サムスン電子・ギャラクシーノート7(写真:AP/アフロ)

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 韓国のサムスン電子(以下、サムスン)は、新型スマートフォン「ギャラクシーノート7」でバッテリー異常による爆発が相次ぎ、約250万台のリコールに追い込まれました。問題発生時は一時生産中止の対応がなされましたが、その後、生産終了となりました。世界首位メーカーの最上位機種がわずか2カ月で生産終了になるとは異常事態ですが、これに呼応して、一部ではサムスンの経営危機さえも囁かれる事態となりました。
 
 そこで筆者は、サムスンの最近の決算書を取り寄せて分析しました。結論からいうと、「目下、(短期的な意味での)サムスンの経営危機の特徴は見当たらない」ということになります。以下、具体的に説明します。

●特徴1:分厚い自己資本

 以下に掲げたのは、サムスンの2016年9月30日現在における貸借対照表データ(簡易版)です。

 これをみると、総資産が2,444,715億ウォン、負債が649,351億ウォン、株主資本が1,795,364億ウォンとなります。韓国ウォンだとわかりづらいので、日本円に換算したデータを示すと、1ウォン1.09円(以下、同)として、以下のようになります。
    
・総資産:約224兆2858億円
・負債:約59兆5735億円
・株主資本:約164兆7123億円

 いわゆる株主資本比率は73.4%と極めて分厚く、負債が小さいことがわかります。それだけでなく、この貸借対照表をみると、預貯金の残高が83兆681億ウォン(約76兆2093億円)もあって、負債の総額である64兆9351億ウォン(約59兆5735億円)を大幅に上回っています。預貯金だけで負債の総額を上回るほどの金持ち企業というのも世界的にみて少ないのです。

 こういう企業において経営上のミスが生じたとしても、(少なくとも短期的には)経営危機は生じません。それほどまでに、サムスンの財務基盤は安定しています。

●特徴2:収益力には陰りあり

 いっぽう、ROE(株主資本利益率:株主から調達した資本を元に、どれだけ効率的に利益を生み出しているかを示す指標)は、以下の通り推移しており、株主からみた収益力は悪化しています。これまで13%で推移していたROEが10%に低下していますので、株価もこれにつられて下落する要因が生じています。

 また、下記の損益計算書にみられるように、業績も下落しています。

 2016年7〜9月期の売上高は対前年比7.5%減少し、これに伴い売上総利益、営業利益、当期純利益とも下落しています。この先、赤字に転落する可能性もゼロではありません。

 しかし、「業績の悪化」と「経営危機」を一緒くたにするのは正しくありません。経営危機というのは、短期的な意味での倒産の可能性がみられる状態です。それは、決算書データをみるうえでは、まったく見当たりません。

 これに対して、「業績の悪化」は、株価の下落の原因となるものです。確かに、今回の事件では業績が悪化し、大きな株価の下落要因が生じました。これは、確かに大きな要素です。とはいえ、これだけでサムスンの経営は崩壊しません。
 
●近著にみるサムスンの素顔
 
 そういう点で、今年9月に出版された『サムスン崩壊』(勝又壽良/宝島社)は注目に値する書籍でした。本書は、サムスンの内部に潜む問題点をえぐり出した書籍です。この書籍に書かれていることは、サムスンをはじめとする多くの韓国企業が抱えている課題でもあり、サムスンが中長期的に克服すべき課題も書かれていました。

 しかし、どの会社も中長期的な課題を抱えており、なにもサムスンに限ったことではありません。サムスンの場合、今日のような事態に直面したこともあって、経営上の問題点が浮き彫りにされてきたといえます。今後のサムスンは課題に取り組む必要がありますが、現在までの堅実な財務内容をみる限り、短期的には経営危機とは無縁です。

 つまり、サムスンには課題を克服するための十分な時間が与えられています。この先、サムスンが前出『サムスン崩壊』で指摘された課題を克服することを祈ってやみません。
(文=前川修満/公認会計士・税理士、アスト税理士法人代表)