『マッド・ドライヴ』 (C)AI KYF Productions Limited 2015

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【映画を聴く】『マッド・ドライヴ』前編
ブリットポップ・ブームの盛衰の影で殺人が!?
異色のサスペンス・スリラー

『マッド・ドライヴ』は、1997年のロンドンの音楽業界を舞台としたサスペンス・スリラー。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』でニュークスを演じたニコラス・ホルトが、のし上がるためなら人を殺すことも厭わないレコード会社のA&Rを演じる。音楽は同じく『マッドマックス 』にマッシヴでキレのあるサウンドを提供したジャンキーXL。当時世界中を賑わせたイギリスのヒット曲の数々が、スリリングなストーリーをさらに加速させている。

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97年のロンドンといえば、オアシスとブラーを中心とする空前のブリットポップ・ブームが終息を迎えつつあった時期。95年の同日にシングルをリリースして以来、両バンドは熾烈なセールス競争とメディア上での舌戦を繰り広げていたが、97年にはそれぞれにブームから一定の距離を置くような作品を発表。リスナーの狂熱も急速にクールダウンし、トレンドは彼らのようなバンド・サウンドからスパイス・ガールズ、ロビー・ウィリアムズのようにライトなダンス系へとシフトしつつあった。

ニコラス・ホルトの演じるスティーブンは、レコード会社でA&Rという肩書きで仕事をしているが、このA&Rとは“アーティスト&レパートリー”の略。毎日会社に送られてくる膨大なデモ音源に耳を通し、ライヴハウスなどに足を運び、新人アーティストを発掘するのがおもな役割だ。つまり、レコード会社の命運を左右する重要なポジションにあるわけだが、スティーブンは音楽そのものにまったく興味がなく、地位と金のことしか頭にない。そしてついに、彼はある日、出世のために同僚に手をかけてしまう。

そんな人物なので、彼が目をつけるアーティストや楽曲はどれもインパクト重視の軽薄なものばかり。セクシーなだけで歌もダンスも苦手なガールグループや、単調なビートに乗せてゲスな放送禁止用語を連呼するだけの曲など。玉石混淆だった当時のイギリス音楽シーンにあって、“玉”ではなく“石”を発掘し続けたA&Rとして描かれているわけだ。その結末からすると本作はサスペンス・スリラーであると同時に、超辛口なブラック・コメディとして見る向きもあるだろう。(後編へ続く…)

後編「腹黒い業界人たちが、年間10億ポンドの売り上げの裏でこんなことを…!?」)