「相手がウザいと思うぐらい、こっちが回さないといけない」。10月のイラク戦後、本田はそう語った。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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 アジア最終予選も前半戦が終わり、ハリルホジッチ監督の目指すスタイルの輪郭がくっきりと見えてきた。
 
 対戦相手や試合の性質によって、戦い方を変える――。
 
 それが鮮やかに浮かび上がったのが、勝点1を死守しようとした10月のオーストラリア戦と、勝点3をもぎ取りにいった11月のサウジアラビア戦だった。
 
 もっとも、変えているのは、対戦相手や試合の性質によってだけではない。90分の中でも戦況に応じて、時間帯によって、戦い方を変えている。
 
「前半は『前から行こう』ということで、高い位置で取って縦を狙う速いサッカーができたと思うし、後半は相手にボールを持たせて、我慢強くスライドしながら相手のミスを誘ってカウンター、というのがうまくやれていた」
 
 サウジアラビア戦のあと、そう明かしたのは、GKの西川周作だ。前半はハイプレスを敢行し、ショートカウンターを狙ったが、リードして迎えた後半はプレスのスタート地点を少し下げ、待ち構えるようにして守った。
 
 後半に入って原口元気がドリブルで長い距離を運ぶ“ロングカウンター”が増えたのは、それを裏付けるデータだろう。
 
 その後半、守備での奮闘が光ったのが、香川真司だ。
 
 長谷部誠や山口蛍が相手のボランチに食いつき過ぎると、守備ブロックに綻びが生じてしまう。そこで香川が相手のセンターバックとボランチの両方をうまく監視した。攻撃の流れで本田圭佑が真ん中に残ったとき、すぐさま右サイドに移ってスペースを埋めていたのも香川だった。
 
 80分には、本田とのコンビネーションで左サイドを突破した長友佑都がクロスを流し込み、香川のワンクッションから原口が落ち着いて決めて2-0。ここまでは理想的な展開だった。だからこそ、もったいないのが終了間際の失点だ。
 
 90分、山口がアルアビドに振り切られ、前線に残っていたセンターバックのオスマンに縦パスを入れられてしまう。この時、身長184センチのオスマンを長友がマークするというミスマッチが起き、アルシャムラニのシュートへと繋げられ、最後は再びオスマンに蹴り込まれてしまった。
 
 誰が、誰を見張るのか――。その役割を明確にするなら、吉田麻也をオスマンのマークに付けて、所属するフランクフルトではリベロも務める長谷部をディフェンスラインに下げてしまう手もあった。
 だが、戦況に応じて戦うことがハリルジャパンのスタイルなのだから、逃げ切りを図るための別の選択肢があってもいい。
 
 ポゼッション――ボールキープだ。
「相手がウザいと思うぐらい、こっちが回さないといけない」
 
 本田圭佑がそう語ったのは、10月のイラク戦後のことだった。ショートパスを繋いで揺さぶり、相手がゴール前に張り付かざるを得ないほどの圧力で押し込んでいく。
 
 本田が語ったのは、攻撃についてだったが、ボールを保持するポゼッションは攻撃のためだけのものではない。守備においても、その効力を発揮する。ボールを保持していれば、相手は攻めようがないからだ。
 
 かつて日本代表も、そんな老獪な相手と対戦したことがある。2012年10月、ポーランドのヴロツワフで対戦したブラジル代表だ。
 
 この時のブラジルは「ポゼッションか」「カウンターか」という二元論では語れない多様性があった。
 
 ザックジャパンに対してハイプレスを仕掛け、中盤でも激しく囲い込んできたブラジル代表は12分に先制点を奪った直後、戦い方を変えた。自陣で守備ブロックを築き、前線の4人――フッキ、オスカール、ネイマール、カカに素早くボールを預け、速攻を繰り出すようになったのだ。
 
 さらに26分、48分とゴールを重ね、安全圏に入ったブラジル代表は、再び戦い方を変更した。今度は日本陣内でボールを回し始めるようになったのだ。それは必ずしもゴールを狙うためだけではない。日本を揺さぶるためであり、ボールをキープして日本に攻撃の機会を与えないためでもあった。
 
 戦況と時間帯に応じて、前からのプレス、リトリートからの速攻、多目的のポゼッションを使い分けたブラジル代表はまさに試合巧者。あの日のブラジル代表こそ、ハリルジャパンの目指す理想形だろう。
 
 最終予選は来年3月から後半戦に突入する。リードして試合終盤を迎えた中東でのアウェーゲームで、パスを繋いで相手を焦らし、時間を消費させることができたなら、ハリルジャパンもいよいよ“大人のチーム”の仲間入りをすることになる。

文:飯尾篤史(スポーツライター)