じて現地に照会するだけでは納得できないので現場に赴く。話を聞いていると、中途半端なまま仕事を残しておけない性質なのだろう。本当は刑事や探偵にでもなったほうがよかったのではないかと思いながら、身銭を切って調べている彼らの話を聞くと、日本のサラリーマンもまだまだ大丈夫だと思った次第である。

(人事コンサルタント 楠木新=文)