ファン待望の『機動警察パトレイバーREBOOT』が、「日本アニメーター見本市」のサイトにて期間限定の無料配信がスタートした(2017年2月28日まで)。


完全新作アニメとしては2002年の劇場アニメ『WXIII機動警察パトレイバー』以来、実に14年ぶりとなる本作。8分弱の短編だが、熱心なファンからは「これでTVシリーズやってくれよ!」「これが俺の見たかったパトレイバーだ!」と絶賛の嵐が巻き起こっている。

8分の間に、レイバーと呼ばれる作業機械が日常的に存在する作品の世界観、ツートンカラーでパトランプと桜の代紋をつけたパトレイバーのユニークさ、メカ描写の精密さ、若い隊員たちと老獪な隊長のやりとりのユーモア、過去のシリーズに対するオマージュなどがギュッと詰め込まれており、ファンはもちろん、『パトレイバー』のことをまったく知らない人が見ても楽しめる出来だ。

監督・絵コンテ・演出・撮影監督・編集・共同脚本を務めたのは『イヴの時間』『サカサマのパテマ』の吉浦康裕。大の『パトレイバー』ファンを公言する吉浦監督は「パトレイバー人口の拡大」を目標として掲げ、半年以上の時間を費やして本作を完成させた。
※ツイッターより

30年間広がり続ける『パトレイバー』の世界


『機動警察パトレイバー』は、ゆうきまさみ(原案とコミック)、出渕裕(メカニックデザイン)、高田明美(キャラクターデザイン)、伊藤和典(脚本)、押井守(監督)という5人のチーム「ヘッドギア」によって制作されたメディアミックス作品だ。

1988年4月、ゆうきまさみによるコミックの連載が『週刊少年サンデー』にて連載開始、同時に押井守監督によるOVA全6本のリリースが始まったのを皮切りに、劇場映画3作、テレビシリーズ全48話、第二期OVA全16巻などが制作された(コミックは原作ではない)。2014年には実写版『THE NEXT GENERATION パトレイバー』も公開されている(12話の短編と長編1作)。

その他、伊藤和典、横手美智子、押井守による小説版、複数のハードでリリースされたコンピューターゲーム版などもある。30年近くの歴史を持ち、非常に本数も多く、内容もバラエティに富んでいる『パトレイバー』について、アニメ・特撮研究家の氷川竜介は「他に例のない一種のお化けシリーズ」と表現している。
※「氷川竜介評論集」より

なぜこんなことが可能なのかというと、ひとえに最初のキャラクター設定と世界観が強固だからである。器がしっかりしているので、どんな料理(テーマ)でも盛り付けることができるのだ。

『機動警察パトレイバーREBOOT』は、これらの広大な『パトレイバー』の世界のど真ん中をフルスイングで振り抜いた会心の一撃である。
では、なぜ、ど真ん中を振り抜くことができたのだろうか? ここでは『パトレイバー』における“地名”と“日常”をヒントに考えてみたい。

『パトレイバー』と住宅街


『パトレイバー』には実在の地名が頻繁に登場する。なかでも東京の地名が登場することが多く、コミックス1巻で主人公の泉野明が「こんな地名ばっかガンガンでてきても あたしみたいな地方出身者は何がなんだかわかんないよーっ!!」と叫ぶほどだ。今で言う「聖地巡礼」のように、舞台となった場所をめぐるファンは多かったらしい。

『パトレイバーREBOOT』の舞台は、台東区の人気スポット・谷中銀座商店街(作中では「合中」とされている)。描き込みはすさまじく正確で、商店街のアーチの形なども完全一致。隊長が見ているマップも、実際の地図とまったく同じものである。
商店街で暴れているのは土木作業用のレイバー「ブルドッグ」。『パトレイバー』の世界では非常にポピュラーな機種であり、テレビシリーズ第1話の冒頭で酔っ払いが乗って暴れるのもブルドッグである。
イングラムがデッキアップされるのは、商店街の端にある階段“夕やけだんだん”の手前の路地。行ったことがある人ならわかると思うが、すさまじく狭い場所だ。ここから住宅の破壊を避けるため、ブルドッグを谷中霊園のある日暮里駅の方向に押し込んでいく。

谷中銀座といえば東京の下町を代表する商店街だが、コミックス1巻で描かれるパトレイバーこと98式AVイングラムの初陣は、谷中からほど近い上野桜木にある浄名院前から国立科学博物館の前のあたりで繰り広げられる(初期OVA1巻も同様)。
近隣には住宅が多く、特に浄名院の先は根津の住宅街が広がっており、昼行灯の後藤隊長でさえ「そこから先にいかせちゃならんぞ」「トレーラーをバリケードにして道をふさげ。石にかじりついてでも動くな!」とかなり神経質になっていた。
ちなみに浄名院の裏手にはやはり谷中霊園が広がっているが、後藤隊長がなぜ霊園に相手のレイバーを誘導しなかったのは謎。後藤隊長は信心深いのかもしれない。

劇場版第1作の冒頭には、土木作業用レイバー「タイラント」が暴走して住宅街を破壊し、イングラムに取り押さえられるシーンがある。
劇中では「台東区下谷」というセリフがあるが、実際に描かれていたのは北新宿のあたり(地図も登場する)。入り組んだ路地に木造住宅や飲食店が密集するエリアとして描かれているが、現在は大規模な再開発が行われている。タイラントは北新宿二丁目と一丁目の境の道を北上し、途中で方向転換して神田川に向かう。
なお、吉浦監督はこのシーンを意識して『パトレイバーREBOOT』を制作したという。
※「Animate Times」より

テレビシリーズ第1話でブルドッグと特車二課の96式ASUKAが戦ったのは、地名こそ出てこないが、新宿の高層ビル街を望む住宅街の近くにある団地に囲まれた公園だった。団地のベランダで朝の支度をしながら特車二課の捕り物を見物する住民の姿が描かれている。老婆と孫がいる神社は北新宿の鎧神社のようにも見えるが、比較してみたところ、微妙に形が違っていた。

こうして並べてみると、コミックス1巻、OVA1巻、劇場版第1作、テレビシリーズ第1話と、いずれも特車二課は実在の住宅街の中、あるいは近隣で戦っている。野次馬に囲まれ、周囲の建物に気遣いながら、暴れるレイバーを取り押さえるのは特車二課に課せられた使命のようなものだ。だから、『パトレイバーREBOOT』も野次馬と住宅と商店が多い谷中銀座を舞台に選んだのだろう。

日常と地続きの『パトレイバー』


『パトレイバー』の世界観で重要なのは、作中の日常と現実の日常が地続きのように感じられることだ。
物語の舞台はアニメとコミックが始まった88年から10年後の近未来(特車二課が創設されたのが98年)。レイバーは東京湾を埋め立てて用地開発を行う「バビロンプロジェクト」のために需要が増して発達したものであり、主人公たちが所属する特車二課も警視庁の一組織に過ぎない。どの設定も詳細に詰められており、非常にリアリティがある。
「この物語はフィクションである。…が、10年後においては定かではない」というアニメのエンドテロップが象徴的だが、『パトレイバー』の世界は現実と地続きの近未来なのだ。

劇中の日常と視聴者側の日常を地続きにするための方法の一つが、実在の地名と地理をふんだんに用いる手法だった。とりわけコミックス1巻はそのことを強烈に印象づけている。
また、実在の住宅や商店街の中で全高6mから8mほどのレイバーが戦う姿は、日常との地続き感を強く印象づける。

「僕たちはロボットアニメの主人公じゃない。法令遵守、街と人々を守る警察官なんです」

イングラムに乗っていた男性隊員はこう言う。『パトレイバーREBOOT』が『パトレイバー』の世界のど真ん中をヒットするために必要だったのは、メカニックの精密な描写や迫力のあるアクション、イキのいいキャラクター造形もさることながら、第二小隊の隊員たちが必死になって守る“街”と“人々”の姿だったのだと思う。逆に言えば、そこを押さえずに好き勝手に作っても『パトレイバー』らしさは生まれないだろう。

余談だが、『パトレイバーREBOOT』の時代設定は、日暮里駅前のタワーマンション「SUN MARK CITY」が映っているので07年以降ということになる……と書こうと思ったら、ニコ生のユーザー生放送サービス開始は08年12月だった。と思ったら、エンディングの遠景に千駄木にあるNTT東日本の駒込データセンターが写っていたので12年以降ということに……。女性隊長が言っていた「現場においては臨機応変」という言葉は太田功の口グセ。

『機動警察パトレイバーREBOOT』特装限定版Blu-rayとDVDがバンダイビジュアルから発売中。
(大山くまお)