負ければ、すぐさまそこでヤングなでしこたちのW杯が終わる。準々決勝は、決勝トーナメントで最もプレッシャーを感じる戦いかもしれない。予選リーグとは確実に異なる緊張感のなか、日本はブラジルに3−1で完勝し、準決勝へコマを進めた。

 これまでの3戦と比べても、最も冷静でアグレッシブにゲームを支配した試合だった。スペインに敗戦した後から、入りの一発目には並々ならぬ意識で臨んでいる選手たち。ブラジルのような個人技で押してくるスタイルは、一度勢いに乗せてしまうと手がつけられなくなる。

 先に主導権を握りたいが、突っ込みすぎてかわされては相手に流れが渡ってしまう。相手の勢いを削ぐ距離と、リスクのギリギリの距離感を探り合う。立ち上がりこそ、距離が離れ気味になることで、球際で押される場面もあったが、徐々にピッチのあちらこちらで選手たちがそのポイントを探り当てていく。

 12分、長谷川唯(日テレ・ベレーザ)の前線へのボールはクリアされ、拾おうとするところを奪われそうになる。そこへすかさず右サイドハーフの守屋都弥(みやび/INAC神戸)が寄せると、右サイドバックの宮川麻都(日テレ・ベレーザ)も続いてサポート。2人の連係でボールをキープすることに成功した。こういった動きが一度出れば、自然と日本全体の距離感が定まっていく。中盤に差し掛かる前には日本がピッチを支配していた。

 守備がハマってきた分、攻撃にもスピードが出てくるが、ブラジルも日本対策として中盤と前線、中でも籾木結花(日テレ・ベレーザ)には厳しいチェックで動きを封じようとする。そんななかで、ほぼ自由にプレーできていたのが守屋だった。サイドから中へ切り込み、チェックをかいくぐりながらゴール前へ流し込むパスは幾度となく、ゴールを匂わせた。ところが前半ロスタイムに守屋がやってのけたのは、アシストではなく、待望の先制点をたたき出す大役だった。

 この先制点、長谷川のスイッチから守屋のフィニッシュまで関わるすべての選手に一切の無駄がない。DF2枚の間をタテに通した長谷川のスイッチパスは、受ける籾木のスピードを十分に考慮しており、その籾木はすでに中に走り込んでくる上野真実(愛媛FC)の気配を感じていた。ニアでつぶれる形になった上野の動きにブラジルDF陣がつられて、ゴール前はスペースだらけだった。守屋は、そこにこれ以上ない絶好のタイミングで走りこんでいたからこそ、こぼれ球に反応できたのだ。

 たとえ守屋のシュートがDFにブロックされたとしても、スイッチを入れた直後、中央に寄せていた長谷川の周りにはマークがおらず、とどめを刺せる状況は整っていた。

 第3の動きがあれば格段に得点率が上がると言われるなでしこジャパンの攻撃だが、この得点に関しては第4、第5の動きまで完備されていたことになる。なかなかゴールを割ることができない45分間を耐えた先にあった、生まれるべくして生まれた先制点だった。

 もう1人の立役者はやはり2ゴールを決めた松原志歩(セレッソ大阪堺)だろう。カナダ戦ではヘディングシュートを外し、「あんな失敗したことない」と少しへこみ気味だった松原だが、すべてを払拭する2ゴールを奪った。フリーで外すこともあれば、シュートチャンスを逃すこともあったが、それでもDFの死角に陣取り、こぼれ球を引き寄せるゴール嗅覚はこのチームでは随一だ。

 ハットトリックも目前だったものの、「1対1には弱いみたいです」と苦笑い。絶好のチャンスはGKの正面キャッチと相なった。そんな課題もここから覆していく力を十分に秘めている。

 立役者として2人を挙げたものの、すべての選手がそれぞれの役割を果たしたことで勝利を引き寄せた試合だった。籾木、上野の前線からのプレス、特に後半にポジションを自在に変化させながらブラジル守備陣を翻弄した長谷川ら攻撃陣の運動量は相当なものだった。

 乗松瑠華(浦和レッズL)、市瀬菜々(ベガルタ仙台L)のCBコンビも互いにカバーリングしながら攻撃の起点になることも多く、試合を重ねるごとに攻撃のバリエーションは増えていきそうだ。何より自分たちで意図を持って、細かいポジショニングと相手との間合いを推し量りながら連係を生み出すことができた。高倉麻子監督のいう「攻守一体」のサッカーが表現された90分間だった。

 また、高倉監督の選手を把握する眼が際立った試合でもあった。準々決勝までの中3日で、コンディションとパフォーマンスを見極め、抜擢した2人が期待以上の結果を残した。

 新たなポジションを与えられる中で活躍した守屋、ゴールが成長を促すであろうと背中を押された松原、ほかにもカナダ戦のパフォーマンスを買われ、準々決勝でも右サイドバックを任された宮川など、これまで控えとして戦ってきた選手たちのモチベーションが高いのは、高倉監督が21人全員を見ているから。

 もともとのポテンシャルに加えて、高倉監督が重要視しているのは大会中の成長幅だ。高倉監督が日々組んでいるトレーニングメニューは雄弁だ。意図が明確なため、それを理解してこなすことで次戦への修正が可能となり、そこで高いパフォーマンスを見せれば、出場のチャンスは一気に高まる。現にここまで、フィールドプレーヤーは全員が出場機会を与えられている。それも、目に見える"ターンオーバー"という形ではなく、である。

「誰が出ても遜色のないチーム」は、理想だが現実は難しい。このチームは比較的その"温度差"が小さい。だからこそ、控え選手たちが抜擢されても、新たなコンビネーションが生まれるという相乗効果が得られるのだろう。

 準決勝の相手はフランス。ここまでで最大の難敵となる。おそらく、これまで以上に研究され、的確に日本を潰しにくるだろう。そんな封じ手を跳ねのけながら、自分たちのサッカーを貫けなくては、目標である"世界一"に挑戦する決勝の舞台に立つことは許されない。準々決勝での戦い以上のクオリティの高さを求められる。

 必要なのは修正することだけでなく、修正後の新たな成長だ。一戦ごとに深みを増してくるヤングなでしこたちは、まだまだ完成形ではないはずだ。次なる準決勝の舞台では、さらなる伸びしろを見せてほしい。

早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko