スシローの店舗(「Wikipedia」より)

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 投資ファンドは、買収した企業を非公開にして株主から短期的な業績動向に対する圧力を受けないようにしたうえで、大規模な経営改革に取り組む。この方法が手っ取り早いからだ。

 投資した資金を回収する出口戦略は3つだ。再上場するか、事業会社に売却するか、別のファンドに売り渡すかだ。

 英投資ファンド・ペルミラ傘下の回転ずし大手、あきんどスシローの出口戦略は、いわば二刀流。現時点では今冬をメドに再上場を申請する方針だ。2017年の前半に上場が実現すれば、09年に非上場となって以来8年ぶりの市場復帰となる。

 再上場するとなると、持ち株会社スシローグローバルホールディングス(GHD)が対象となる。15年3月に設立され、現在はペルミラが9割以上の株式を保有、残り数%を経営陣が持っている。株式市場では「時価総額は1000億円を超える」と見られている。外食産業の再上場としては14年のすかいらーく(再上場時の時価総額は2330億円)以来の大型案件となる。

 ペルミラは上場に向け、主幹事証券会社に野村證券を指名した。再上場による株式売り出しで投資を回収する、というのが最も有力なシナリオだ。

 9月30日付ウォール・ストリート・ジャーナルは、「スシロー買収で複数社が協議」と報じた。スシローGHDの買収をめぐり、投資ファンドのMBKパートナーズなど複数の買い手候補が協議に入っている。買収額は1500億円に達する可能性がある。「ペルミラはスシローを第三者へ直接売却することを望んでいるものの、好ましい金額を引き出せなければ新規株式公開(IPO)の実施を引き続き検討する」との関係者の話を伝えている。

 だが、スシローGHDは10月5日、ウォール・ストリート・ジャーナルの報道を否定した。

 ペルミラは12年、投資ファンドのユニゾン・キャピタルから786億円で、あきんどスシローを買収した。再上場して保有株式を売り出すケースと、ほかのファンドに直接転売するケースでは、どちらのリターンが大きいかを試算しているところだ。売却想定額は1500億円。再上場の際の時価総額が1000億円程度にとどまると判断すれば、ほかのファンドへ直接、転売する道を選ぶだろう。

●ホワイトナイトとして巨額のリターンを得たユニゾン・キャピタル

 あきんどスシローは内紛、乗っ取り、転売の歴史だった。スシローは清水義雄氏と清水豊氏の兄弟が1975年、大阪市阿倍野区でカウンター型立ちずし「鯛ずし」を創業したのがルーツ。84年に株式会社すし太郎(現あきんどスシロー)を設立。03年、東京証券取引所第2部に上場した。

 その後、兄弟喧嘩が勃発。07年3月22日、牛丼チェーン「すき家」を運営するゼンショーが、突然、発行済み株式の27.2%を保有する筆頭株主として登場した。ゼンショーが取得した株式は、弟の豊氏とその家族が保有していた分だ。

 それから5カ月。兄の義雄氏側は敵対的買収を撃退するホワイトナイト(白馬の騎士)を見つけた。投資ファンドのユニゾン・キャピタルである。ユニゾンによるゼンショー撃退作戦は、MBO(経営陣が参加する自社買収)によるスシローの株式の非公開化➝上場廃止だった。

 08年9月25日、ユニゾングループはスシロー株式の公開買い付け(TOB)を実施。TOB価格は1株3250円。スシローの発行済み株式の64.08%を取得。09年4月1日、東証2部を上場廃止になり、株式は非公開となった。

 筆頭株主のゼンショーはTOBに応じず、TOB後に行われた株式交換時にTOB価格と同額の金銭交付を受け、スシローから撤退した。スシローは助っ人・ユニゾンの手を借りて、天敵・ゼンショーを追い払ったのである。

 ユニゾンは、リターンが最も大きいファンドへの転売を選択した。12年9月28日、ユニゾンは保有している全株式81%を投資ファンド、英ペルミラに譲り渡した。譲渡価格は約10億ドル(当時の為替相場で786億円)。ユニゾンは、株式売却で莫大な利益を得た。541億円の売却益が出た、と推計されている。ユニゾンはホワイトナイトとして破格の報酬を得たのである。

●「プロ経営者」が力を込めた都市型新業態店が失敗

 大枚をはたいてあきんどスシローを買ったペルミラは、スシローの高値売却を狙い、「2020年に売上高2000億円」の成長戦略を掲げた。成長を続けていくために元日本航空副社長の水留浩一氏をスカウトした。

 水留氏は東京大学理学部卒業。電通で勤務した後、アンダーセンコンサルティング(現・アクセンチュア)を経て、欧州を代表するコンサル会社、ローランド・ベルガー日本法人に転職。09年には官製ファンドの企業再生支援機構(現・地域経済活性化支援機構)の常務に就き、翌10年に会社更生法で再生中の日本航空の副社長に就任した。その後、アパレルのワールドの専務執行役員などを経て、15年2月1日、あきんどスシローの社長になった。

「プロ経営者」である水留氏が力を込めたのは、スマート・スシ・ダイニングをテーマにした都市型の新しい店だ。15年1月に1号店「ツマミグイ中目黒店」をオープン。15年6月に2号店を赤坂見附に、7月に3号店を新橋に出店した。回転レーンがなく「皿が回らない」すし店で、1貫の価格を100〜500円前後にした。定番メニューが1皿100円前後のスシローに比べて高級感を出した。

 しかし、客足は伸びず、1号店の中目黒店は「七海の幸 鮨陽」に業態に転換。シャリロボットを導入せず、職人が握るすし店で平均客単価は5000円と通常の回転ずし店の5倍程度に設定した。

 新業態店は失敗に終わった。2号店の赤坂見附店は16年3月、3号店の新橋店は6月末に閉店。業態転換した中目黒の「鮨陽」も8月に閉店した。

 新業態の失敗が決算にどう影響するかだ。上場企業でないため、財務諸表の開示はないが、スシローGHDのホームページによると15年9月期の売上高は1362億円、当期純利益は42億円だった。16年9月期連結決算では、新業態店の減損損失を計上しなければならない。もし、大幅な減益になればペルミラの出口戦略に影を落とすことになる。
(文=編集部)