全国を走る路面電車の旅 第17回 熊本市交通局

 

繁華街を通り抜ける熊本市電。そして仰ぎ見るのは熊本城……。熊本市を象徴するような光景である。熊本にとって市電は欠かせない存在だ。“火の国”を揺るがした熊本地震が起こったものの、今日も通勤通学の足として利用する熊本市民、または観光客を乗せて、市電は走り続ける。

↑熊本の中心街へはJR熊本駅からは熊本市電の利用が便利。市電に乗車すれば約15分の距離だ

 

【歴史】初めから市が運行した、めずらしい路面電車

熊本市電の歴史は1924(大正13)年、熊本駅前と浄行寺町・水前寺の間に線路が敷かれたことに始まる。路面電車を走らせるべく企画・設立された会社こそ民間組織だったが、その後、路線を開業させた事業者は熊本市電車部。つまり路線開業当時から熊本市自らが運行する市電だったわけである。

 

全国を見ると、いまでこそ公営の路面電車が多いものの実は最初から公設の路面電車で、いまも残る路面電車というのは国内では熊本市電のみなのだ。

↑最古参1060形とレトロな外観の8800形(101号車)が通町筋(とおりちょうすじ)ですれ違う

 

【車両】古いものを尊ぶ一方で新技術も積極的に導入

熊本市電の車両をみておこう。昭和20年代の中ごろに誕生した1060形が最古参。昭和30年代に生まれた1080形、1090形、1200形、1350形といった車両も、まだまだ立派な現役だ。

↑日本初のVVVFインバータ制御を採用した8200形。8202号車が終点の健軍町電停に到着した

 

近年になって導入された車両の代表格が8200形。1982(昭和57)年生まれの車両である。国内の営業用電車として初のVVVFインバータ制御という技術を採用した画期的な車両で、鉄道友の会からローレル賞が贈られた。VVVFインバータ制御という技術。いまでこそ、国内を走る電車には当たり前のように使われている。

 

VVVFインバータを日本語に訳すと「可変電圧可変周波数方式」。電気の仕組みなどにめっぽう弱い筆者としては、解説を何度読みなおしても“なんのこっちゃさっぱりわからん”わけなのだが、この制御を取り入れることによって、電車のスピードの加減などが効率的になり、ひいては省エネルギー効果も期待できるという代物らしい。そんな方式を国内で最初に取り入れた熊本市電は、実に先進性に富んだ路面電車だったわけである。

↑9700形は日本国内で初めて造られた超低床車となった。熊本市電の車両は先進性に富む

 

その後に導入された車両としては9700形にも注目したい。1997(平成9)年に誕生したこの車両は、国内の車両メーカー(新潟鐵工所=その後、会社は解散して技術は新潟トランシスに引き継がれた)で初めて造られた超低床路面電車で、全国の路面電車が超低床車両を導入するさきがけとなった車両でもある。

 

熊本市電は古いものを尊ぶ一方で、こうした新しい技術導入にも積極的だ。熊本を訪れたら、多種多彩な車両の乗り比べも楽しい。

↑0800形の0803号車の愛称は「COCORO(こころ)」。水戸岡鋭治氏がデザインを担当した

 

【沿線】水と森の都を巡る熊本市電の電車

古くから“水と森の都”と称えられる熊本市。そんな美しい街なかを熊本市電は走る。営業距離12.1キロ。JR熊本駅や上熊本駅と、街の中心部を結ぶ、重要な交通機関として熊本市電は欠かすことのできない存在になっている。

 

熊本市電の路線数は別記の通り5本と多いが、運転系統はA系統とB系統のみ。そのうちA系統は田崎橋(熊本駅前のやや南に電停がある)と健軍町を結ぶ電車、B系統は、上熊本駅前と健軍町を結ぶ電車だ。辛島町と健軍町の間は2系統が重複して走る。誤乗車を避けるために、電車の正面に赤い「A」と青の「B」の案内板が掲げられ、また行き先表示も同様に色分けされている。

↑地震前の熊本城。元の姿を早く取り戻して欲しい(大小天守の修復作業は平成31年3月完了予定)

 

熊本で人気の観光スポットといえば、熊本城や水前寺成趣園が思い浮かぶ。熊本市電には「熊本城・市役所前」「水前寺公園」というずばりその名の電停があり、ここで降りれば迷うこともない。ちなみに「動植物園入口」「本妙寺入口」という電停もあり、それぞれ最寄りであることがわかるので便利だ。

 

【TRAIN DATA】

路線名:幹線(熊本駅前〜水道町)、水前寺線(水道町〜水前寺公園)、健軍線(水前寺公園〜健軍町)、上熊本線(辛島町〜上熊本駅前)、田崎線(熊本駅前〜田崎橋)

運行事業体:熊本市交通局

営業距離:12.1km

軌間:1435mm

料金:170円(全線均一)

開業年:1924(大正13)年

*熊本駅前〜水道町(浄行寺前まで支線が開通・同浄行寺前電停は1972年に廃止)〜水前寺間が開業