地球温暖化についての科学的研究を行う政府間機構、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が作成した、1850年から2012年にかけての世界の平均気温上昇を示したグラフ。上は各年、下は10年ごとの推移である。なお、IPCCは2007年にノーベル平和賞を受賞している。(出典:IPCC公式サイト)

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 アメリカのドナルド・トランプ次期大統領が選挙戦の中で繰り広げてきた数ある過激な主張の一つに、「地球は温暖化などしていない。温暖化説は中国が国益の為にでっち上げたデマだ」というものがある。筆者はこれは完全な誤りであると指摘したい。地球温暖化と呼ばれる現象が起きていることは、科学的には全く疑いのない事実だ。世界の年平均気温は100年あたり約0.7度のペースで上昇しており、2015年の年平均気温は1891年の統計開始以降最も高い値となっている。

 だが、トランプ氏は就任後にパリ協定(温室効果ガスをゼロにすることを目指す国際協定)から脱退すると宣言しており、これが本当に実行された場合、今日まで国際社会が推進してきた温暖化対策に深刻な後退が生じることから、世界的に懸念が広がっている。

 科学者たちは既にトランプ氏に対し抗議の声を上げている。9月20日には、宇宙物理学者スティーブン・ホーキング博士をはじめとする、アメリカ科学アカデミーのメンバー375名(うち30名がノーベル賞受賞者)が連名で、パリ協定からの離脱を行わないようにとトランプ候補(当時)に要求した。また、最も権威ある科学誌のサイエンスは11月17付電子版に掲載した論説の中で、「トランプ氏は大統領になったら科学を尊重してほしい」と苦言を呈している。

 ただ、地球温暖化はデマであるという主張は、何もトランプ氏の独創なわけではない。これは「地球温暖化に対する懐疑論」(以下、懐疑論)と呼ばれる一種の疑似科学であり、日本やアメリカを含め、世界中に多くの「信奉者」を持つ。日本で代表的な論者としては、中部大学の武田邦彦特任教授がいる。文藝春秋『暴走する「地球温暖化」論』(2007年、共著)からその記述を少し引用してみよう。

 「数ある環境問題の中で『地球温暖化』ほど、また日本におけるこの問題ほど、捏造や誤報がまかりとおってきた分野はない。まずは、異常に頭の温暖化が進んだ日本社会を冷やすことが、先決であろう」。

 トランプ氏や武田氏のように、懐疑論者たちは地球温暖化説は何者かの捏造であり、陰謀であると主張する。中国ばかりではない。大企業が商品を売るための方便として生み出された、とする言説もかなりの割合を占める。

 アメリカに懐疑論者が多いのには一つのきっかけがある。2014年にアメリカを襲った大寒波だ。このときまだ一介の実業家であったトランプ氏は、自身のツイッターに「今我々が経験している寒波はここ20年で一番のものだ。ほとんどの人は記憶にないだろう。これが地球温暖化?」と書き込んでいる。この年、懐疑論者は確実に増えた。そして、そのことは懐疑論者であるトランプ氏が大統領に当選したこととも全く無関係ではないだろう。また、特に共和党はトランプ氏のみならず上・下院の議員たちの中にも懐疑論者が少なくないとされる。懐疑論は、アメリカでは政治の世界でも一定の影響力を持つほどになっているのである。  だが、「今日は寒い(または涼しい)、地球が温暖化しているなんて嘘ではないのか」というのは、地球温暖化に関して最もよくある誤解の一つに過ぎない。地球温暖化による気温の上昇は、一個人が自らの寿命の範囲で、体感として感じられるようなものではない。地球全体が温暖化していても、暑い日もあれば寒い日もあることに変わりはない。地球温暖化の影響で異常気象の頻度が増えているという学説もあるが、それを抜きにしても、「今年は寒かった。だから地球は温暖化していない」といったような考えは全くの素人的勘違いに過ぎないのである。

 しかし、素人の勘違いとアメリカ大統領の勘違いでは重みがあまりにも違う。トランプ氏は就任後この問題についてどう動くのか。状況は予断を許さない。