薬物依存の治療は街中でも可能(shutterstock.com)

写真拡大

 11月18日、歌手で女優の酒井法子の元夫・高相祐一容疑者が危険ドラッグの所持で逮捕された。2009年に覚せい剤取締法違反で懲役2年執行猶予4年の判決、2012年に危険ドラッグの所持で逮捕(嫌疑不十分で不起訴処分)と再犯の常習者だ。

 ASKAや清原和博、高知東生、高樹沙耶......。相次ぐ有名人の薬物問題の報道の度、薬物依存の社会復帰というテーマがクローズアップされる。

 「薬物疾患は慢性疾患」であると提唱する国立精神・神経医療研究センター・薬物依存研究部部長の松本俊彦医師に訊く第3回。薬物問題の第一人者である松本医師が、薬物依存の治療を解説する。

生活の優先順位が<クスリを使えること>に

――松本先生は、覚せい剤の一番の危険性はどのようなことだと思われますか。

 覚せい剤は最初、「気力が出る」「眠らなくても平気」という理由で使い始める人が多い。ところがすぐに、覚せい剤を使ってようやく<普通の状態>を維持し、クスリが切れると<疲れきった状態>に陥ります。

 最初は「24時間を30時間ぶん頑張れるように」と始めたのに、気づくと、1週間のうち薬を使って頑張れるのは2日で、残り5日は気力を回復させるためにぐったりしている――。

 そして、覚せい剤依存症になると、生活のなかでの優先順位の第一位が覚せい剤になってしまいます。それまで人生において大切だったもの。たとえば家族、将来の夢、財産、健康......。それよりも、<いまクスリを使えること>のほうが大事になってしまう。

 その結果、生き方が変わってしまい、それまでとは別人のような価値判断をするようになります。つまり、もともとの「自分らしさ」がなくってしまうこと、これが覚せい剤の怖ろしさだと思います。
<人里離れた施設に隔離>しなくても治療可能なプログラム

――松本先生は「SMARPP(スマープ)」という、薬物依存症患者の治療プログラムを開発したそうですが、これはどのようなものなのでしょうか?

 SMARPPの原型は、アメリカの西海岸で行なわれている覚せい剤やコカインの依存症の外来治療プログラムです。これを日本流にアレンジしたのが、私たちが使用しているSMARPPです。

 SMARPPの特徴は、マニュアルとワークブックに基づいたプログラムであるということです。

 ワークブックには、薬物の害に関する知識や、どのようなときに使いたくなるか、使いたくなったときにはどのようにすればよいかといった、「認知行動療法」的な、再乱用を防ぐためのスキルも取り上げられています。

 ワークブックを一緒に読み合わせることで進めていくので、医師ではなく、薬物依存症患者を援助した経験の乏しい医療従事者でも、一定のトレーニングを受ければプログラムを提供できるようになります。

 これまでのように人里離れた施設に隔離しなくても、街中の医療機関で行えるのも特徴です。

――このプログラムを受けることでクスリをやめられるようになりますか。

 SMARPPは現在、1週間1セッション、24セッションを1クールとして行っています。プログラムの効果については、以前に行っていた16セッションのデータしかありませんが、終了から1年後の状況を調査した結果、1回でも参加した人で前よりも改善した人は7割、一度もクスリ手を出さなかった人は4割でした。

 なかにはずっと断薬を続けて、ダルクなどの民間リハビリ施設のスタッフになった人もいます。

 特に注目すべき点は、従来の治療法に比べるとSMARPPは治療継続性が高いことです。依存症は<慢性疾患>ですから、治療は長丁場になります。

 そのためには、長く治療期間とつながることが必要です。そうすることで、ほかの社会資源ともつながりやすくなり、患者の社会的孤立を防ぐこともできます。

 また、SMARPPに参加する過程で、ダルクや自助グループなどの、他の社会資源を利用するようになる人も少なくありません。たくさんの支援機関や援助者ともつながるようになります。

 つまり、このプログラムは援助者と「より長く、より広く」つながることを助ける効果があるのです。

――治療プログラムを受けた後、<ずっと覚せい剤から離れる>には何が大切ですか。

 「早く仕事をして社会復帰を」という人もいますが、頑張って仕事をしてお金が手に入ると、それでクスリを買いたくなる人は少なくない。いきなり目一杯、仕事をするよりも、まずはリハビリ中心の生活を心がけてほしい。

 もちろん、出口が見えないままプログラムを続けても、希望がなくなっていきます。いずれは仕事とリハビリを並行しながら、地域で生活できるようになることが目標です。

 ただし、覚せい剤で服役すると、出所後になかなか仕事は見つかりにくいですよね。だから、薬物で罰せられた人を社会から排除するのではなく、社会の側も彼らが再び普通の生活に戻れるように受け入れることが大事なんです。

 社会生活のなかで<薬をやめ続ける>ためのサポートが、一番の治療法だと思っています。
(取材・文=里中高志・ライター/精神保健福祉士)


松本俊彦(まつもと・としひこ)
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長。1993年、佐賀医科大学医学部卒業後、神奈川県立精神医療センター、横浜市立大学医学部附属病院精神科などを経て、2015年より現職。日本アルコール・薬物医学会理事、日本精神科救急学会理事、日本青年期精神療法学会理事。著書に『薬物依存の理解と援助』(金剛出版、2005)、『自傷行為の理解と援助』(日本評論社、2009)、『自分を傷つけずにいられない』(講談社、2015)、『よくわかるSMARPP─あなたにもできる薬物依存者支援』(金剛出版、2016)などがある。