新生ロマンポルノ:行定勲監督が描いた日常に散らばるセックス「君、脱げんの?」

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『ジムノペディに乱れる』:行定勲監督と芦那すみれが挑んだ不器用な大人の愛。

『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004)などで知られるラブストーリーの名手・行定勲監督が、板尾創路演じる自暴自棄な映画監督を主人公に、切なく不器用な大人の愛を官能的に描いた『ジムノペディに乱れる』 。ヒロインに抜擢した透明感あふれる気鋭女優・芦那すみれとともに、行定監督が自身初となる日活ロマンポルノを語る。

-主人公はやさぐれた映画監督ですが、なぜこの設定を選んだのですか?

行定監督:この映画の主人公は、映画監督じゃないとダメだったと思うんですよ。社会的な仕事をしている人だと、こうはならないんですよね。20〜30年くらい前、僕が助監督をやっていた頃の映画監督たちって、ふらっとどこかにいなくなっちゃうんですよ。携帯もない時代だから、演出部から制作部から美術部から、みんないつでも監督のことを探していた。もっと言えば、愛人の女から、女優から、みんな監督を探していた。だから助監督が、「おれ、行きそうなところ探してきます!」とか言って探しに行くわけです。当時の監督たちの武勇伝ですね。

-かつての映画監督たちのやんちゃな姿ですね。

行定監督:でも現代になって、監督たちも女優たちも型破りなものは抑制されていって、決まりきったものになってきた。すると監督たちは、例えば一番手頃なところで映画学校の生徒とかに手を出したりする。大学教授とかが生徒に手を出したりすると大問題になるけど、映画監督だとなぜか許されるという不思議な幻想(笑)。映画監督って金も持ってないし、生徒に手を出した挙句にメシをおごらせたりするけど、ただ節操がないわけでないんですよ。普通の社会人を主人公にすると、森田芳光監督の『愛と平成の色男』みたいにスーパー企業マンみたいになってしまって、「なんでこいつこんなにモテ男なの?」って違和感になっちゃうけど、映画監督だとなぜか成立するという幻想です。


(C) 2016 日活

たとえば飲み会。タバコをふかしながらものすごく考えてるような顔して、みんなが盛り上がってるところに、「それはさ、ちょっと違うと思うな」とか言って突然席を立ってどこか行っちゃう。そうすると、女優の卵とかが「監督、どこいったんだろう? ちょっと見てきます」とか言って探しに行く。そいつは外で月とか見ながらただタバコ吸ってるだけなんだけど、「半月ですね」「そうだね」「キレイだね」「この後どうしてんの?」みたいな(笑)。こういう映画監督、たくさん知ってます。世界中にいます。(笑)。そういう監督たちの合わせ技が、この映画の主人公です。

-いますね(笑)。

行定監督:でも、映画監督たちが苦労しているっていう状況は、僕には如実にわかるわけです。常に見えない敵、資本と戦っている。日本映画界の場合、どんな巨匠といっても裕福じゃない現実があるんですよ。この業界って先輩も後輩もないから、「お前、儲かってるみたいだね」とか先輩に言われて、「じゃあ、俺ここ出しますよ」とか言うと、「じゃあ、俺次出すよ」とか言いながら、絶対に次も出さないんですよ。そもそも財布にお金、入ってないんですよ(笑)。

-ひどいですね(笑)。

行定監督:たいがい黙っていつもニヒルに笑ってるような監督たちには、映画祭とかでも部屋のベッド温めてる女がいるんですよ(笑)。おれこんなにクタクタになって場を盛り上げてるのに、「なんじゃそりゃ!」って感じ。でも、そういう処世術として人を魅了する監督っているんです。得体が知れなくて曖昧でしゃべりすぎないヤツ。僕はどこか、そういうのに憧れてるんですけどね。だから、憧れの対象として描いた側面もあります。

-でも、映画監督が映画監督を描くって、ちょっと恥ずかしくなかったですか? 自分の実体験だと思われそうで(笑)。

行定監督:そう・・・でも、明らかに違うから! おれを知らない人は「なんだよ、お前モテモテだな。それをひけらかしたかったのか?」とか言うんですよ(笑)。でも俺をよく知ってる人は、これが俺じゃないってことはわかります。


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ーそんな無頼な主人公ですが、キャスティングは行定監督ご自身で?

行定監督:板尾さんとは釜山映画祭で初めて会ったんですよ。板尾さんは監督として映画祭に参加して、そのときの板尾さんの居住まいがすごく良かったんです。

飲み会で、女の子たちが「板尾さん、『ダウンタウンのごっつええ感じ』見てたんです」とか言うと、板尾さんは「あ、そう。でも昔のことやからね」とかぼそって言って。ほとんど喋らずに、「僕もまだ映画ってものはわからないですね」とか言うんです。で板尾さんが帰ると、「板尾さん、かっこいい!」ってその場の女子全員が言うんですよ。そのときの飲み会もおれが盛り上げたんですけどね(笑)。

-ものすごいハマり役だったんですね(笑)。

行定監督:板尾さんて映画監督だし、映画監督の居住まいがあるんですよ。女にモテるというよりは、女がくっついてくるっていうか。そういう人が一週間フラフラとさまよう話です。

ーその相手役の学生を演じた芦那さんですが、行定監督との出会いは?

芦那:去年の釜山映画祭です。韓国語の勉強をしている時期に、目標がないと上達しないので、釜山映画祭に遊びに行くことを目標に勉強していたんです。その時私は、『転校生』という舞台をやってたんですけど、行定監督の舞台『タンゴ・冬の終わりに』がたまたま隣のスタジオでリハーサルしていて。『転校生』を見に来てくれたプロデューサーの方が行定監督を紹介してくださって、それがちょうど1年くらい前ですね。

ー行定監督が、芦那さんを今作の主演に抜擢した理由とは?

行定監督:本当はその時、ロマンポルノは撮り終わっていたはずなんですよ。でも、最初のシナリオがボツって、まあ、要するに腐ってたんですね。「10分に1回セックスシーンがあればあとは自由です」って言ってたのにボツ。園子温監督は自由にやってるのに、なんで俺は自由にできないんだよって。でもプロデューサーが粘り腰でいてくれて、そこには答えたい気持ちもあって。それに、やっぱり「日活ロマンポルノ」っていうものが魅力的だったんですよね。その歴史の中に自分が名を連ねられるならやろう、これを断ったらもう二度とオファーこないだろうと。

それで、彼女に「君、脱げんの?」って聞いたら、「脱げますよ」と。「そんなこと言ってるけど脱ぐの大変だよ」って。飲み会とかに若い女優がいると、「脱げんの?」って聞くのは映画監督にとってひとつの常套句みたいなものなんです。つまり、根性を試しているわけです。「脱げるの?」ってことは、「作品のために何でもできるの?」って意味ですから。


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ー今と昔で、ソ優が脱ぐイ箸いΔ海箸琉嫐9腓い変わってきていると思いますが、脱ぐことに抵抗はなかったですか?

芦那:そうですね。全く抵抗なかったです。「え、脱いだの?」という周りのリアクションが、そもそもよくわからないんです。フランス映画が好きっていうのもあるんですけど、脱ぐ、脱がないっていうことに対しての感覚が、もしかしたら日本人の感覚から離れているのかも? とにかく、イ修譴作品にとってベストだったら全然いいイ箸いΦせちでした。ただあまり胸があまり大きくなかったので、そこに関しては心配でした(笑)。

ー脱ぐ、脱がないを抜きにしても、行定監督の現場です。緊張感あったのでは?

芦那:緊張感はすごくありました。現場にいる監督は、当たり前だけどやはり普段の監督と違って、まさしく現場のツ骨イ任靴拭だから1日目は、何をどうしたらいいのかわからない状態でした。

私はもともとミュージシャン(BOMI名義)なのですが、ミュージシャンの時は自分が感じたこと、思ったことを世の中に発信する立場なんですけど、役者としてお芝居をするというのは、映画というチームの中で、素材として使われて、与えられた役割を全うする立場なんです。真逆のアプローチだけど、だからこそ面白いのかなと。お芝居では新人なのでこれから学ぶことが多いけれど、このタイミングで芝居を始められたこと、長編映画初出演で行定監督にヒロインとして選んでいただけたことは本当にありがたい機会だと思っています。

ー女優、芦那すみれは、行定監督から見てどんな女優でしたか?

行定監督:これからでしょう。新人の女優さんって、監督にとっても得なんですよ。最初の頃は演じるっていうことが何なのか戸惑いもあるから、女優の本質の部分がむき出しになる。長澤まさみも、柴咲コウも、綾瀬はるかもうそうでした。そのむき出しの感じを撮れたのはラッキーだったと思います。数年やると、色々なことを覚えちゃって、余計なものもくっついてくる。5〜6年後もまだ女優をやっていたら、それも含めて受け止めたいですけどね。


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ー行定監督に女優ヴァージンを奪ってもらえて、本当にラッキーですね。

芦那:本当にみんなにそう言われます。また一緒にやれるように、超高速スピードで成長できたらと思います。

ー日活ロマンポルノは「10分に1回の濡れ場」などの制約もありますが、それらの制約を守りさえすれば他は比較的自由に作れますよね。自由度が高い分、原作モノと比べてゥリジナルで面白いものを作らないとイ箸いΕ廛譽奪轡磧爾和腓いのでしょうか?

行定監督:他の作品と変わらないですね。オリジナルである方が、楽なことは楽なんですよ。小難しいことを主人公に考えさせるとか、余計なことがいらないので。要は何をテーマにするか、どう仕上げるというだけ。オリジナルって、やっぱりどこかが自分なんですよね。自分の物語だったり、自分が語りたい物語だったり。オリジナルの場合は作家の部分も垣間見せないといけないんだけど、僕は映画監督であって作家ではないんですよ。映像作家と名乗る方もいます。たとえば岩井俊二は、自らの文章とともに言葉とともに映像を作って、自分のスタイルでしかやらないまさに映像作家です。

でも僕はそうじゃない。温故知新を踏襲したものもあれば、全然そうじゃないものもあれば、熊本で撮ってるような実体験から生まれる短編とかもあります。オリジナル作品には自分がどこかにいないといけない、そういう意味でも映画監督を描くことは楽で、でも映画監督を描くからって実録モノかといえばそうじゃないんですよね。僕のあまりにも貧相な日常じゃつまらないので、そこは作劇しないといけない。そこで映画のモデルになるような人たちの話を色々なところで拾ってきて、合わせ技で物語を紡いだんです。

とはいえ、原作があってもやってることは一緒なんですよ。原作があったとしても、それを自分に寄せないと結局は作れない。そうしないと理解が深回らないし、自分の映画にならない。だから少女漫画原作のオファーが来ても、フォルムとかカット割りだけにこだわるんならやらないし、それらをぶち壊して自分に寄せることができるならやる。作業としては変わらないんですよ。

オリジナルはゼロからやらなきゃいけないので、まずはどういう概念で挑むかです。『牝猫たち』の白石和彌監督はオマージュで挑んでいるけれど、ぼくはそのスタイルはやめようと思った。はっきりいって、当時の映画には太刀打ちできないんです。だって当時は、セット組んで、シネスコ35ミリで予算かけて作っているんですよ(笑)。だからそういうところで争っても仕方ない。「10分に1回の濡れ場」という規定を守りながら、いつもの自分のスタイルでオリジナル作りを楽しもうと思ったんです。

あの時代はあの時代で、フラットに考えて題材を見つけていた。だから僕も、今の時代の日常に散らばっているセックスのきっかけを、リアルに作れないかと考えたんです。だから、「板尾さんの役は行定監督ですか?」って言われると一番しめしめと思うんです。本当にそうだとしても、「そうですよ」って言うはずがないんだけど(笑)。「あんなにモテるの?」っていう負け惜しみを言う同業者がいたら、それくらい真実味を持たせられたってことですからね。

映画作っていて自信持ってるやつなんて、僕は一人も知らないです。この映画の主人公も、ダメなくせに映画にこだわっている。たまに自分の映画が大好きな人とかいますけどね(笑)、ほとんどの映画監督は常にビクビクして生きてるんです。文句を言われるのを承知で映画を作ってる。荒井晴彦さん(『赫い髪の女』『嗚呼!おんなたち 猥歌』『遠雷』『Wの悲劇』などの脚本家)は絶対文句言うはずなんですよ(笑)。でも、ダメだと言ってくれないと困る。そう言ってくれないと、この映画には存在価値がないんです。


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行定勲(ゆきさだ・いさお)
1968年、熊本県生まれ。長編第一作『ひまわり』(00)が第5回釡山国際映画祭の国際批評家連盟賞を受賞。『GO』(01)で、日本アカデミー賞最優秀監督賞をはじめ国内外で50もの賞を受賞。『世界の中心で、愛をさけぶ』(04)が観客動員620万人、興行収入85億円、その年の邦画1位を記録する大ヒットに。10年には『パレード』が第60回ベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞。近年の作品として、『円卓』(14)、『真夜中の五分前』(14)、『ピンクとグレー』(16)、熊本を舞台にした『うつくしいひと』(16)など。今後の待機作は『続 うつくしいひと』(17年4月以降公開)と『ナラタージュ』(17年秋公開)などがある。


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芦那すみれ(あしな・すみれ)
大阪府出身。2015年、21世紀の女優発掘プロジェクトとして行われた本広克行演出・平田オリザ作の舞台『転校生』で女優デビュー。TBS『ディアスポリス異邦警察』では謎のハッカー「ラニーニャ」役で話題に。BOMI名義でミュージシャンとしても活躍中。本作が長編映画初出演となる。

『ジムノペディに乱れる』
監督:行定勲
出演:板尾創路、芦那すみれ、岡村いずみ、木嶋のりこ、風祭ゆき
11月26日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
http://www.nikkatsu-romanporno.com/reboot/gymnopedies/

ロマンポルノ・リブート・プロジェクト
日活ロマンポルノとは、1971年に映画会社の日活が打ち出した当時の映倫規定における成人映画のレーベル。「10分に1回絡みのシーンを作る」「上映時間は80分程度」などの一定のルールと製作条件以外、比較的自由に映画を作ることができたため、若手監督の登竜門的存在だった。1988年までの17年間に約1,100本もの作品を発表し、現在も国内外で高い評価を集めている。2012年に実施された「日活ロマンポルノ」特集上映は、若い世代や女性層など、これまでロマンポルノに触れる機会がなかった新しい客層の開拓に成功。これを契機に、日本映画界の第一線で活躍する映画監督5人が、これまでと同様の製作条件を引き継ぎつつ、現代ならではの新たな表現方法で歴史あるレーベルに新風を吹き込んだ。

『風に濡れた女』
12月17日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開     
『牝猫たち』
2017年1月14日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開  
『アンチポルノ』
2017年1月28日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開   
『ホワイトリリー』
2017年2月11日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開